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原口アヤ子さん(92)は昭和54年、鹿児島県大崎町で当時42歳の義理の弟を首を絞めて殺害したとして、殺人などの罪で懲役10年の刑が確定して服役しましたが、一貫して無実を訴え再審を求めていました。

おととし6月、鹿児島地裁が再審を認めたのに続いて、去年3月、福岡高裁宮崎支部は、弁護側が提出した遺体の鑑定結果を新証拠にあたると判断したうえで「被害者の死因は首を絞めたものではなく、自転車で溝に転落した事故による出血性ショックの可能性が高い」として、再審を認める決定を出していました。

これについて最高裁判所第1小法廷の小池裕裁判長は「新たな鑑定結果は、遺体を直接調べたものではなく、過去に行われた鑑定の情報や、解剖の12枚の写真からしか情報を得られず、証明力には限界がある」と指摘しました。

そのうえで「共犯者の自白などは客観的状況にもあっていて信用性は固く、新たな鑑定結果で共犯者の自白などに疑問が生じたというには無理がある」として、26日までに鹿児島地裁福岡高裁宮崎支部の決定を取り消し、再審を認めない決定をしました。

原口さんの死亡した元夫についても再審を認めない決定をしました。

5人の裁判官の全員一致の意見でした。

地裁と高裁でいずれも再審が認められた決定を最高裁が取り消すのは、昭和50年に「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が再審の判断にも適用されるようになってからは初めてとみられます。

原口さんは「私は無実です。死ぬまで頑張ります」として、これまで3度にわたって再審を求める訴えを起こし、地裁と高裁で合わせて3回、再審が認められていました。

弁護団が記者会見を開き、森雅美弁護団長は「まさかこういう決定が出るとは、残念というよりは力が抜けた。がく然としている。ご本人にどう伝えるか、ことばもない。再審の開始を待っていただけなので、こういう会見を開かなければならないことが残念でならない」と述べました。

そのうえで最高裁は、12枚の写真だけでこれまでの自白を覆すには足りない、言ってみれば写真ではだめだと判断したということだ」と述べました。

今後については原口さんが92歳と高齢であることを踏まえ、「これでやめるということは考えていないが、一からやり直すとして原口さんが生きている間に可能かどうか何とも言いようがない」と述べました。

弁護団の事務局長を務める鴨志田祐美弁護士も会見を開き、「無実を40年間叫んでいる92歳の原口アヤ子さんが人生をかけて闘っていることに対して、司法の最高府がちゃんと向き合っていない。もし本当に疑問があるなら下級審に差し戻してもう1回調べろと言うべきで、そのようなこともせずに最高裁が取り消すのはあまりにも横暴だ。司法の最高府としてやるべき責任を果たしておらず、人権を守る最後のとりでではなく権力を守るとりでになっている」と批判しました。

決定についてアヤ子さんの娘の京子さんに報告した際、京子さんは「裁判所のトップが決めたことなのであれば日本の恥だ。母も私ももう少しで楽になれると思っていた。これからも諦めずに闘い続けていきたい」と話していたということです。

昭和54年、大崎町で当時42歳の男性が自宅の小屋で遺体で見つかりました。

首には絞められたような痕があったとして警察は殺人事件として捜査し、男性の義理の姉にあたる原口アヤ子さんと元夫など合わせて4人を逮捕しました。

裁判で検察は、原口さんが元夫にタオルを渡して首を絞めるよう指示し、元夫が首を絞めて殺害したなどと主張しました。

原口さんは一貫して否認し続け、最高裁判所まで争いましたが懲役10年の刑が確定しました。

原口さんの元夫も共犯として懲役刑が確定し、その後、死亡しました。

服役後も無実を訴え続けた原口さんに弁護団が結成され、平成7年、鹿児島地裁に再審を求めました。

平成14年、一度目の再審請求で鹿児島地方裁判所が再審を認める決定をしましたが、その後、取り消されます。

再審請求のポイントの1つが「被害者はタオルで首を絞められて殺害されたとは認められない」とする専門家の鑑定書でした。

3度目の再審請求で裁判所は、専門家の鑑定結果などから「タオルで絞殺し親族とともに遺体を遺棄したという確定判決の事実認定について、殺害や死体遺棄がなかった疑いを否定できない」と指摘し、再審を認めました。

検察はこれを不服として即時抗告を申し立てましたが、去年3月、福岡高裁宮崎支部は「新たな証拠から被害者が殺害されたという前提がなくなり、犯人とみるのは相当困難だ」として再審を認めた地裁の決定を支持しました。

さらに検察は最高裁判所に特別抗告し、近く決定が出されるとみられていましたが、特別抗告から10か月後のことし1月中旬、検察が遺体の鑑定結果の信用性を否定する意見書を提出しました。

弁護団は「裁判を故意に遅らせている」として最高裁判所に反論の意見書を出していました。

弁護団はこれまで3度にわたって再審=裁判のやり直しを求めてきました。

1度目の再審請求では、平成14年に鹿児島地方裁判所が再審を認める決定を出しましたが、検察が即時抗告し、平成16年に福岡高等裁判所宮崎支部が決定を取り消しました。

弁護団は特別抗告しましたが、最高裁に退けられました。

弁護団は再び鹿児島地裁に再審を認めるよう求めましたが、平成25年に地裁が退け、福岡高等裁判所宮崎支部も認めませんでした。

最高裁も認めませんでした。

そして3度目の再審請求でおととし、鹿児島地方裁判所が再審を認める決定を出しました。

検察はこれを不服として即時抗告しましたが、去年3月、福岡高裁宮崎支部は、検察の抗告を退け、再審を認めた地裁の決定を支持しました。

これに対して検察が特別抗告したため、最高裁判所で審理が行われていました。

そして特別抗告から10か月後のことし1月中旬、検察は弁護団が提出した遺体の鑑定結果の信用性を否定する意見書を提出していました。

再審で高裁と最高裁の判断が分かれたのは、弁護団が新証拠として提出した遺体の鑑定結果についての評価が分かれたからでした。

原口さんの義理の弟にあたる当時42歳の男性の遺体は、自宅の小屋で堆肥に埋まった状態で見つかりました。

男性は3日前に酒に酔って自転車で溝に落ち、倒れていたところを近所の人たちに助けられて自宅に運ばれたあと、行方がわからなくなっていました。

その後、原口さんと知的障害のあった元夫など合わせて4人が、男性の首をタオルで絞めて窒息死させたなどとして、殺人や死体遺棄の疑いで逮捕されました。

原口さん以外の3人は裁判で起訴内容を認め、有罪判決が控訴せずに確定しましたが、原口さんは捜査段階から一貫して関与を否定し続け、最高裁まで争いましたが、懲役10年の判決が確定しました。

当時、男性の遺体を解剖した医師の鑑定では「遺体の腐敗が激しく、損傷や程度がはっきりと分からないが、首などに外部からの力を受けた痕跡があり、窒息死と推定するしかない」とされていました。

これについて原口さんの弁護団は3度目となった今回の再審請求で、別の法医学者が新たに行った遺体の鑑定結果を新証拠として裁判所に提出しました。

この新たな鑑定は、首を圧迫した窒息死であれば遺体は顔などがうっ血して腐敗すると黒くなるはずなのに、白っぽく、タオルで首を締めて殺したとする確定判決と矛盾していると指摘していました。

さらに、遺体の右側に打撲と推定される広い範囲の出血があり、遺体が見つかる3日前に溝で倒れていたことも考えると、死因は出血性ショックである可能性が極めて高いと結論づけていました。

殺人ではなく事故死だった可能性が高いという指摘です。

去年3月、福岡高等裁判所宮崎支部はこの新たな鑑定結果について、十分な信用性があり有罪の確定判決に合理的な疑いを生じさせる新証拠と評価し、再審を認める決定を出しました。

一方、最高裁判所はこの新たな鑑定結果に対し、複数の問題があると指摘しました。

まず、見つかった男性の遺体は腐敗していて、そもそも解剖で得られた情報が限定的だったうえに、新たな鑑定を行った医師は遺体を直接調べたわけではなかったことです。

新たな鑑定では、過去に行われた鑑定の情報や、解剖の際に撮影された12枚の写真からしか情報を得られていないことから、最高裁判所は「証明力に限界があると言わざるをえない」と指摘しました。

そのうえで、新たな鑑定が無罪を言い渡すべき明らかな証拠といえるかどうかについて「共犯者の自白などは客観的状況にもあっていて信用性は固く、新たな鑑定で共犯者の自白などに疑問が生じたというには無理がある」と判断し、鹿児島地裁福岡高裁宮崎支部が再審を認めた結論を覆しました。

原口さんの弁護士によりますと、原口さんは長らく1人暮らしでしたが、おととしから病院に入院していて、ことし1月末には体調を崩し、一時、命に危険もあったということです。

最近はベッドの上で過ごすことが多いものの、体調がいい日は看護師に車いすを押してもらいながら病院内を移動することがあるほか、電話で娘の声を聞かせると喜ぶしぐさを見せるということです。

今月は92歳の誕生会が開かれて支援者などの前に姿を見せていました。

元裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は「近年の再審では、1つの有力な証拠が崩れると有罪の確定判決の構成全体に疑いが生じるとして、再審が認められる傾向にあった。それだけに、今回、高裁に差し戻しもせずにみずから退けた最高裁の決定はかなり意外な判断だと思う」と話しています。

そして「今回の事件では、これまでに地裁や高裁が再審を認める判断を3回も示していることを踏まえると、有罪について合理的な疑いが生じていると考える余地はあると思う。しかし今回の最高裁の決定では、弁護団が示した新しい証拠がどれほど有力なものかについてかなり厳格な見方をしている。今後、再審開始に必要な新証拠をどのように考えればいいのか議論されることになるだろう」と話しています。

#結果無価値