https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com


昭和41年に今の静岡市清水区で会社役員の一家4人が殺害された事件では、従業員だった袴田巌さん(82)の死刑が確定しましたが、袴田さんは無実を訴え再審を申し立てました。


静岡地方裁判所は、4年前、犯人のものとされる衣類の血痕のDNA型が袴田さんと一致しなかったという弁護側の鑑定結果などをもとに、再審とともに釈放も認める異例の決定を出しました。


決定を不服として検察が抗告したため、東京高等裁判所でDNA鑑定が信用できるかどうかなどが改めて審理されました。11日の決定で東京高等裁判所の大島隆明裁判長は、静岡地裁の決定を取り消し、再審を認めない判断をしました。


決定では「地裁が認めたDNA鑑定の手法の科学的原理や有用性には深刻な疑問が存在している。血痕のDNA型が本人と一致しないという結果は信用できない」という判断を示しました。


そのうえで、地裁とは逆に、犯人のものとされる衣類は袴田さんのものだと考えて不合理な点はないという判断を示し、「確定した有罪判決の認定に合理的な疑いが生じていないことは明らかだ」と結論づけました。


一方で、地裁が認めた釈放については、「本人の年齢や生活状況、健康状態などに照らすと、再審についての決定が確定する前に取り消すのが相当とは言いがたい」として、取り消しませんでした。


弁護団は再審を取り消した決定を不服として最高裁判所に特別抗告する方針を明らかにしました。


袴田巌さんの再審をめぐっては、犯人のものとされる衣類が袴田さんのものかどうかが最大の争点でした。


この事件では発生から1年余りたってから、現場近くの工場のみそのタンクから犯人のものとされるシャツなど5点の衣類が見つかり、袴田さんのものだと認定されたことが有罪の根拠となりました。


これに対して、袴田さんの弁護団が推薦した専門家がシャツに付いた血痕のDNA鑑定を行ったところ、袴田さんの型と一致しないという結果が出たことから、静岡地方裁判所は再審を認めました。


この鑑定の際、弁護側の専門家は第三者のだ液などを誤って検出しないように、血液のDNAだけを抽出する独自の手法を使いました。


11日の決定で、東京高裁は5点の衣類の保管状況や期間の長さからDNAの分解が進んでいると指摘しました。


そのうえで、「弁護側の専門家の手法は新しいもので、本人以外の者が抽出に成功した例もなく、一般的に確立した科学的手法とは認められない」として、信用できないと判断しました。


また、4年前の地裁の決定では、不自然だと判断された5点の衣類の色についても、弁護側の主張を退けました。


弁護側は衣服をみそに漬けて色の変化を見る再現実験を行い、5点の衣類の写真と比較した結果、色の変化が不自然だと主張しました。


静岡地裁はこの主張を認めたうえで、5点の衣類は証拠としてねつ造された可能性があると指摘しましたが、東京高裁は「写真は劣化などの問題があり、当時の色合いが正確に表現されていない」として退けました。


また、静岡地裁が「袴田さんのサイズと合わない可能性がある」と指摘していたズボンについても、東京高裁は袴田さんが当時使っていたベルトの長さなどから、「当時はズボンを履けたと十分推認できる」と判断しました。


一方で、東京高裁は袴田さんに対する取り調べに問題があったことは認めました。取り調べが深夜まで連続し、長時間になっていたことや、否認しているにもかかわらず繰り返し被害者遺族に対する謝罪の気持ちを聞いていたこと、そして取調室の中で用を足させていたことなどついて、「供述が任意のものなのかや、内容が信用できるのかといった観点から疑問と言わざるをえない手法が含まれていた」と指摘しました。


しかし、弁護側が取り調べの問題と捜査機関による証拠のねつ造を結びつけて批判していることについては、「論理の飛躍がある」として退けました。

11日の決定について、東京高等裁判所の元裁判長を務めた門野博さんは「4年前に静岡地裁が認めたDNA鑑定について、まだ確立していないものと捉えて信用性を認めなかった。確定判決を覆すには、新しい証拠が相当完璧なものでなければならないということを再確認させられた」と述べました。


そのうえで、袴田さんの釈放を取り消さなかった点については「裁判所も相当悩んだことがうかがえるが、みずから再審の決定を取り消しておきながら、身柄をそのままにするのはしっくりしない感じがする。みずから決着させず、弁護側の特別抗告を前提に、最高裁判所に最終決着を委ねているように思える」と指摘しました。