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スマートフォンタブレット、あるいは専用リーダーの普及によって、電子書籍に触れる機会はかなり多くなっています。そんな中でも大学生の92%が紙の本を好むという調査結果や、16歳から24歳の若い世代でも3人に2人が紙の本を好むというレポートがある通り、紙の本は根強い人気を誇っています。

しかしながら、さまざまな実験や世論調査の中で、スクリーンや電子書籍リーダーは紙の本の触覚的な体験を見逃してしまっているほか、長文を直感的に読み進めることが満足に行えないとされています。

その理由のひとつとして、Scientific Americanは「テキストを風景としてナビゲートする」ことを挙げています。開いたページにテキストがどのように配置されているかという「テキストの風景」は、読者にテキスト全体を見失わせることなく1ページに集中させることができるとのこと。画面や文字の大きさでテキストが再配置されることの多い電子書籍と比較して、紙の本は明らかな地形を持っており、そのページをめくることは歩いてきた道に足跡を残すようにリズムがあり、どれだけ進んだかという記録をありありと感じることができると述べています。

Microsoft Research Labの研究者で「ペーパーレスオフィスの神話」の共著者であるアビゲイル・セレン氏は、「今の自分が本のどこを読んでいるのかという感覚は、私たちが認識していた以上に重要です」と述べ、「電子書籍を読むときにはそれを見逃し始めてしまいます。電子書籍メーカーは、今あなたが本のどこにいるのかを視覚化する方法について十分に考えていないと思います」と電子書籍のデメリットについて強調しています。

もう一点、重要な観点として、「知る」と「覚える」の違いについてScientific Americanは紹介しています。2003年にレスター大学で行われた調査では、大学生50人に経済学入門の教材をモニターまたは小冊子で読ませ、20分後に選択問題でテストを行いました。結果として紙で読んだ学生とモニターで読んだ学生とで同等のスコアを獲得したのですが、情報の記憶方法が異なっていたそうです。

テストの際、教材をモニターで読んでいた学生は短期的な「覚える」記憶に頼る傾向にあった一方で、小冊子で読んだ学生はどのような文脈でどのようにその情報を目にしたかという長期的な「知る」記憶となっていたとのこと。情報として目にするだけならディスプレイでも問題ないが、知識として獲得したいなら紙の本の方が向いていると結論付けられています。

「テキストを集中的に読むとなると、紙とインクにはまだ利点があるかもしれません」とScientific Americanは最後に述べつつ、一方で「しかし、テキストが唯一の読書対象ではありません」と新しいアイデアを提示しています。マンガや画集などスクリーンで読むことに向いた作品があったり、あるいは電子書籍リーダーの仕様によりマッチした書籍というものもあったりと、電子書籍は紙の単純移植や紙の本に近い体験の重視だけではなく、新しい読書体験を追究すべきだと主張しています。