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スペイン南部の地中海に面したエブロデルタ沿岸ムール貝養殖業を営むザビエル・カブレラさん(47)の手には、死んで干からびた一握りのムール貝があった。「私たちがいずれ同じようなことにならないよう願っている」と、カブレラさんは無念さを露わにした。

欧州の地中海地方はこの夏の熱波で、来年収穫するはずだった稚貝の約80%が死滅し、今年の生産量もほんのわずかだった。息子のディダックさん(20)とともに、水中に吊り下げた1500本のロープから空っぽの貝殻を取り除くカブレラさん。9月上旬の取材で「かつては『黒い金鉱』だったが、今では生活を支えるのにぎりぎりだ」と嘆いた。

カブレラさんは、10年前にはシーズンごとに約1万トンを収穫していた。しかし、この数年は生産量が年1500トン程度に落ち込んでいる。

スペインは欧州連合(EU)の主要なムール貝生産国で、世界でも中国、チリに次いで第3位。ムール貝はEUの海産物養殖の3分の1余りを占める。

EUのムール貝生産量は1990年代後半に年60万トン超でピークを迎えが、その後は気候変動など経済的・環境的要因で減少。2020年には43万1000トンに落ち込んだ。

カブレラさんのムール貝養殖場は、カブレラさんの父親が1982年に開いた。今は弟のルベンさんと共同で経営している。ディダックさんは養殖業を学び、5年前から養殖場で働いているが、それでもカブレラさんは経営の存続に自信が持てない。「息子は、祖父や父、叔父の事業を続けたいと思っている。でも、息子の将来はとても不確かだ」と口にした。

昨年は7月の熱波で約100万個の稚貝が死滅。カブレラさんなどこの地域の養殖業者は、より水温が低く深い海域でムール貝養殖が行われているギリシャから稚貝を購入せざるを得なくなり、出費が膨らんだ。

<気温上昇の脅威>

エブロデルタ自然公園は敷地面積が320平方キロあり、欧州の地中海地域で最大級の湿地帯。コメの生産、ピンクフラミンゴ、品質の優れた魚介類で知られる。家族経営の貝養殖業者が70軒あり、約1100人の雇用を支える。だが、その生態系が温暖化によって脅かされている。

エブロデルタは海岸の浸食などにも悩まされており、カブレラさんの養殖場があるファンガル湾は、長さ1キロに及ぶ砂の堆積によって徐々に閉ざされつつある。カブレラさんによると、このため海中の酸素濃度が低下し、ムール貝やカキの餌となる植物プランクトンを運ぶ水の循環も悪くなっている。酸素不足と海水温の上昇が重なるとムール貝は窒息してしまう。

農業食品研究技術研究所の研究者、マルガリータ・フェルナンデス・テヘドール氏の話では、ほとんどのムール貝は水温が摂氏28℃に達すると死んでしまう。ファンガル湾の水温は8月21日に30.8℃を記録した。「湾の熱波は頻度が増し、長期化し、程度が激しくなってきている」という。

海水温は世界的に上昇し、生物を極地方へと追いやっている。米国海洋大気局(NOAA)によると、今年8月には地球上の39%の海域で記録的な熱波が発生した。

テッサロニキアリストテレス大学の生物学者のカテリーナ・アリギザキ氏が明らかにしたところでは、ギリシャは昨年海水温が上がり、植物プランクトンが過剰繁殖してムール貝養殖場が打撃を受けた。

ムール貝の稚貝の死滅は欧州南部で頻発しているが、2020年の調査に基づくと、最近はもっと北の地域でも影響が出始めている。

<対応方法を模索>

カナダのダルハウジー大学生物学部のシェルビー・クラーク氏は、カナダの養殖業界は外洋からムール貝の稚貝を採取する今の養殖方法を見直し、孵化場で気温上昇に強い稚貝を育てる手法を検討することが可能だと解説した。耐暑性に優れ、価格も高いカキの養殖に移行している業者もいるという。

カブレラさん一家もこれまでムール貝とカキの両方を養殖してきたが、近年はカキの生産量を増やしている。また、収入源を多様化するために冬季にタコやイカの漁も始めた。

しかし、フェルナンデス氏はこうした手法にもリスクがあり、例えば、ギリシャなど他の国からムール貝の稚貝を輸入すれば、外来種を持ち込む恐れがあると話す。

延縄(はえなわ)を使い、海水温の低い沖合で養殖するという手立ても検討されている。だが、外洋での操業には新規操業許可の取得や船舶の停泊ペースの確保など、別の課題がある。

カブレラさんも「湾内で稚貝を養殖しても死んでしまうなら、外洋で稚貝を育てることに何の意味があるのか」と、この方法に懐疑的だ。

#スペイン(熱波・地中海沿岸のムール貝養殖に大打撃)

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