FRBのイエレン議長は16日、ニューヨークで金融政策をテーマに講演しました。
この中でイエレン議長は、アメリカ経済の現状について、正社員の職がなく、やむをえずパートで働く人の数が高止まりしていると指摘し、「回復の足取りはがっかりするほど遅い」と述べ、景気の回復はなお道半ばだという認識を示しました。
そのうえで、「雇用と物価の改善が不十分で、目標達成の見通しが遅れれば、今のゼロ金利政策はそれだけ長期にわたって維持される」と述べ、FRBは雇用と物価の改善を十分に見極めたうえで金利引き上げを判断するという考えを強調しました。
イエレン議長は、異例のゼロ金利を解除して金利を引き上げる時期を巡る、先月の記者会見での発言が、市場の予想よりもかなり早い、来年春の可能性を示唆したと受け止められ、一時、株式市場などが混乱しました。
今回の発言は、市場にくすぶる早期の金利引き上げ観測をけん制し、FRBは金融緩和の継続に積極的だという姿勢を改めて強調したものと言えそうです。
イエレン米FRB議長のエコノミック・クラブでの講演要旨 | Reuters
<インフレ率>
インフレ率が低水準なのは、消費者向けエネルギー価格の鈍化、ここ数四半期の輸入物価の下落といった一時的な要因が影響しているとみられる。だが長期的なインフレ期待はかなり抑制されている。一時的な要因の影響が薄れ、労働市場の改善が続く中、インフレ率は徐々に目標の2%に向かうと予想する。
<FRBの経済見通し>
米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の予想は総じて、失業率が2016年末時点で5.2%─5.6%に、インフレ率が1.7─2%になっているというものだ。見通し通りであれば、経済はわれわれが雇用最大化と物価安定という観点から目指す状態に、10年近くで初めて近づくことになる。この基本的な見通しを私はかなり妥当だと考えている。
<労働市場>
労働市場の緩みがみられるなか、FRBの責務に沿った水準と比較して雇用が不足しており、おそらく失業率がこれを最も示す指標だろう。この雇用不足は重大で、われわれの基本的な見通しでは埋めるのに2年以上かかる。
失業率が示すよりも労働市場には緩みがある可能性を他の指標が示している。経済がより強固な状態となれば、長期的な失業率はかなり低下する可能性がある。個人的な見解では、参加率の低下は労働市場の緩みをある程度表している可能性がある。現時点での賃金上昇のペースは、景気回復局面ではこれまでにないほどに緩やかであり続けている。全般的に伸びが加速する兆候はほとんどない。
<インフレを制御しきれない可能性>
FOMCはインフレ率が2%を大幅に上回る可能性があることも十分承知している。現時点で、こうした状況が起こる確率は、インフレ率が2%を下回り続ける確率よりもはるかに低い。だが、そうした予想外の結果に対応するため、準備を怠らないようにすべき。
<資産買い入れのペース>
FOMC声明は、資産買い入れに関してあらかじめ決まった軌道はないことを裏付けている。FOMCは、見通しの著しい変化に応じて正当化される場合は、購入ペースを調整する構えだ。
<金利ガイダンスの変更>
ガイダンス変更の主な動機の1つは、失業率がすぐに6.5%の基準に到達する可能性があったことだが、新たな指針は見通しの変化への対応で生じる可能性のある政策の調整を説明するのにも適している。
雇用およびインフレが目標から遠いほど、そして目標達成への予想される進展度合いが鈍いほど、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジが現行水準に維持される公算が大きい。
新たなガイダンスは、利上げ時期の決定は単一の指標ではなく、雇用市場、インフレ、金融動向に関する一連の情報を勘案すべきとのFOMCの見解を再確認している。
FRB議長の「6カ月発言」色あせる?政策の柔軟性を強調 - Bloomberg
米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長による「6カ月発言」は過去のものになったようだ。
イエレン議長は16日の講演で、FRBが金融政策で最大限の柔軟性を維持し、利上げスケジュールから距離を置く姿勢を鮮明にした。
エコノミック・クラブ・オブ・ニューヨークで講演した議長は質疑応答で、「われわれに必要なのは、現在経済で起きていることに警戒し、それに対応することであって、今後起こることに関して事前に抱くであろう固定観念に対して配慮することではない」と語った。
イエレン議長は就任後初となった3月19日の記者会見で、利上げの時期を量的緩和終了から「6カ月程度」と発言していた。ジェフリーズの主任金融エコノミスト、ウォード・マッカーシー氏には16日のコメントは、3月の発言から引き返そうという試みに映ったという。
マッカーシー氏は「FRB当局者が一連の公式発言や米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を使って」3月19日から火消しに動いていると指摘。イエレン議長が16日にフォワードガイダンス変更が政策変更を意味するものではないと述べた点に言及した。
3月のFOMCでは、フェデラルファンド(FF)金利が従来予想よりも速いペースで上昇するとの当局者の見通しが示されたことから、米国債相場は下落。イエレン議長の「6カ月発言」を受けて売りが続いていた。
Yellen’s Six Months Fade as She Stresses Policy Flexibility - Bloomberg