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イスラエルでは与野党の勢力がきっ抗するなか、ことし3月にはこの2年間で4度目となる総選挙が行われる異例の事態となっていました。

およそ2か月にわたる連立協議の結果、第2党の中道派「イェシュアティド」や強硬右派の「ヤミナ」などは今月、ヤミナのベネット党首を首相とする連立政権を発足させることで合意しました。

13日、イスラエル議会で連立政権に対する信任投票が行われ、60対59の賛成多数で承認され、新たな連立政権が発足しました。

これにより2009年から12年間続いたネタニヤフ首相が率いる政権は交代しました。

ただ、新たな連立政権には中道派、右派、左派、アラブ系の合わせて8つの政党が参加していて、中でもパレスチナ問題をめぐって各党それぞれの立場の隔たりは大きく、政権として一致した政策を取ることができるかどうかは未知数です。

また、右派の強硬派からは連立政権に対する反発がすでに起きていて、今後、新しい連立政権がどれだけ安定した政権運営を行うことができるかが焦点です。

新たに発足したのは、政治的な立場が異なる8つの政党による連立政権です。

中道派からはラピド党首が率いる第2党の「イェシュアティド」と、ガンツ防相が率いる「青と白」が参加しました。

右派からは強硬派の「ヤミナ」や、ネタニヤフ首相と対立してリクードを離脱したサール元内相が立ち上げた政党「新たな希望」、それに、ロシア系のユダヤ人を支持基盤に持つ「わが家イスラエル」が入りました。

一方、左派からはかつて政権を担っていた「労働党」や、和平推進派の「メレツ」が参加しました。

そして、アラブ系政党「ラアム」が、アラブ系としては初めて連立政権に入りました。

連立政権の発足にあたって新しい首相は、強硬右派「ヤミナ」のナフタリ・ベネット党首が最初の2年間務め、2023年からの後半の2年間は中道派「イェシュアティド」のヤイール・ラピド党首が務めることになりました。

また、閣僚ポストについては、各政党が均等に分け合う形になるとみられます。

政権としての政策は、最も意見が対立するとみられるパレスチナ問題で一貫した立場は示されておらず、難しい調整が行われるものとみられます。

アメリカのバイデン大統領はベネット新首相と就任初日に電話会談を行いました。

ホワイトハウスの声明によりますと、この中でバイデン大統領は新政権発足を祝福したうえで、「両国の強固な関係とイスラエルの安全保障への揺るぎない支持を強調した」ということです。

そのうえで、両首脳はイランの核問題を含む地域の安全保障について十分な協議を行っていくことで一致するとともにイスラエル人とパレスチナ人の平和と安全保障、繁栄を促進するためにバイデン政権はイスラエル政府と連携していく」として12年にわたったネタニヤフ政権が交代しても両国の緊密な関係に影響はないとの立場を強調しました。

新たな連立政権で首相となるベネット氏の外交アドバイザーを務めたこともある、イスラエル保守系メディア「エルサレム・ポスト」の編集長ヤーコブ・カッツ氏は、イスラエルの政治史上最も複雑な政府になると指摘しています。

カッツ氏は8つの政党がネタニヤフ首相の退陣という一つの目的のために合意することができたとしたうえで、「右派、左派、中道、アラブ系とさまざまな政党が入っているため『万華鏡政権』と呼べるだろう。イスラエルの政治史上、最も複雑で入り組んだ政府だ」と分析しました。

とりわけ意見の隔たりが大きいパレスチナ問題については「当面は連立政権内でこの問題を避けようとするだろうが、いずれ問題となる。バイデン政権や、EUヨーロッパ連合、それにパレスチナ側などから圧力をかけられるのを待つのではなく、自分たちから動いていくべきだ」と述べました。

そのうえで、パレスチナ国家の樹立に反対する立場をとるベネット新首相については「立場が180度、転換することはないだろうが、より穏健になることはあるだろう」と述べ、和平に向けて連立政権の中で協力できることはあると強調しました。

一方、後ろ盾となっているアメリカとの関係については「ベネット新首相としては、自分もネタニヤフ氏と同じように、外交ができると見せつけたいはずだ」と指摘し、バイデン政権との良好な関係作りに努めるだろうと分析しました。

またアメリカが今回の政権交代をどう見ているかについては「バイデン大統領としては、ネタニヤフ氏に、『ベネット新首相とはうまくやれる。おまえが問題だったんだ』と見せつけたいはずだ」と述べ、トランプ前政権との間で蜜月の関係を築きながら、バイデン政権との間では距離があると指摘されてきたネタニヤフ政権の交代について好感を持って受け止められていると分析しました。

一方、敵対関係にある対イランの政策については、連立政権内で大きな立場の違いはないとし、強硬姿勢が大きく変化することはないと分析しました。

また、連立政権が今後安定するかについては「ネタニヤフ氏が野党のリーダーとして、再び首相に返り咲こうとするならば、その存在が連立の接着剤となるだろう。逆にネタニヤフ氏が政界を去れば、連立を組むインセンティブは少なくなる」として、連立政権を組む求心力となったネタニヤフ氏の動向が鍵になると指摘しました。

ネタニヤフ首相は、イスラエルの政治史上、最も長い延べ15年にわたって長期政権を率いました。

パレスチナ問題で強硬な立場をとり、イスラエル寄りの政策をとったアメリカのトランプ前大統領との間では蜜月の関係を築いて国内の右派から支持を集めましたが、最後は自身の汚職疑惑が批判を集める中、退陣を余儀なくされました。

ネタニヤフ首相はアメリカの名門マサチューセッツ工科大学経営学などを学び、外交官として国連大使などを務めたあと1988年の総選挙で初当選し、右派のリーダーとして頭角を現すようになりました。

1993年にアメリカなどの仲介の下、パレスチナの暫定自治を認めるいわゆる「オスロ合意」が結ばれると、国内では右派勢力を中心に和平に対する批判が強まり、ネタニヤフ首相はこうした批判を取り込む形で1996年の総選挙で勝利し、首相の座に就きました。

46歳での就任は、イスラエル史上最年少でした。

1999年の総選挙で和平推進派に破れ、一度、政権を失いますが、2009年の総選挙で再び返り咲きました。

当時のアメリカのオバマ政権がパレスチナとの間で和平交渉を進めようとしたのに対し妥協はせず、和平交渉は2014年を最後に行われなくなりました。

その一方で、オバマ政権がイスラエルにとっての最大の敵対国であるイランとの間で核合意を進めたことには激しく反発。

アメリカ議会で演説し、オバマ政権の姿勢を強くけん制するなど、最大の後ろ盾であるアメリカとの関係は冷え込みました。

しかし、2017年にトランプ大統領が就任するとその関係は一転。

エルサレムイスラエルの首都と宣言し大使館を移設するなど、イスラエル寄りの政策を推進したトランプ政権との間で蜜月の関係を築きました。

2020年にはトランプ政権の仲介で、UAEアラブ首長国連邦バーレーンなど対立関係にあったアラブ諸国と国交正常化で合意し、外交上の成果を得ました。

流ちょうな英語とパフォーマンスを駆使し、国連総会などで敵対するイランを激しく非難する姿が注目を集めたほか、選挙では強さを発揮し、支持者の間では「ビビ」というニックネームと合わせて「キング・ビビ」や「マジシャン」と呼ばれてきました。

その一方で地元の通信業者に便宜を図ったとして、収賄や背任の罪で起訴されるなど汚職疑惑が取り沙汰され、長期政権に対する批判も高まっていました。

2年間で4度目となった2021年3月の総選挙では、右派政党リクードを率いて第1党を獲得しましたが連立交渉では支持を集められず、逆に「反ネタニヤフ」の連立政権発足を許す形となりついに退陣を余儀なくされました。

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