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スリランカの最大都市コロンボで投資調査の仕事に就いていたシャムラ・ユースーフさん(30)は6月、経済が混乱を極めるこの都市を抜け出してアラブ首長国連邦のドバイで新たなスタートを切るため、3歳の息子とスーツケースを携えて母国から旅立った。その3週間前にドバイで営業・マーケティング・ディレクターの職に就いた夫と合流する。

過去70年間で最悪の経済危機に陥ったスリランカでは、彼らのように国を脱出する技能労働者が数万人に上っている。

公式データは入手できないが、暫定的なデータや経済界のリーダーによると、頭脳流出は景気回復を遅らせるのに十分なほどの規模に達した。

ユースーフさん自身、いつになれば帰国できるか、そもそも帰国できるかどうか分からない。

「(スリランカを離れることについて)夫を説得するのには時間がかかった。彼は国を信じ、国にとどまりたいと望んでいたからだ」

しかしスリランカ経済は燃料不足によって崩壊し、抗議活動が広がって大統領は国外逃亡。3月には日常生活が耐えがたいほど厳しくなっていたとユースーフさんは言う。「早く船に飛び乗らないと(国外脱出は)難しくなると思った」

外貨準備の急減により、3月以降は医薬品やミルクパウダーなどの生活必需品も足りなくなった。7月は医療や農業にしか燃料が供給されない日がほとんど。同月の食品インフレ率は年率90%を超え、消費者物価指数の前年比上昇率は60.8%に達した。

このため医者やソフトウエアエンジニア、科学者などの技能労働者がより良い生活を求めて国外に脱出し、国内に残された2200万人にとって専門技能が不足するという憂慮すべき事態となっている。

政策研究所(IPS)の移住・都市化政策調査責任者、ビレシャ・ウィーララツネ氏は「技能労働者が国外脱出する流れが強まっている」と語った。

ウィーララツネ氏が紹介した政府の未公表データによると、2020年と21年には国外移住者がそれぞれ4万0581人と3万0797人だったのに対し、今年は1─6月だけで11万3140人ほどに達した。

政府の移住局に数字の確認を何度も求めたが、確認は得られていない。

政府データが示す1─5月のパスポート発行件数は28万8645件と、前年同月の9万1331件を大幅に上回っている。

<鍵握る海外送金>

海外の大手企業にアウトソーシング・サービスを提供するIT企業は、人材を引き留めるため国内で支払う給与を外貨に連動させ始めた。ただ、大きな効果は得られていないと業界幹部らは言う。

正社員850人を抱えるソフトウエア・ソリューション企業、WSO2のサンジバ・ウィーラワラナ最高経営責任者(CEO)は、今年に入って従業員の約1割を失ったと話す。「退社を願い出た従業員に理由を尋ねると、半分以上が国外に移住したいと答えた。あと半年たたないと実際のインパクトは見えてこないだろう」という。

スリランカ政府は6月、公共セクターの支出節減と海外からの送金拡大を狙い、「海外就労」プログラムを導入した。公務員が無給休暇を取って5年間海外で働くことを認める制度だ。自分名義のスリランカの銀行口座に外貨収入の一部を預金することが条件。政府は海外からの送金が増える一方、公務員は現在給与をもらえない代わり、将来の昇進と年金支給を約束される。

スリランカにとって海外からの送金は重要な外貨収入源だ。IPSのデータによると、18年までに同国が受け取った海外からの送金は70億ドル(約9500億円)を超え、国内総生産(GDP)の8%近くを占めた。その他の大きな外貨収入源は衣料、IT、茶、ココナツ、ゴム、スパイス、観光。

しかしIPSのウィーララツネ氏は、技能労働者の国外移住は「諸刃の剣」だと警告する。海外からの送金が増える一方、脱出する人が多くなり過ぎると国内に残る親戚も少なくなり、送金も減るからだ。

<引き金は燃料不足>

技能労働者が国外脱出の引き金になったと説明するのは、燃料不足による停電や自由な移動の制限だ。

ユースーフさんは「不安や産後うつと格闘した。停電の時間に合わせて仕事の計画を立てる毎日になっていた」と言い、パニック発作を起こすこともあったという。

息子も交通手段を断たれて学校に通えず、自宅待機させられたため「落ち着きがなくなり、怒りっぽくなった」

コロンボの病院に勤務する医師も、多くの同僚が今年に入って国外移住しており、今後もその数は増えそうだと語った。「有能な医療従事者になるための訓練には長年を要する。外科手術や緊急医療は特にそうだ。(国外移住は)医療の質に大きな影響を及ぼすだろう」という。

国粋主義の台頭に不安>

経済危機を背景に国粋主義が台頭し、選挙で無能な政治家が選ばれるのではないか、との不安も中流層に国外脱出を急がせている要因だ。

10月に英国に移住するという株式調査アナリストの男性(31)は、国民が有能な政府を選ぶとは信じられなくなったと説明。「国粋主義が台頭しそうなため、またしても最悪の政治家が選ばれる結果になりそうだ」と語った。

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