https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

宮田秀明「安全への検証」と「技術者の情熱」はあるか

 経営も設計も“Good at everything, best at a few”でなければならない。どこにも悪いところがあってはならないが、その上で競争力を持つように他社に比べて優れたベストがなければならない。

 最もBadが許されないのが航空機、船、車、列車などの輸送機器である。人命を預かる工業製品だから当然のことではあるが、このことによって設計法や開発法は他の工業製品とは異なったものになることはあまり理解されていないかもしれない。

 私の専門の船の世界では、実績のある設計からの変更点をなるべく最小にしようとする保守的な設計をするのが基本だ。造船会社には膨大な実績データとそれをルール化したものが備わっていて、設計はこれを使って行うのが基本である。少しでもこのルールを逸脱したり、新しい設計にする時は丁寧な実験を行って詳しく検討するのが普通である。会社員時代、ルールをほんの少し逸脱した設計の船を担当して、大変な苦労をさせられたことがある。安全とは関係ないが、経済性に大きく関係することだった。社会人5年目の経験だった。

 この10年ぐらいの間に、乗用車の開発期間は大幅に短くなった。それまでモデルチェンジするのは4年に1回というのが各社の決まりごとのようになっていたのに、数年前からは、プラットフォームが同じなら、1年以内に開発し、一番縮まらないのは金型の製作だというぐらいにまでなってきた。心配なのは最後のチューニングや性能や安全の確認がこんなに短い開発期間で充分行えるのかということである。

 輸送機器は、自然環境の中で機能する技術として技術者が創造する。自然と技術と人の一種独特な調和関係を正しく保っていくことを無意識の哲学とし、それを実現しようとする情熱が、輸送機器技術者の基本素養だと思う。