アングル:独極右政党AfD、裕福で高齢の献金者が支える構造 https://t.co/8TDHxN2az1
— ロイター (@ReutersJapan) April 8, 2024
ヘルムート・イズマー氏(72)の言い分に従えば、ドイツの最近の歴史は1970年代以降に幾つか到来した衰退期の一つで、その始まりはメルケル前首相が移民受け入れを決めた2015年だ。
名前が分かっている中では、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)の最大の個人献金者であるイズマー氏は、東部の不動産ブームに乗って財をなした人物で、自身が20代だった往時を懐かしむとともに、未来への恐怖におびえているように見える。
冷戦下にあった当時の西ドイツでは、反共を掲げた保守政治家の雄、フランツ・ヨーゼフ・シュトラウスが健在だった、とイズマー氏は指摘する。「私も今や年齢を重ねた。だが、ドイツが今の方向にそのまま進んでほしくはない」とも語った。
今年は欧州連合(EU)欧州議会選挙や、ドイツで複数の州議会選が予定され、事前の世論調査で高い支持率を得ているAfDに対する法的、政治的監視の目はかつてないほど厳しく、全ての州からの政党交付金が打ち切られる可能性が出てきている。
そうした中で昨年、25万ユーロを献金したイズマー氏のような支持者の存在は、一段と重要になる。第2次大戦後の復興期を通じて豊かになったこれら高齢世代の支持者たちには、交付金カットの穴を埋められるだけの資金力もある。
AfDの年間収入は2000万ユーロ。この約半分は主として個人献金と党員費で、残る半分が選挙結果によって増減する交付金だ。
マインツ大学のカイ・アルツハイマー教授(政治学)は「AfDは他の政党に比べて5万ユーロを超える大口献金者は少ない」と指摘した。
つまり主力となるのは1万-5万ユーロを納入しているビジネスマンの個人献金者で、これが全献金の20%前後を占め、党運営に対して際立った影響力を持つ。100人前後というこれらの人々の大半は18年以来、内部で選出されて給与の1割を納める役職員になっている。
また、献金額が1万-3万ユーロであるそれ以外の十数人は、イズマー氏のように65歳以上であり、不動産や法律、製造業などの分野で小規模な事業を成功させて裕福になっているという特徴がある。
ドイツ国内のさまざまな街角で自身のメッセージを、西ドイツ時代の戦車指揮官さながらの歯切れの良い口調で伝えるイズマー氏の物腰は実に穏やかだ。
ところが「ドイツは移民受け入れ前、気候変動問題が議論される前、ウクライナ戦争を巡ってロシアとの関係が完全に途切れる前の姿に戻るべきだ」というそのメッセージは、まさに極右の主張にほかならない。
イズマー氏は、治安当局が過激主義の組織として監視している極右雑誌「コンパクト」にも献金しており、新型コロナウイルスのパンデミック中に行われたロックダウンは、行き過ぎた強権的行為とみなしている。
<氷山の一角>
イズマー氏はロシアにも好意的。昨年は「戦争ばかり考えている」というメディアの論調が本当かどうか確かめようとロシアに行き、自身では荒廃してしまったとみているドイツよりも、社会モデルとしては優れているとの実感を持った。「(モスクワは)魅力的だった。非常に清潔で、フランクフルトに存在するような街頭の犯罪者が見当たらなかった」と賞賛する。
化石燃料車禁止に対する極右の反対論も、国内製造業において自動車が中心となっているドイツの国情に親和性があるのかもしれない。
ただ、AfDは過激主義や人種差別を推進している疑いで治安当局の監視下にあるだけでなく、ロシアから何らかの支援を受けているとの指摘もあり、心情的に共感できる部分があると思っている人にとっても「毒性」の強い政党と言える。
実際あるパン店のチェーン運営企業の創業者は、ドイツから外国人を排除する方法を議論するAfDのイベントへの参加者を募るビジネスマン団体の1人だったと判明した後、会社を守るために退職している。
そうなると、イズマー氏のような表に出るのをいとわないビジネスマンが注目を集めることになるが、言うまでもなく彼らはAfD支持者全体のごく一部に過ぎない。ドイツの法律では、1万ドル超の献金者しか身元を明らかにする義務は課されないからだ。
マインツ大学のアルツハイマー教授は「裕福で高齢の支持者たちが亡くなっても、AfDは十分な資金提供を受けられる」との見方を示した。
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