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宮田秀明 今年のアメリカズカップは“変曲点”

安いし性能のいい船なので、国内では評判が良く、17年も使い続けられることになった。代替船を建造する時はこの船の改良版でいいと顧客に言われるほど評価が高いのに、その販売数は伸びない。日本の造船会社は船価100億円のタンカーの営業には必死に取り組むのだが、船価10億円の旅客船の営業に本気で取り組まないからだ。

技術を生かすのは経営である。技術が経営を支えるのだが、経営が技術を支えることも大切だ。新しい技術を創造し、実証して商品にまで持っていくために経営の果たす役割は大きい。技術経営とはこのことだ。

 レースのための技術開発では全く違ったことが起きる。勝敗が明解に決まるのだ。速い船は速い。遅い船は遅い。いくら営業しても遅い船が勝つことはない。この明解さがレースの技術開発のうれしいところだ。技術者の技量や努力や苦労の総和の戦いの結果は何の嘘もなく、さっぱりとした形で示される。

 イタリアのチーフデザイナーが言った。
 「日本艇の形はおかしい。何か間違えたのだろう」


 私は勝ったと思った。少なくとも設計力では私たちの方が上だと思った。長い技術開発の中で最大の発見だったのが、細く絞って断面形を箱型にした後半部の形状だった。イタリアのチーフデザイナーはそれを理解できなかったのだ。

 人は自分より下にある人の技術や能力は理解できる。しかし、自分より上にある人の技術や能力は理解できないものだ。低い構想力の人が高い構想力の人を理解することは不可能なのだ。

 次のアメリカズカップはどうなるのだろう。日本が参戦しなくなって10年になる。このまま海洋文化を劣化させるようになってはいけないと思うのだが、残念なことに、この10年、海洋や船舶の世界の技術と人材は劣化傾向を強めている。造船業、海洋産業における経営力の無さが一番大きな要因である。


 文化活動にとってさえ経営力は大切なのだ。経営力が低くて、人材を劣化させてしまったら、回復させるのは容易ではない。