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関西に住む、聴覚障害のある80代の夫と70代の妻の夫婦と、病気の後遺症による知的障害のある70代の女性の、合わせて3人は、昭和40年代に旧優生保護法に基づく不妊手術を強制され、子どもを産み育てる権利を奪われたとして、国に合わせて5500万円の賠償を求めていました。

1審はおととし、旧優生保護法憲法に違反すると判断しましたが、提訴の時点で賠償請求できる権利のある「除斥期間」の20年が経過していたとして、訴えを退けていました。

22日の2審の判決で、大阪高等裁判所の太田晃詳裁判長は「旧優生保護法は、子を産み育てるかどうか意思決定する自由などを侵害し、明らかに憲法に反する。非人道的で差別的であり、人権侵害の程度は強い」と指摘しました。

そのうえで「国が障害者に対する差別・偏見を正当化し、助長してきたとみられ、原告らは訴訟を起こすための情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあった。除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」として、1審の判決を取り消し、国に合わせて2750万円の賠償を命じました。

全国で起こされている同様の裁判で、これまでに言い渡された判決はすべて訴えを退けていて、国の賠償責任を認定した司法判断は初めてです。

後藤厚生労働大臣は記者団に対し「今回の判決は、国の主張が認められなかったものであり、国にとっては大変厳しい判決であると受け止めている。今後の対応については、判決の内容を精査し、関係省庁と協議したうえで適切に対応していきたい」と述べました。

松野官房長官は、午後の記者会見で「国の主張が認められなかったものと認識している。上告するかどうかも含め、関係省庁で検討する」と述べました。

そのうえで、平成8年まで施行された旧優生保護法については「多くの方が特定の疾病や障害を理由に生殖を不能にする手術などを受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられたことに、政府として真摯(しんし)に反省し、心から深くおわび申し上げる。このような事態を二度と繰り返さないよう、最大限の努力を尽くしていく」と述べました。

優生保護法のもとで不妊手術を受けさせられたとして国に賠償を求める裁判は、原告側の弁護団によりますと、全国の9か所の裁判所に起こされています。

このうち、2審の判決は、今回の大阪高等裁判所が初めてです。

これまでに、仙台、東京、大阪、札幌、神戸で合わせて6件の判決が言い渡され、このうち4件は旧優生保護法憲法違反とする判断を示しました。

しかし、この4件も含め6件すべてが原告の訴えを退けています。

このうち5件は、改正前の民法に規定されていた「除斥期間」を適用しています。

除斥期間とは、相手の不法行為から20年を経過すると裁判で賠償を求める権利が消滅するという規定で、原告が訴えを起こした時点で20年間を過ぎているという判断でした。

また、1件は旧優生保護法に基づいた強制的な不妊手術が実施されたとは認められないとしました。

司法による救済を求める旧優生保護法の被害者たちに大きく立ちはだかってきたのが「時間の壁」です。

今回の裁判の1審やほかの判決の多くは、相手の不法行為から20年が経過すると裁判で賠償を求める権利が消滅するという、改正前の民法に規定されていた「除斥期間」を適用して訴えを退けてきました。

今回の2審でも大きな争点となり、国側は「20年の起算点は不妊手術が行われた昭和40年代とすべきで、提訴時点で20年を過ぎているため、賠償請求はできない」と主張していました。

除斥期間」の適用は民事裁判では大原則とされていますが、過去には例外的に適用しなかったケースもあります。

昭和27年に生後5か月で国の政策による予防接種を受け、副作用で重い障害が残った男性が、22年後に国に賠償を求めた裁判で、最高裁判所が「男性は障害の影響などで長年、裁判を起こせなかった。その原因を作った加害者が賠償を免れる結果は、著しく正義、公平の理念に反する」として、予防接種から20年を過ぎたあとでの賠償請求を認めました。

原告側はこうしたケースを引き合いに「国が法律によって障害者への差別や偏見を生み出し、浸透させてきたことで、長年、裁判を起こせなかった」として「除斥期間」を適用すべきではないと訴えていました。

22日の判決で、大阪高裁は「除斥期間」の起算点は旧優生保護法が改正された平成8年だとして、訴えを起こした時点では20年を経過しているとしました。

その一方で「人権侵害が強度であり、憲法を踏まえた施策を推進していくべき国が、障害者に対する差別や偏見を助長し、原告は訴訟の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境だった」と原告側の主張を認めました。

そして「除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反する」と結論づけ、時間の壁を破って被害者の救済を図る判断を示しました。

憲法が専門の慶応大学法学部の小山剛教授は「今回の判決では、旧優生保護法の人権侵害の度合いが非常に強烈なうえ、差別が固定化されてきた中で被害者に裁判を起こせというのは『酷だ』という考え方が示された。一般的に民事裁判では、除斥期間の適用が制限されるケースは非常に限られてきたが、旧優生保護法をめぐるこうした特殊性などを踏まえたうえで、正義・公平に反すると指摘していて、非常に画期的で意義のある判断だ」と話しています。

そのうえで小山教授は「今回は、除斥期間の壁を破ったほか、国の一時金320万円よりもケタが1つ違うレベルで賠償を命じる判断となったが、今後も続く同様の裁判の判決では、さらに結論が分かれる可能性はある。本来的には政治的な解決が望ましく、今回の判決が何らかの政治判断の背中を押す可能性もあるのではないか」と指摘しています。

#法律