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日銀の黒田総裁の任期は、10月8日で残り半年となります。

黒田総裁は物価上昇率が目標の2%を上回るなかでも景気を下支えするため、大規模な金融緩和を続ける方針を示していますが、金融引き締めを進める欧米との政策の方向性の違いから急速に円安が進んでいて、残る半年も難しいかじ取りを迫られることになります。

2013年3月に就任し、在任日数が歴代最長となっている日銀の黒田総裁は、2023年4月8日までが任期となっています。

デフレ脱却に向け、2%の物価上昇を目標としてこれまで9年半、大規模な金融緩和を続けてきました。

こうした中、消費者物価指数は原材料価格の高騰の影響で、ことし4月以降、5か月連続で目標の2%を上回っていますが、黒田総裁は、賃金の上昇を伴っておらず日銀が目指す形とは異なるとして、景気を下支えして賃上げを後押しするためにも金融緩和を続けることが必要だとしています。

一方で、欧米がインフレを抑え込もうと金融引き締めを加速させる中、政策の方向性の違いから急速に円安が進んでいて、9月22日には政府・日銀が24年ぶりにドル売り円買いの市場介入に踏み切りました。

金融緩和を続ければ一段と円安が進み輸入する原材料の価格上昇に拍車をかける一方、金融引き締めに転じれば景気を冷え込ませるリスクがあります。

黒田総裁は9月の記者会見で「当面、金利を引き上げることはない」と強調したうえで、物価目標の達成は来年も再来年も難しい状況だとして、賃金の上昇を伴わなければ物価目標の達成には時間がかかるという認識を示しました。

円安が加速し物価がさらに上昇した場合でも今の路線を続けるのか、黒田総裁は残りの期間も難しいかじ取りを迫られることになります。

2013年3月に就任した黒田総裁は、2%の物価目標を2年程度で実現することを掲げ、国債などの買い入れを大幅に増やし、市場に大量の資金を供給する政策を打ち出しました。

「黒田バズーカ」とも呼ばれた大規模な金融緩和で、円安と株高が進み、マイナスで推移していた消費者物価指数の上昇率もプラスに転じました。

しかし、その後も大規模な金融緩和を続けたものの、物価上昇率は目標の2%には届かず、2016年1月、日銀史上初めてとなる「マイナス金利政策」の導入に踏み切ります。

金融機関から預かっている当座預金の一部にマイナスの金利を適用するもので、銀行が日銀に預けていたお金を世の中に出回るように促すねらいがありました。

ただ、金融機関の収益が圧迫され資産運用に悪影響が出るなどこのころから「副作用」を指摘する声が次第に強まっていきました。

こうした中、日銀は、2016年9月からは大規模な金融緩和を継続しつつ、
短期金利をマイナスにしたうえで、
長期金利をゼロ%程度に抑えるという、
今の枠組みでの大規模な金融緩和策を導入しました。

おととしには、新型コロナウイルスの影響を受けた経済を下支えするため、国債や複数の株式をまとめて作るETF=上場投資信託などの買い入れの上限を一段と引き上げるなど、金融緩和を続けてきました。

今年度に入って日銀が望まぬ形で物価が上昇し、加速する円安とのジレンマに悩むことになります。

日銀は、2%の物価上昇を目標に掲げていますが、原材料価格の高騰の影響から、8月の消費者物価指数は、去年の同じ月より2.8%上昇し5か月連続で2%を上回りました。

しかし黒田総裁は、賃金の上昇や需要の増加を伴っておらず、日銀が目指す安定的な物価上昇ではないとして景気の好循環を作り出すまで粘り強く金融緩和を継続する方針を示しています。

また、利上げなどの金融引き締めは景気を後退させる懸念があるとしていて、9月22日の会見では、「当面、金利を引き上げることはない」と金融引き締めを明確に否定しました。

ただ、記録的なインフレを抑えるため、大幅な利上げを続けるアメリカとの金融政策の方向性の違いから外国為替市場では日米の金利差の拡大が強く意識され、円安ドル高が加速しています。

実際に黒田総裁が会見で金融引き締めを否定したことをきっかけに、円相場は1ドル=145円台後半まで急落。

これを受けて、政府・日銀は、ドル売り円買いの市場介入に踏み切りました。

介入が日銀が金融緩和策の維持を決め、黒田総裁が緩和の継続を強調した直後だったことで、市場では、介入に踏み切った政府と、金融緩和を継続する日銀の足並みがそろっていないのではないかという指摘も出ています。

金融緩和の継続は、円安を促し物価上昇に拍車をかけて家計などを圧迫するリスクがあります。

その一方で、金融引き締めに転じれば、賃金上昇などが実現しないまま金利の上昇を通じて景気を悪化させるリスクがあり、日銀は難しいかじ取りを迫られています。

これまでの黒田総裁の政策運営をどのように見ているのか、日銀で2013年まで理事や調査統計局長などを務めた早川英男さんに聞きました。

Q
黒田総裁のこれまでの政策運営をどう評価しているか。

A
異次元の金融緩和策はやってみないとよくわからない実験的な政策だった。当時は、デフレで円高で不景気でという経済状態で、大胆な賭けでもやってみないと収まらない状況もあった。最初の1年は円安になり、株価も上がって一定の効果はあった。ただ、金融緩和だけをやって、2%の物価目標を達成するのは、実は簡単ではないということが明らかになった。

黒田総裁が就任する直前に政府と日銀は共同声明を出して、日銀は2%の物価目標をできるだけ早く達成するとした一方で、政府は、日本経済の成長力を高めるため構造改革を進めるとともに、持続可能な財政基盤を作ることが求められていた。だが、金融緩和以外の2つはほとんど何も行われず、金融緩和だけでは目標の達成はできなかったということだ。

Q
金融緩和の副作用についてどう見ているか。

A
金融市場の機能をゆがめてしまったっていうことと、財政規律が徹底的に緩んでしまったということだと思う。実験的な政策であるからこそ、これはだめだとわかったら、できるだけ速やかに変更しなければならなかったのだと思う。最初の1年2年の副作用はそれほど大きくはないと思っていて、それが延々と続くことに伴って、市場機能のゆがみや財政規律の緩みなどの副作用が目立つようになってきた。

Q
大幅な利上げを続けるアメリカとの金利差を背景に外国為替市場で進む円安への対応について、どう考えているか。

A
海外の金利が大きく動くと通常はそのショックを吸収する方法として、日本の長期金利が上がることによって吸収する部分と、為替が円安になることによって吸収する部分の2つあるが、1つのルートを日銀の金融政策で止めると為替の変動が大きくならざるをえない。イールドカーブコントロール(長短金利操作)に固執している結果として為替の振幅が大きくなり、過度の円安を招いている。状況に合わせて政策を柔軟に変えていくべきだろう。

Q
今後の日銀の政策運営についてどのような議論が必要か。

A
2%の物価目標はすでに空文化していて、副作用を指摘する人も多い。物価安定目標はころころと変えるものではないという議論も当然あるが、この10年で金融政策に求められる役割も変わっている。日銀が目指す世界はどういうものなのか、日銀・政府だけでなく多くの人を巻き込んだ幅広い議論が必要だ。そのうえで副作用の是正などに慎重に取り組むことが求められる。
積極的な金融緩和を主張するいわゆる「リフレ派」で知られ、日銀で2013年から5年間、黒田総裁を支える副総裁として金融政策の運営を担ってきた岩田規久男さんに聞きました。

Q
黒田総裁のこれまでの政策運営をどう評価しているか。

A
大規模な緩和がなければ日本経済は相変わらずデフレのままで、現在もにっちもさっちもいかない状態だっただろう。
2%の物価安定目標に届いていないとしてもデフレではない状態になった。

Q
日銀の目指す物価安定目標は、なぜ今も達成できていないのか。

A
2014年夏頃には2%の物価目標が達成できるペースだったが、それを壊したのが消費増税だった。
金融政策で需要を高めて物価を2%にしようとしているのに、財政規律を急いで消費増税で需要を抑えてしまい景気を悪くしてしまった。
財政も協力する体制をつくらない限り、本当のデフレ脱却は難しい。

Q
外国為替市場で進む円安の背景に日米の金融政策の違いがあると指摘されているが、円安への対応をどう考えているか。

A
アメリカは、ウクライナから離れているなど地政学リスクが圧倒的に低く、その通貨が安全資産だと思われるから需要が高まっている。
金融引き締めを行っているヨーロッパをみるとユーロもポンドもドルに対して安い状況だ。
日銀が金利を上げても円安は止まらないだろう。

Q
日本でも物価は上昇しているが、金融政策を修正する必要はあるか。

A
いまは穀物価格と原油価格が上がるコストプッシュ型の物価上昇で経済情勢がよいわけではない。

もしいま緩和をやめると金利が上がり、一番困るのはコロナ禍で負債が増えた中小企業だ。

原材料高に加えて、金利の上昇が企業の負担となり、景気が悪くなる恐れがある。

物価が上がって困る人も多いが、これは金融政策ではなく、現金給付などの財政政策で対応すべき問題だ。

Q
大規模な金融緩和の縮小をするいわゆる「出口戦略」について、どう考えているか。

A
いまは人手不足など賃金が上がる要素が出てきているので、規制改革で生産性を上げるなど雇用改革が大事だ。
賃上げに向けた状況を作るのは利上げではなく、金融緩和の出口を急ぐことが一番危険だ。
日本はデフレマインドが根強く、金融緩和をやめるとすぐにデフレマインドに戻ってしまう恐れがある。

#アベノミクス#リフレ#金融政策#円安政