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歴代最長10年1カ月にわたった黒田東彦日銀総裁の任期が8日、終わる。2%の物価目標は達成されず、大量の国債や上場投資信託ETF)の保有、金融機関の収益悪化、市場機能の低下といった副作用の一方で、積極的な資産買い入れで市場や企業・家計の「期待」を変え、製造業の収益回復や貸し出しの活発化などの好影響をもたらしたとの評価もある。期待に働きかける黒田氏の戦略を植田和男新総裁が継承するのか。市場の見方は分かれるが、6月に政府が閣議決定する「骨太の方針」でアベノミクスが堅持されるかが目先の焦点との指摘もある。

<物価目標は達成されず>

黒田総裁の下での10年にわたる異次元の金融緩和で、物価が持続的に下落する意味でのデフレではなくなった。7日の退任会見で黒田総裁は、労働需給の引き締まりで賃金が上がりやすくなっているとして、日本社会に根づいた「物価や賃金は上がりにくいもの」という固定観念が「明らかに変容しつつある」と述べたが、解消には至らず、2%物価目標の持続的・安定的な達成は実現しないままだ。

しかし、2%物価目標を掲げて大規模に資産を購入し、人々のデフレマインドの転換を試みた黒田日銀の手法は「日本の経済・物価情勢を踏まえれば妥当な政策だった」(エコノミスト)との声が根強い。

<期待の転換、外為市場や金融機関貸出で>

黒田緩和は金融市場や企業、家計の期待に変化をもたらし、日本の実体経済に好影響を及ぼしてきた。

まずは「量的緩和の程度なら米連邦準備理事会(FRB)が上」という、2013年3月の黒田総裁就任当時の外為市場参加者の「固定観念」を変え、外為市場で大幅に円安が進んだ。

黒田総裁の前任の白川方明総裁時代は歴史的な円高が進み、政界では「長引く円高とデフレの責任は日銀にある」(自民党議員)との声が高まっていた。

SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは、当時のデフレは「製造業デフレ」だったと振り返る。1997年のアジア通貨危機で通貨が下落したアジア諸国から安価な製品が流入、国内メーカーは付加価値の高い製品で対抗しようとしたが歴史的な円高が打撃となった。そこに黒田総裁が登場し、「量」の側面からマネタリーベースを2年で2倍にすると宣言。円安が大幅に進んだことで、製造業も息を吹き返した。ドル/円の年間平均レートでみると、12年の79.79円から15年には121.04円までドル高/円安に振れた。

牧野氏は「FRBに負けない量的緩和をしないとデフレがずっと続いている状態だった。あの時の大規模な量的緩和の導入はきわめてリーズナブルな政策だった」と振り返る。

クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは、黒田総裁がデフレ脱却に向けて強い意志を示し、資産買い入れを通じて民間部門の期待に働きかけたことで、金融機関の貸し出し態度判断DIが明確な改善をたどったと指摘する。

日銀短観で中小企業に対する金融機関の貸し出し態度判断DI(「緩い」―「厳しい」)を見ると、13年3月調査ではプラス3だったが、異次元緩和の中で一本調子に改善を続け、16年3月調査にはプラス20と1989年12月以来の高水準となった。この間、銀行貸出の伸びが続いた。

<異次元緩和、従来の日銀手法から「断絶」>

大規模な資産買い入れを通じて人々の期待に働きかけることは、黒田総裁より以前の総裁の下では控えられてきた。白川前総裁は12年3月の金融政策決定会合で、厳しい調子で期待に働きかけることを否定している。

デフレ脱却を目指して資産買い入れ基金の増額を決めた2月の追加緩和に続き、2会合連続で基金増額を主張した宮尾龍蔵審議委員(当時)は、追加緩和で株高・円安の流れを持続させることができれば、期待インフレへの働きかけなどを通じて「経済・物価の回復経路を引き上げることが可能になる」と述べた。

白川氏は「期待に働きかけるというのは非常にファジーな言葉だ」と批判。「マーケットがどうみているかに判断軸を置くことは、中央銀行としてはある種の自殺行為だ」と語気を強めた。

それまでの日銀の金融緩和とは「断絶」した黒田総裁下での異次元の金融緩和について「黒田総裁はやってみなければわからないとの思いから、一か八かの賭けに出たのだろう」(エコノミスト)との指摘もある。

<植田日銀、期待戦略の継承は>

9日に就任する植田新総裁が期待に働きかける戦略を踏襲するのか、市場では見方が分かれている。所信聴取で現行の金融緩和が「適切」と述べたことで、黒田総裁の手法を受け継ぐとの見方がある一方で、黒田総裁に比べれば「期待への働きかけは弱まるのではないか」(別のエコノミスト)との見方も出ている。このエコノミストは、植田氏が物価安定について「ごく単純に言えばゼロインフレ」と述べた点に注目、「『異次元の金融緩和』から『通常の金融緩和』に戻すのではないか」とみている。

クレディ・アグリコル証券の会田氏は、重要なのは政府の方針で、6月に閣議決定される「骨太の方針」が重要になるとみている。

会田氏は、昨年の骨太方針の特徴として、アベノミクスの堅持、財政健全化目標の事実上の無効化、岸田政権の重要政策には予算を「青天井」で付ける方針の3点を挙げ、今年、「アベノミクスの堅持が外れれば、日銀が拙速な利上げをしてしまってデフレ脱却に失敗する」と警戒している。

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