https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

コラム:「日銀外債購入」の危険な副作用=上野泰也氏

日本経済が慢性的なデフレから脱却するための政策展開の本筋は、本来、実物経済における「過少需要・過剰供給」構造の地道な改善であるべきだ。需要サイドでは多面的な人口対策によって国内消費の縮小を食い止める一方で、供給サイドでは不採算企業の退場を促しつつ新しいビジネスを積極的に育成・支援することによって産業構造の新陳代謝を促す必要がある。


ところが、政府は政策の優先順位をトップダウンで大胆に決めることができず、半ば硬直的な予算編成を続ける一方で、日本銀行に対して、もっぱら「のれんに腕押し」的な金融市場への資金供給上積みを求めている。あたかも金融政策を「アリバイ作り」的にデフレ対策の主軸とみなしているかのようだ。

そうした中で、最近、一種の流行のように唱えられているのが、他でもない、「日銀による外債購入」案である。たとえば、次の総選挙で議席を大幅に増やすとみられている自民党は8月31日に発表した「日本経済再生プラン」の中で、「デフレ・円高から脱却するため、従来の常識を超えた大胆な金融緩和措置を実行」すると明記した。具体的には、日銀法の改正も視野に、政府・日銀の物価目標(2%程度)協定の締結、そして日銀による外債購入などの措置を講じるとした。


しかし、結論から言えば、筆者は、日銀による外債購入はいわば「無理筋」の主張だと考えている。


確かに、「資金供給手段の多様化」という観点からはいくつかのメリットがあるし(日銀当座預金との代替性の低さ、名実ともに「銀行券ルール」の対象外であることなど)、日銀法の解釈上も日銀が独自に外国為替の売買を行う余地をまったく見出せないわけではない。


しかし、日銀が金融市場に供給するマネタリーベース(ベースマネー)の「量」それ自体に景気・物価に対する意味のある刺激効果は伴わないという前提をとる限り、後述するさまざまな問題点を含む外債購入にまで日銀があえて踏み出していく意義は見出しにくい。これは、10年以上も前、2001年10月―02年3月開催の日銀金融政策決定会合で展開された議論を経て、とうの昔に決着がついた話であるはずだ。

こうした中で筆者が最近ひとつ気になっているのは、財務省出身の国際機関高官の発言だ。財務省の独占的な為替政策管轄権を崩しかねない日銀による外債購入という議論に対し、足並みを揃えて反対を唱える一方で、その代わりと言うべきか、資産買入等基金が買い入れを行う資産の範囲を拡大すべきだという主張を展開している。


アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁(元財務官)は9日、日銀が「緩和するための手段は山のように」あるとした上で、外債購入については法律上の問題があるとして消極的な姿勢を示しつつ、国債のほかに「民間の債権(債券とした報道もある)、ABS(資産担保証券)、インデックス債、株式もある」と述べた。


また、国際通貨基金IMF)の篠原尚之副専務理事(元財務官)は11日、ロイターとのインタビューで、日銀による外債購入は継続的な為替市場への介入につながりかねないとして「メッセージとして間違っている」と発言。日銀には「他に買えるものがたくさんある」と述べ、資産買入等基金による買い入れの対象や期間の多様化を具体例として挙げた。


総選挙の結果いかんにかかわらず、デフレ脱却に向けて一段の追加緩和を日銀に求める政治的な圧力が、2014年4月に予定されている第一弾の消費増税に向けて一段と強まることが予想される。外債購入というアイディアに対しては、財務省が強硬に反対する可能性が高いために、資産買入等基金が買い入れる資産(長期国債や信用リスクを伴う各種資産)の範囲を大幅に拡大する方向へと、話は傾斜しやすくなる。

日銀の金融政策はなし崩し的に、日銀券の信認への疑念や財政規律の弛緩といった、長い目で見た場合の弊害や副作用が危惧される「危うい世界」へと足を踏み入れつつあるように思える。筆者の見立て通りならば、市場へのインプリケーションは、為替市場では悪い円安、債券市場では国債イールドカーブのベアスティープ化(超長期国債を中心とする利回り上昇)ということになりそうだ。