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 極めて政治性の高い国家行為は、裁判所が是非を論じる対象にならない――。この「統治行為論」を採用した先例と言われる砂川事件最高裁判決で、言い渡しの直前に、裁判官たちを補佐する調査官名で判決の原案を批判するメモが書かれていたことがわかった。メモは「相対立する意見を無理に包容させたものとしか考えられない」とし、統治行為論最高裁の「多数意見」と言えるのかと疑問を呈している。

 統治行為論はその後、政治判断を丸のみするよう裁判所に求める理屈として国側が使ってきたが、その正当性が問い直されそうだ。

 メモの日付は1959年12月5日。判決言い渡しの11日前にあたる。B5判8枚。冒頭に「砂川事件の判決の構成について 足立調査官」と記されており、同事件の担当調査官として重要な役割を担った足立勝義氏がまとめたとみられる。判決にかかわった河村又介判事の親族宅で、朝日新聞記者が遺品の中から見つけた。

 砂川事件では日米安全保障条約違憲かどうかが争われ、最高裁全体の意見とみなされる多数意見は、判事15人中12人で構成された。安保条約に合憲違憲の審査はなじまないと「統治行為論」を述べる一方で、日本への米軍駐留は「憲法9条、98条2項および前文の趣旨に適合こそすれ」と事実上合憲の判断を示している。多数意見に加わらなかった判事のうち2人が「論理の一貫性を欠く」と判決の個別意見で指摘していることは知られていた。

 メモはさらに踏み込んでおり、原案段階での多数意見の内訳を分析している。安保条約を合憲とする田中耕太郎長官らは、合憲違憲の審査はできないとする藤田八郎、入江俊郎裁判官とは本来「相対立する」とし、田中長官らはむしろ、多数意見とは別の理由で「合憲の判断を示すことができる」とした判事らと一致していると指摘した。

 そして統治行為論を述べたものは最多でも裁判官15人のうち半数に足りない7人に過ぎないとし、多数意見としてくくられた考えが「果たして多数意見といえるか否か疑問である」「相対立する意見を無理に包容させたものとしか考えられない。しかも、その包容の対象を誤っている」とした。

 そのうえでメモは「応急の措置」として判決の構成を変えることを提案。「多数意見」をなくし、個別意見などはすべて「意見」にと改める――という内容だ。

 砂川事件最高裁判決の多数意見をめぐっては、「論理がわかりにくい」と憲法学者らから繰り返し指摘されてきた。メモが生まれた経緯などは不明だが、判決の構成という核心部分について、最高裁内部でも異論があったことがわかる。最終的な判決をみる限り、メモが受け入れられることはなかった。

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