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22回目のワールドカップカタールで開幕したのは11月20日。中東での初の大会ということで、さまざまな面で注目されました。

まずは開催の時期が大きく変わりました。

これまではヨーロッパの主要リーグが終了した5月から7月にかけて行われてきましたが、FIFA国際サッカー連盟カタールの厳しい暑さを考慮して、11月から12月に開催することを決めました。1930年に大会が始まって以降初めてのことでした。

開幕直後の11月は日中の気温が30度を上回ることが多くありましたがスタジアムではフィールドを冷やすために冷房が使用されたため、選手が厳しい暑さに苦しむような様子は見られませんでした。

会場となる8つのスタジアムはほとんどがドーハとその周辺にあり、ドーハ中心部から1時間ほどでアクセスできることは高く評価されました。

また、厳格なイスラム教の国でふだんは、公共の場所での飲酒が禁止されているため、スタジアムで酒類の販売が行われなかったり、肌の露出を控える慣習に配慮した服装を心がける人がいたりするなど、カタール大会ならではの特徴も見られました。

大会では多くの驚きが生まれましたが、その1つにあげられるのが日本代表の活躍です。

1次リーグで優勝経験のあるドイツとスペインにいずれも逆転勝利。劣勢をはねのけて、グループ首位で決勝トーナメントに進みました。目標のベスト8には届かなかったもののFIFAによると2大会連続での決勝トーナメント進出はアジア勢で初めてのことです。

今大会では新型コロナウイルスの影響で各チームが登録できる選手の人数が従来の23人から26人に増え、1試合あたりの交代人数もこれまでの最大3人から5人に広がりました(延長戦を除く)。

この交代枠を最大限に活用した森保監督の手腕と日本代表の選手たちの奮闘ぶりに国内外から称賛の声があがりました。

FIFAの技術研究グループのメンバーは「日本の多くの選手はドイツでプレーしていて、キャプテンを務めている選手もいる。ヨーロッパやほかの国のチームと戦っても、恐れが少なく、怖がることもない。そしてより競争力がある」と日本代表の強さの一端を分析しています。

1993年、いわゆる「ドーハの悲劇」で日本が初のワールドカップ出場を逃してから29年。くしくも因縁の地で日本は大きな一歩を踏み出し、みずからも「悲劇」を経験した森保監督は「ドーハの悲劇歓喜に変わった」と胸を張りました。

世界の強豪と戦える実力を示せたことで、日本にとっては意義のある大会になりました。

飛躍したのは、日本だけではありません。アジアのチームが伝統的な世界の強豪に勝つ番狂わせもたびたび起こりました。

1次リーグではサウジアラビアがアルゼンチンに逆転勝ち。

韓国もポルトガルに勝ち、アジアの各チームが世界ランキングで格上の相手に金星をつかみました。

今大会はアジアから日本と韓国、オーストラリアという過去最多の3チームが決勝トーナメントに進み、FIFAの関係者は「アジアのチームと伝統的な強豪との差は確実に縮まっている」と指摘しました。

そのアジアの各チームをさらに上回ったのがモロッコでした。

過去のほとんどの大会ではヨーロッパ勢と南米勢がベスト4を独占し、前回大会はすべてヨーロッパのチームとなりましたが今大会ではモロッコが初めてアフリカのチームとして割って入りました。

高い身体能力を持ち味に攻守に粘り強く戦い、準決勝で前回優勝のフランスに、3位決定戦では前回準優勝のクロアチアに敗れはしましたが、確かな実力を世界に示しました。

今大会は1次リーグで3連勝したチームは1つもなく、すべての地域のチームが初めてそろって決勝トーナメントに進むなど世界のサッカーのレベルがきっ抗する時代が到来したことも感じさせました。

細かくパスを回してボールを支配しながら戦うチームもあれば、1対1の強さを全面に押し出すチームや粘り強く守って鋭いカウンターで反撃するチームなどもありそれぞれが自分たちのスタイルで勝利をたぐり寄せました。

新たな力が示された一方で、スター選手が強く輝く大会にもなりました。

決勝は「最後のワールドカップになるだろう」と位置づけるメッシ選手のアルゼンチンと、エムバペ選手擁するフランスの顔合わせ。

両エースはともにトップの5得点をあげてチームを押し上げてきました。
その決勝は9万人近い観客が見守る中、2人が躍動、どちらのファンも熱狂する好ゲームになりました。メッシ選手が2得点を奪うとエムバペ選手は3得点のハットトリックを達成。

試合は3対3のままペナルティーキック戦にまでもつれ込み、最後はアルゼンチンが制して36年ぶり3回目の優勝を果たしました。

そして、メッシ選手は7得点でMVP=最優秀選手、エムバペ選手が8得点で得点王となりまさにスター選手の活躍が大会を締めくくることになりました。

今大会では試合を取り巻くさまざまな「技術」も注目されました。日本が劇的な勝利をあげたスペイン戦では、VAR=ビデオ・アシスタント・レフェリーによる判定に関心が集まりました。

田中碧選手の逆転ゴールの直前に三笘薫選手がゴールラインぎりぎりで折り返したパスは一見すると、ラインを割っていたようにも見えました。

「三笘の1ミリ」とも呼ばれた、このプレーはVARの結果、ほんのわずかにボールがラインにかかっていたとして、ゴールが認められました。実はこの得点が認められなければ日本は決勝トーナメントに進むことができなかっただけに、特に国内ではひときわ関心が高まりました。

これまでの大会では判定が正しかったどうか物議を醸してもおかしくない場面でしたが技術の進歩によって文句のつけようのないゴールになりました。

技術という点で言えば、オフサイドを判定するシステムも威力を発揮しました。公式ボールの内部に、1秒間に500回のデータを発信するセンサーが設けられ、ボールが蹴られた位置を正確に検知するものです。

スタジアムの専用カメラで▽ボールに加え、▽個々の選手の手足など最大で29のポイントを1秒間に50回追跡して正確な位置を計測しました。

こうして得られたデータにAI=人工知能を活用することでFIFAはより正確にオフサイドが判定されたとしています。

その効果は開幕直後から発揮され、開幕戦のカタールエクアドルの試合では大会第1号になるかと思われたゴールが取り消されました。

判定の正確さを評価する声が上がる一方、元日本代表の本田圭佑選手は自身のツイッターで「VARはサッカーを大きく変えたね。見えないところで汚いことをすることもサッカーの一部やったけど、VARが導入されたことで、許されなくなった。正直この流れには寂しい気持ちはある」ともつづり時代が大きく変わりつつあることも感じさせました。

また、ビデオ判定中などプレーが止まっている時間は厳格にアディショナルタイムに加えられるようになったため、アディショナルタイムが10分以上となる試合が大幅に増えました。

試合時間の管理が厳格になり、リードしているチームの選手が接触プレーのあとでピッチに長く倒れ込むなど時間を稼ぐような場面は減ったようにも感じました。

華やかな競技の裏で価値観の違いなどによる対立も明らかになりました。今大会をめぐってはヨーロッパの国からカタールでの人権や環境について懸念や抗議の声もあがるなど大会に陰を落としました。

▽スタジアム建設などで多くの外国人労働者が劣悪な労働環境のもとで亡くなったという指摘や、▽同性愛が違法とされていること▽それに、スタジアムでの空調の使用による環境への悪影響などが批判の対象となりました。

こうしたヨーロッパの動きに対し、カタールの人たちからは反発もありました。顕著に見られたのが準決勝のフランスとモロッコの試合でした。

現地の人たちの多くがカタールと同じアラブ諸国のモロッコを応援。フランスがボールを持つと耳をつんざくようなブーイングが会場中に響きました。

試合前、現地に住むカタール人の男性に話を聞くと「ヨーロッパ人は他人よりも自分たちが優れていると考えていてイスラム教を尊重していない。カタールのすべての人々はアラブ諸国のチームやイスラム教徒のチームをサポートする。何が正しくて何が間違っているかを人々が区別できることを願っている」という答えが返ってきました。

そしてFIFAのインファンティーノ会長は「多くの人にとって今大会が中東の歴史や文化を知る機会になった。大会に関わったすべての人々のおかげで過去最高のワールドカップになった」とあくまで成功を強調。

その上で「世界中の人々がこれまで知らなかったアラブ世界を知り、カタールは世界中のファンを歓迎した。カタールを訪れた人が自分の国に帰ってこの経験を伝えることで他人に対してオープンになれる。それがこのワールドカップでの競技以外でのレガシーだ」と述べました。

4年後の次の大会は史上初めてアメリカ、カナダ、メキシコの3つの国の共催で行われます。

参加するチームは48に増えて、32チームがしのぎを削った今大会までとは構図が大きく変わることになります。今大会、日本は世界の強豪を相手にしても勝てる実力を示しました。決勝トーナメント1回戦ではペナルティーキック戦=PK戦で競り負けましたがかつてないほど目標のベスト8に近づいたと言えると思います。

ただ、キャプテンの吉田麻也選手は「ベスト8には本当に強いチームでなければいけないと思う。もっともっと、積み上げていくしかない」と話していて日本サッカー協会も年代別の国際親善試合などで、PK戦を可能なかぎり実施したい考えを示しています。

飛躍にあぐらをかかず「積み上げ」を始めた日本に、次の大会こそ、「新しい景色」へのあと一歩がきっと届くと期待したいと思います。

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