「別に改めて言うことはないよ。いつも言っているように、何をするにしても君たち自身を大切にさえしてくれれば、それでいいんだ」(ソクラテス)
「法の定めるところによって、ソクラテスは死刑の宣告後30日の間、刑を執行されなかった。この間、彼は以前とまったく変わることはなかった。だれよりも生気にあふれ、澄んでいることを称賛されていた、あの以前の日々のように」
毒杯を自らあおぐという死刑の当日、ソクラテスの獄には多くの弟子や友人たちが集まってきた。彼は彼らに魂の不死を説き、「死を憤る者は、知を愛しているのではなく、肉体を愛しているのだ。つまり富への愛か名声への愛か、あるいはその両方だよ」と諭した。
また、当時のギリシャでは、死刑執行の前に「たらふく飲んだり食ったり、恋人とむつまじくする」ことも許されていた。が、ソクラテスは言った。「そういう人にはそれでいいのだよ でもぼくはちがう。毒杯を少々遅れて飲んだところで何の得にもならないばかりか、自分で自分を笑い物にするだけじゃないか」
冒頭は弟子が“遺言”を尋ねたさいのソクラテスのことばだ。
彼はまたこうも語っていた。「ぼくの身体が焼かれたり、葬られたりするのをみても、ぼく自身がひどいめにあっていると思って憤慨しないでおくれ。それはぼくの魂ではなく、身体に対してのことにすぎないのだから」