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欧米の中央銀行は、オランダ語で「何もしない」を意味する「ニクセン」を実践している。
ニクセンはストレス解消法として世界的な社会現象となっており、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長や欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁、イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁も取り入れるように見える。

何もしない背景には金利を引き下げればインフレが再燃しかねないという懸念がある。だが、こうした金融政策のニクセンには、商業用不動産など負債の多い経済セクターを破綻させるリスクが伴う。

欧米の中銀は長らく積極的な政策運営を続けてきたが、今は仕事に乗り気ではないようだ。パウエル氏はテレビインタビューで、利下げに「慎重に」対応したいと発言。ラガルド氏も最初の利下げまでには時間がかかると述べた。ベイリー氏はインフレ率が目標の2%に達しても「仕事が終わった」とはならないと警告している。

3人の懸念は明らかだ。高インフレへの対応が遅れたと批判された経緯があり、拙速な勝利宣言でインフレを再燃させたくないと考えているのだ。


だが、中銀が何もしないことでインフレ調整後の実質金利は急上昇している。米国では2022年初め以降、政策金利が名目ベースで500ベーシスポイント(bp)引き上げられたが、キャピタル・エコノミクスの推計によると、実質金利は1000bp上昇している。ユーロ圏、英国も似たような状態にある。

経済の脆弱なセクターを最終的に揺るがしかねないのが、こうした実質金利だ。米国の商業用不動産セクターが最近動揺しているのが一例と言える。

モルガン・スタンレーのアナリストによると、不動産デベロッパーは25年末までに2兆ドルの債務の借り換えが必要になる。こうした債務の3分の1以上には米地銀が関与している。金利が上昇すれば財務破綻のリスクが高まる。

欧州ではスウェーデンの不動産グループSBB(SBBb.ST), opens new tabやドイツの銀行ファンドブリーフバンク(PBB)(PBBG.DE), opens new tabに対する懸念が浮上。オーストリアの不動産王ルネ・ベンコ氏が経営するシグナはすでに破産を申請した。

不動産管理会社AEWの調査によると、ユーロ圏の他の不動産デベロッパーも24─26年に満期を迎える債務について、900億ユーロ以上の資金調達ギャップに直面している。
中銀は大幅な利上げを実施しており、事態が悪化した場合には十分な利下げ余地がある。だが、そのためには「何もしない」ニクセンを放棄しなければならない。ニクセンの第一人者オルガ・メッキング氏は成功の秘訣は「結果を手放す」ことだと指摘しているが、それは中銀にはできない贅沢だ。

●背景となるニュース
*米抵当銀行協会(MBA)によると、商業用不動産ローン残高の約2割に相当する9290億ドルが24年に満期を迎える。24年に借り換えが必要なローンは、23年に満期を迎えた商業用不動産ローン(7290億ドル)を28%上回る。
モルガン・スタンレーによると、商業用不動産ローンの満期到来で不動産デベロッパーと米銀への圧力が強まるとみられる。特に中小の地銀は25年末までに満期を迎える商業用不動産ローンの約30%を保有している。