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“普通”という言葉。

ふだん何気なく使っているひと言に、大きな意味を持たせた人がいます。

プロ野球阪神岡田彰布監督(66)。38年ぶりにチームを日本一に導きました。

幾度となく選手に伝えていたのが「“普通”にやる」。優勝を『アレ(A.R.E.)』と表現して新語・流行語大賞にも選ばれた指揮官は、どのように選手たちを率いていたのか、その舞台裏です。

大阪放送局記者 中村拓斗)

何度も口にしてきた…
「“普通”にやりますよ“普通”に」
「“普通”どおりにやりなさい」
「“普通”にやるだけですよ。おーん」

今シーズン、選手や取材陣に対し、岡田監督が何度も発した言葉です。
昨年10月、15年ぶりに阪神のユニフォームに袖を通した岡田監督。ここ数年、上位争いをしながら優勝を手にすることができなかったチームを託されました。

就任会見では「最後はタイガースのために」と、なみなみならぬ決意を淡々と語りました。
岡田流・組織マネージメント<1>『適材適所の配置』
岡田監督が就任後、まず取りかかったのが適材適所の配置でした。
昨シーズンまで2年間ショートを守り、ベストナインにも選ばれた中野拓夢選手をセカンドにコンバートさせる大胆な変更をしました。

周囲は驚き、中野選手も「最初は納得がいかない部分もあった」と振り返りましたが、監督には中野選手の長所を最大限に生かす確信がありました。
昨シーズンまで解説者として試合を見ている中で、中野選手は肩の強さに課題があり、アウトを取り切れていないことを見抜いていたのです。
岡田彰布監督
「中野は足を使えて守備範囲は問題ないんだけど、やっぱり肩の強さが気になっていて。だからセカンドのほうがもっともっと能力を発揮できると思う」
シーズンに入り、中野選手は持ち味の守備範囲の広さを生かして何度もチームを救い、3年目で初めてゴールデン・グラブ賞を受賞しました。昨シーズンまで同じセカンドで10年連続で受賞していた広島の菊池涼介選手の記録を止めたのです。
中野拓夢選手
「ショートだと投げる距離があった分、バウンドが合わなくても前に突っ込んで捕球しに行ってミスがあった。セカンドになって距離が近くなった分、手先だけで投げられる。距離が短くなって余裕ができた。そこが一番大きい」
中野選手が抜けたショートの候補は、肩の強い木浪聖也選手と小幡竜平選手になりました。

2人が競いあってレベルアップを図った結果、レギュラーに定着した木浪選手が5年目で初めてベストナインとゴールデン・グラブ賞を同時に受賞しました。
木浪聖也選手
「ショートをやるって決めたときは、守備が大事だなっていうのをすごい意識した。守備のことしか考えてなかった。自分の長所をどう生かしていこうかなと思った」
岡田流・組織マネージメント<2>『役割の明確化』
岡田監督がこだわったのが、選手たちの“役割の明確化”です。

守備ではコンバートをしたセカンドとショートを含めて、ほとんどの選手のポジションを固定しました。攻撃でも打順を極力変えず選手の役割を明確にし、理解しやすいようにしたのです。

今シーズンの開幕から日本シリーズまで153試合すべてで4番を任された大山悠輔選手は、打順を固定されたことで意識が劇的に変わったといいます。
大山悠輔選手
「そこでやるだけ、やるしかないっていう心ができたというか。自分が崩れてしまったら、本当にチームが終わるくらいの気持ちを持つことができた。打線の中心にいるので、どうやったらチームでうまく回るか、打線としてつながるかということをすごく考えた」
岡田彰布監督
「(選手に)そんな大きいことを要求しないし、今の自分の力を試合で出そうやというだけの話。みんなの集まりやからな、チームやからな。だから役割、役割って言ってるけどな」
選手の特徴を見定め、長所を生かせるところに配置する。決して実力以上のことは求めず、与えた役割を確実に実行してもらう。これが岡田監督の“普通”です。

岡田監督の“普通” 野球人生そのもの
阪神入団会見(1979年)
その岡田監督の“普通”は、野球人生のなかで染みついたものでした。

大阪で育ち、早稲田大学に入学。

大学の野球部で植え付けられたのが基礎の徹底でした。合宿では毎日500本以上ものノックを受けました。

自分の役割を果たすため、できることを着実に積み重ねていく。その重要性を4年間で感じ取っていきました。

阪神にドラフト1位で入団し6年目の1985年、吉田義男監督の下で球団初の日本一を経験しました。
当時のチームは、球史に残る「バックスクリーン3連発」など強力な打線が印象的ですが、その裏で地道で堅実なプレーがチームを支えていました。

岡田彰布監督
「あの時も役割分担をやってたんよ。今みたいに、つないでつないで点を取る。ホームランが多かったわりに、バントの数も(リーグで)一番多かったから。それは2番や7番、8番が上位につなぐバントを、きっちりやっていたということやろうね」

岡田流・組織マネージメント<3>当たり前を当たり前に
今シーズン、岡田監督は選手たちにその“普通”を求めました。当たり前のことを当たり前にやるよう徹底したのです。

堅実な野球を掲げ、守備ではファインプレーよりもアウトにできる打球を確実にアウトにすることを第一に考えました。

打撃では「ボール球を振らないよう」求め、選手の年俸につながる「査定」でフォアボールのポイントを上げるよう球団のフロントに掛け合って受け入れてもらいました。監督としては異例の要求でした。

そこまでして、ボール球を見極める意識を浸透させようとしたのです。

岡田彰布監督
「守りの立場で考えると、フォアボールで出塁されるとものすごく嫌。ヒットを打たれるのは仕方がないが、フォアボールで出塁されるのはつらい」

“令和の怪物”をフォアボールから攻略
その象徴となった試合が6月のロッテ戦、相手の先発は“令和の怪物”と呼ばれる佐々木朗希投手でした。

ノーヒットに抑え込まれた打線は6回。先頭の中野選手が、追い込まれてから3球連続でボール球を見極めてフォアボールで出塁します。

フォアボールを選ぶ中野
盗塁と相手のミスで三塁へ進み、4番の大山選手がタイムリーヒット。フォアボールをきっかけにわずか1本のヒットで決勝点をもぎ取ったのです。

今シーズン、チームで奪ったフォアボールは、リーグ断然トップの494個。決して派手さはないものの「ボール球を振らない」という“普通”の意識を徹底させ、地道な出塁を得点につなげ白星を重ねました。

浸透した“普通”を見せた大舞台
シーズンが進むにつれて、選手たちは与えられた役割をしっかり理解できるようになっていきました。

求められている“普通”を実行できるようになって強さが増し、18年ぶりのリーグ優勝を決めました。
日本シリーズは59年ぶりの関西対決。

オリックスを相手に2勝2敗で迎え、勝った方が日本一に王手をかける第5戦。

終盤の7回表、ツーアウト一塁の場面でセカンドの中野選手がゴロを後逸し、さらにカバーに入ったライトの森下翔太選手がボールをつかむことができず“ダブルエラー”をして追加点を与え、リードが2点に広がりました。
徹底してきた“普通”の野球がほころび、苦しい展開に。

それでも8回、先頭の8番・木浪選手が内野安打とエラーで出塁し、次の代打もヒットでつなぎました。

1番・近本光司選手のタイムリーヒットで1点差。エラーをした中野選手が送りバントで着実につなぎ、二塁・三塁の場面で森下選手が2点タイムリスリーベースを打って逆転しました。

それぞれの役割を全うし、つないで点を取る――選手たちは大舞台で“普通”の野球を見せつけたのです。

岡田彰布監督
「この1年の集大成というか、1年間やってきた後ろにつなぐ野球というか、みんなで点を取れた。1年間、みんなが自分の役割をきっちり守って、その結果が最後まで来たと思うので。皆さんにすばらしい打撃を見せられたのは本当によかった」

最後の第7戦までもつれた日本シリーズを制して、38年ぶり2回目の日本一に輝いた阪神。選手たちは岡田監督の“普通”が、みずからを変えたと語ります。

木浪聖也選手
「監督は“普通”にやれば結果は出るとか、“普通”にやれば勝てるってよくおっしゃるんですけど、本当にその通りでした。変なことしたり緊張して固まってしまったり、ふだんと違うことをやるから失敗するんだよと言っている気がして。監督のそのひと言は自分にとっていい言葉」

大山悠輔選手
「一人一人が自分の役割をわかっていた。出来ないことをやるのは“普通”ではない。今までやってきたことを“普通”にやって、それでまた違うパワーが出て、いつも出来なかったことが出来る。その出来てきたことが“普通”になっていく。それが、どんどん強くなっていくチームだと思う」

組織を束ねるリーダーとして…
岡田監督は“普通”を貫いてチームを日本一に導き、選手たちにこれ以上ない成功体験を積ませました。
『特性を見極め』て『適材適所に配置』。

その上で能力以上のことは求めず、個々に与えられた役割のなかで、『できることを着実にやる』ことで力を発揮してもらう。こうした考え方は野球だけでなく、組織を束ねるリーダーが持つべきマインドなのかもしれません。

わずか1年で組織を強くした指揮官は来シーズンに向けて、選手個々のレベルアップを目標に掲げました。

球団史上初の連覇という偉業への強い決意も、淡々としたいつもと変わらぬ口調で語っていました。

岡田彰布監督
「今シーズンの最初のころは、試合前のミーティングで最後にひとこと言っていたが、だんだんと言わないようになったわ。言う必要ないからね。もう『“普通”どおりにやりなさい』で終わるから。それで勝つと余計にチームが機能するようになる」

「役割分担でやれば勝てることが分かったのだから。勝ち方は分かったわけだから。みんながもっとレベルアップすると思うね、“普通”にやれば」

(12月1日「スポーツ×ヒューマン」で放送)

#阪神優勝(岡田監督「基礎の徹底」「自分の役割を果たすためできることを着実に積み重ねていく」)

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