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【複眼ジャーナル@NYC】米、大国の地位おりる? 「身の丈大国」へ転換 容認論

 「彼は国際連盟のような多極主義体制を志向していたのですよ」


 ニューヨークを訪れた、ジョン・ガディス米エール大教授が意外な歴史的事実を教えてくれた。「彼」とは、冷戦時代に活躍した米国人外交官、ジョージ・ケナン。2005年に亡くなったケナンとガディス教授は長年の知己である。


 ケナンといえば1947年、米外交雑誌フォーリン・アフェアーズに「X」というペンネームで旧ソ連の「封じ込め政策」を説き、当時のハリー・トルーマン米大統領が掲げた共産主義包囲網「トルーマン・ドクトリン」の思想的な礎を築いた。その後、ケナンはペルソナ・ノングラータ(歓迎されざる人物)として旧ソ連から外交官待遇を拒否されている。


 ケナンの日記まで読み込んだガディス教授によると、米国民が抱いているケナンの対外硬派イメージは実は間違いなのだそうだ。「ケナンは80年代にかけての軍拡競争を目の当たりにして、米国の超大国主義が逆に米国と世界にとって危険であると考えていたのです」


 ガディス教授はケナンの伝記を出版し、ピュリツァー賞を昨年受賞したベストセラー作家でもある。ケナンの愛人問題(伝記ではつまびらかにしていない)までも知るガディス教授が明らかにした「協調主義者としてのケナンの素顔」は米国の外交史研究家に衝撃を与えた。

 ニューヨークではこのところ、米国の世界的な立ち位置を問い直す会合が人気を博している。講演者はいずれも、新興国の台頭を理由に米国の大国としての地位低下に拍車がかかり、中国、インド、欧州連合(EU)といった新しいパワーとの折り合い地点を見つけ、米国のエゴを自重すべきである−−と説く。


 「21世紀の賢明な統治・東西の中間を模索する」(バーグルエン研究所のニコラス・バーグルエン会長)


 「米国経済は再び世界のエンジンになれるのか」(シカゴ大学マルビン・ゾニス教授)


 「偉大なる収斂(しゅうれん)・アジアと西側と世界の論理」(シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院のキショール・マブバニ院長)


 金融危機前なら「片腹痛い」とばかりにニューヨークの観衆は講演者に批判を浴びせただろうが、最近の会合では多国間協調や選択的な介入主義を支持する声が多く聞かれる。


 米国経済の世界シェアはケナンの時代から15ポイントほど低下し、もはや2割程度にすぎない。


 米国の財政難を受けて、ニューヨークっ子は(3月に施行の可能性がある)国防費の自動強制削減についても容認している。

 最近の米国で流行している造語が、大国なき新しい世界秩序を意味する「Gゼロ」だ。言い出したのは米コンサルティング会社ユーラシアグループを率いるイアン・ブレマー氏。


 政治学者のフランシス・フクヤマ氏やノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏もGゼロ論を唱え、新興国を加えた20カ国・地域(G20)の財務相中央銀行総裁会議など新しい枠組みを評価する。


 人気を博するケナン研究にGゼロ論。景気回復が本調子でない米国の「リーダー疲れ」なのか、「成熟化」なのか−はまだ判別しがたいが、懐勘定に敏感なニューヨークで「身の丈大国」への生まれ変わりを容認する動きが広がっているのは確実だ。