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捜査機関による取り調べの録音・録画や、事件現場の防犯カメラの映像は、刑事裁判で重要な証拠として扱われています。

こうした映像について被告側は、内容を確認して弁護活動に使うため検察庁にコピーの提供を求めることができますが、全国50の地方検察庁で提供の方法が異なり、費用負担に大きな差があることがNHKの調査でわかりました。

このうち大阪や東京など8つの検察庁では、専門のコピー業者などが窓口となっているため、人件費などの手数料が必要で、その料金もブルーレイディスクの場合、1枚300円から1200円まで4倍の差があります。

また、30の検察庁では手数料は取らないものの被告側がディスクを用意するよう求めています。

これに対し、和歌山や広島など9つの検察庁はコピーしたディスクを無料で貸し出しているため被告側に費用負担は生じません。

これについて最高検察庁は「映像のコピー料金は業者などが決めているので検察庁は関与すべき立場にない」としています。

NHKが各地の地方検察庁弁護士会を取材した結果、被告側の弁護士が検察から証拠映像のコピーの提供を受ける方法は大きく3つに分類されます。

1つ目は専門の業者が間に入る方法です。8つの検察庁で行われていて、東京、大阪、京都は、検察庁のOBなどで作る専門の業者が、横浜、さいたま、千葉は裁判所で資料のコピーなどを担う司法協会が、神戸、福岡は、弁護士会の協同組合が窓口となっています。

料金に統一的な基準はなく、ブルーレイディスクの場合、最も高いのは大阪に2つある業者のうち1つの1枚1200円、最も安いのは東京と大阪のもう一つの業者の300円で、4倍の開きがあります。

こうした費用は、国選の弁護士の場合は実質的に無料となりますが、私選の弁護士はすべて被告本人の負担となります。

こうした運用の理由について、それぞれの検察庁弁護士会はいずれも経緯が分かる記録は残っておらず、はっきりとした理由は分からないとしています。

2つ目の方法は検察庁に弁護士がディスクを持って行き、データを入れてもらう方法で、札幌から那覇まで30の検察庁で行われています。

手数料は取られないため、経済的な負担はディスクそのものの代金だけですみます。

また甲府、福井、宮崎の3つの検察庁は、検察庁弁護士会が機器を設置し、弁護士が自分でコピーする方法を取っています。

3つ目は無料の貸し出しです。和歌山、広島、山口、岡山、鳥取、松江、徳島、高松、松山の9つの検察庁では、データを入れた媒体を無料で貸し出し、裁判が終わった段階で返却するという方法で、被告側に経済的な負担はありません。

証拠映像のコピーを得るための費用が最も高い大阪では、弁護士から、弁護活動に支障が出かねないとして改善を求める声が上がっています。

大阪弁護士会に所属する山本了宣弁護士は、みずからが担当した裁判員裁判で必要な映像のコピーを入手しようとしたところ、10数枚のディスクだけで数万円を請求されたということです。

山本弁護士は重大事件などでは弁護活動に必要な映像がさらに増え、費用負担も大きくなるおそれがあると指摘しています。

そのうえで「検察と情報格差がない状態で裁判を行うために、証拠が手元にないといけないが、入り口で、ものすごくお金を取られ大きな壁を作られている。裁判でのえん罪をなくすためにも、情報のハードルをなくすことが不可欠だ」と話しています。

山口地方検察庁は、弁護士の求めに応じて証拠となる映像のコピーを無料で貸し出しているため、被告側に経済的な負担はかかりません。

山口県弁護士会で刑事弁護委員会の委員長を務める横山詩土弁護士は「映像の証拠は、検察庁が裁判に必要だと言っているものなので当然、無料で出すべきで、費用が必要になってくるとしても国が予算を組むなどして負担してほしい」と話しています。

大阪では専門の業者などが窓口となって証拠映像のコピーを被告側に渡しています。

大阪地検には職員のOBなどで作る業者と個人経営の業者の2つが公募で入っていますが、先月まではブルーレイディスク1枚に2100円から2500円の手数料を取っていて、一部の弁護士から高すぎるという声が上がっていました。

いずれの業者も取材に対して、ディスクそのものの代金と手間や作業時間を考慮して料金を決めていると説明し、今月から大幅に値下げしました。

このうち1200円まで料金を下げた個人経営の業者の西村哲朗代表は検察の担当者から「ほかの地方ではさらに安い値段で行っている」と伝えられ、値下げを決めたということです。

西村代表は「これまで1枚1枚、ずいぶん手間がかかったが、慣れてきて簡単に何枚も量産できるようになったので、もう一方の業者とも話し合って値下げを決めた。検察庁から値段のことを言われたのは今回が初めてだ」と話しています。

刑事裁判の証拠開示制度に詳しい龍谷大学法学部の斎藤司教授は「刑事裁判は国の制度であり、地域で差が出るのはおかしなことだ。裁判は被告側が十分な防御活動をすることが前提で、証拠を得るための負担を可能なかぎりなくすことが、公正な裁判の実現につながる。費用の負担をなくすために、例えば証拠を全部データ化してサーバーに登録し、弁護士がウェブサイトで自由に閲覧できるようにするなどの検討が必要だ」と指摘しています。