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中央銀行の幹部はしばしば、自らの仕事に天文学占星術の要素があることを市場に知らしめざるを得なくなる。米連邦準備理事会(FRB)は現在、次の一手の手掛かりを得ようと経済データを探っても一層混乱するばかりだろう。エコノミストと投資家の間では、FRBがいつ利下げを開始するかについて見方が大きく分かれている。米大統領選挙が近づき、経済データが白黒つかない今、パウエルFRB議長は天空を仰いで答えを探しているかもしれない。

昨年末、FRBは利下げ開始に前向きだった。インフレ指標は改善し、連邦公開市場委員会(FOMC)は2024年に0.75%ポイントの利下げを見込んでいた。約半年が過ぎた現在、市場は年内の利下げの有無を巡ってさえ見方が割れている状況だ。

シカゴ商品取引所(CME)によると、大半の投資家は11月のFOMCまでに利下げが実施されると予想している。11月会合の結果が発表されるのは大統領選の2日後だ。また、9月に利下げが実施されるか否かについては予想がほぼ二分している。9月会合は大統領選前に利下げを行う最後の機会となる。

今週11─12日のFOMCでは利下げが見送られるだろう。経済は好調だ。年率4.1%という賃金上昇率はFRBにとっておそらく高過ぎるし、5月の失業率は4%で、大幅な景気減速のサインとは程遠い。FRBが注視するインフレ指標は3%を下回っているが、より幅広く利用される消費者物価指数(CPI)の上昇率は高止まりしており、年初に比べてじりじりと上がっている。

とはいえ、経済データ、特に住宅関連指標に陰りが生じていると指摘するエコノミストは増えている。つまり、経済指標は大きく遅行しているのであり、現在のインフレ環境は指標が示すよりもずっと落ち着いている、というわけだ。

大統領選前に利下げを行えば、現職のバイデン大統領を利すると受け止められそうなだけに、FRBの決定は大きな意味を持つ。選挙の2カ月前に25ベーシスポイント(bp)の利下げを実施したからといって、急に住宅供給や雇用が増えるわけではない。しかし株式市場には支援材料となり、住宅ローン金利は小幅ながら下がり、消費者心理は改善してバイデン氏の追い風となる可能性がある。今回予想されるような接戦においては、経済ファンダメンタルズのわずかな変化が戦況を左右する。

もっとも、パウエル議長はFRB無党派性を誠実に守り抜いてきた。歴史的にはアーサー・バーンズ元FRB議長とニクソン元大統領の関係に学び、またトランプ前大統領や民主党エリザベス・ウォーレン上院議員など多くの要人から批判を受けた自身の経験も教訓としている。

不当なことだが、大統領選前に利下げを実施しても、あるいは見送っても、FRBの独立性を疑う向きには格好の批判の種を与えるだろう。陰謀論がはびこるこの時代において、パウエル議長が「データに依拠」して政策を決定すると約束していることは、必要であり思慮深い行動だ。しかし、だからと言って、どの星に従えば適切な政策運営ができるのか、パウエル議長が確信しているとは限らない。

米国は、ドルの基軸通貨としての地位を支える法と秩序、民主主義という「柱」を嬉々として破壊している。直近では、トランプ前大統領が有罪判決を受けた後、一部の有力者が法制度を攻撃するという一撃を繰り出した。ドルの代わりを見つけろと世界に挑んでいるようなものだ。

米国は外交政策における懲罰的手段としての制裁を大幅に増やした。また債務は格段に増加し、安全性と市場の厚みを求めて米国債を買ってくれる外国人投資家を憂き目に遭わせている。

この3週間、アジアと米国の金融サービス企業の幹部、グローバル投資家、その他の専門家に、米国はいつまで大きなしっぺ返しを免れるだろうかと聞いてみた。

何人かは匿名を条件に率直に語ってくれ、米国の傲慢さがもたらす結果について国内外で不安が広がっていることが分かった。ただ、ドルの代わりを探そうという努力も虚しく、信頼に足る代替通貨が見つかった、あるいは近い将来に見つかりそうだと答えた人は誰ひとりとしていなかった。その一因は自国側にあるという。

例えばアジアは、米国投資を減らしてドル建て以外の貿易を増やすため、ドルと並ぶ通貨を見つける必要性に駆られている。

しかし、そのような試みは遅々として進まず、弾みもついていない。また、アジアでは独裁主義が台頭し、個人と財産の権利が脅かされ、地政学的緊張が高まっているため、いくらドル資産の魅力が薄れたとはいえ、他の選択肢よりはマシという状況だ。

例えば最近の調査によると、中央銀行の準備担当者は、世界的な地政学的緊張の高まりと流動性の必要性から、今後12―24カ月の間にドルの保有を増やす予定だ。

ジョンズ・ホプキンス大学の応用経済学教授で、レーガン元大統領の経済諮問委員会の委員を務めたスティーブ・H・ハンケ氏は、「皮肉なことかも知れないが、米ドルの強さは、安全資産としての地位がほぼ揺るぎないものであることに一因がある」と指摘。「とはいえ、ほとんどの投資家は手遅れになるまで、地政学や水面下の危険性を理解しないのだが」と述べた。

<ドルの優位性>

ドルが基軸通貨であることの核心は米国の民主主義の原則にある。それは巨大な経済規模、市場の厚み、制度の強さと法の支配によって支えられている。

民主主義に対する信念は深い。先週、1997年から米政府で役職に就いている米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長に、党派政治によって氏のような役人の仕事は難しくなっているのではないかと尋ねた。この日、保守派寄りの連邦高裁はゲンスラー氏の主導する政策のひとつに無効の判断を示していた。「米国の立憲制度を信じている。混乱に満ちているが、それが民主主義だ」というのがゲンスラー氏の答えだった。

とはいえ、こうした混乱はドルの魅力を支える柱の一部を揺さぶっている。

トランプ氏が不倫口止め料の不正処理を巡る裁判で有罪の評決を受けた後、米国の法制度に対する攻撃が激しくなっている。例えばフロリダ州のロン・デサンティス知事はX(旧ツイッター)に「評決は関係者の政治的意思によって歪曲された法的プロセスの集大成だ」と投稿した。

アジアに拠点を置く大手投資家は米国の政府機関に対する潜在的な脅威も心配だと述べた。連邦準備理事会(FRB)の権威を失墜させるようなことがあれば(トランプ氏の陣営はそうした政策を検討していると言われている)、ドルの信頼性に影響を及ぼし、その場合はドルが大幅に下落する可能性もあるという。

<相次ぐ制裁>

アジアに滞在中のニューヨークの金融サービス会社幹部によると、欧米の経済政策が「ドルと欧米の金融システム全般を蝕んでいる」との声が顧客から出ている。

幹部はその理由のひとつに「度重なる制裁」を挙げた。

そして西側は、一線を越えようとしている。ウクライナ侵攻を巡って凍結したロシアの資産約3000億ドルを欧米が没収するという議論は、資産逃避地としての米国の地位を損なうものだとこの幹部は言い、「西側諸国はルビコンを渡った」と語った。

2021年10月に米財務省が出した報告書によると、2000年には912件だった制裁指定が21年には9421件に増えていた。財務省は当時、「米国の敵対国(そして一部の同盟国)がすでにドルの使用を減らしている」と指摘した。

アジアのある投資家は、米国の法の支配の強さを判断する上で別の裁判を注視している。 TikTok(ティックトック)の米国での使用禁止に対する中国の字節跳動(バイトダンス)の異議申し立てだ。この投資家は、ティックトックは国家安全保障上の脅威であるという主張を裏付けるために米国が出す証拠に注目している。もし証拠が公表されなければ「チェック・アンド・バランス、つまり法制度の独立性が、少なくともこのケースでは存在しないと感じるだろう」と話した。

ただこの投資家は、それでも米国から離れられないかもしれないとも付け加えた。依然として他の多くの国よりも独立性が高く、優れているためだという。