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『代表的日本人』
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　仏の大政治家、第十九世紀の大産物ジヨージユ・クレマンソー長逝して今昔の感に堪へない。彼は千八百四十一年の生れであつて自分より二十年の年長者である。彼はその長き生涯に於いて多くの驚くべき事件を目撃した。日本国の勃興、米国の南北戦争、露土戦争、殊に普魯西の勃興に対する仏蘭西の一時的衰退、最後に世界大戦争に於て独逸の挫折と仏国の復仇、そして彼等自身の生涯が其大部分に深き関係を有つたのである。世界的偉人とは彼の如き者を指して云ふのである。殊に自分に取り思出多きは此偉人が自分の『代表的日本人』を読んで呉れしとの事である。・・・・・クレマンソーは欧米諸国に於ては無神論者として知らる。然し彼も亦欧米知名の無神論者に非ずして無教会論者であつたのである。クレマンソーは仏国加特利教会又は英国監督教会の信ずる神を信じ得なかつたのである。真に同情すべき尊敬すべき人物である。今や此人亡し、サヨナラ、クレマンソー君、サヨナラ十九世紀、と言ひたくなる
と（一九二九年十一月二十七日の日記）。
　周知の如く「日本」に「イエス」を伝ふるがためにその生涯を献げ「無教会主義者」「武士的基督者」として欧米の教会的勢力に対し終始全く独立の道を歩んだ著者は、その魁偉な風丰が「猛虎」と称ばれたクレマンソーと甚だ似てゐた計りでなく、その剛毅な独立心と愛国心とに於て極めて相通ずるところがあつたと思われる。