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【FRBウオッチ】異次元バブル崩壊へ−国家衰亡の危機も - Bloomberg

バブル崩壊は初めはゆっくりと進み、やがて臨界点に達したところで暴発すると前回分析したが、最後の扉を開く鍵はどうやら金融当局が握っているようだ。


バブル膨張には、ベン・バーナンキFRB米連邦準備制度理事会)議長が主導し2008年12月に実施に移された事実上のゼロ金利政策と、09年3月から本格化した「大規模資産購入」(LSAP)が大きくあずかっているからだ。ニューヨーク株式市場の代表的な平均株価指数は09年3月9日にボトムを付けた後、雄大な上昇波動を描いてきた。


S&P500種株価指数 は09年のボトムから今年7月24日の史上最高値まで194%上昇した。上昇局面は既に5年5カ月経過した。02年10月から07年10月まで5年間に及んだ前回の上昇局面は101%高だった。今回は前回のバブルを既に期間で5カ月上回り、上昇率で90ポイント以上も引き離している。この株式バブルの崩壊は、それを生成した金融政策が関与することになるだろう。


そのことを説明するため、まず今回の株高局面の基点に戻る必要があろう。今回の株高の基点とは実は今世紀の最安値である。07年10月から57%暴落したところで大量の資金散布により値下がりを食い止めたものだ。


この基点形成に貢献したのが、米連邦公開市場委員会(FOMC)が09年3月18日に決めた大規模資産購入である。米国債を最大3000億ドル買い取るとともに、住宅ローン担保証券MBS)を7500億ドル追加購入してニューマネーを市場にバラまいた。市場はこのFOMCの決定を先見して、その1週前に底入れしていた。


市場誘導策


米金融当局は市場の期待に働き掛けるという名の市場誘導策をとってきた。バーナンキ議長は同年3月7日に、「金融の安定回復と健全な経済成長を支援するために、必要な限り、われわれは用いることができるすべての手段を強力に展開し続けるだろう」と最大限の政策対応を約束する。


投資家のジム・ロジャーズ氏は同議長の発言を受けて、「FOMCが18日の定例会合で米国債の買い取りを開始し、それが弱気相場の払しょくに役立つ公算が大きい」と正確に予測していた。こうしてバーナンキ議長発言の2日後にニューヨーク市場は大底を打ったのである。


市場誘導には言葉が大きな力を発揮する。バーナンキ前議長が債券購入を「大規模資産購入」と命名した一つの理由は日本銀行が01年から実施した当座預金残高を目標とする量的緩和と差別化する狙いがあった。


しかし、日銀の政策もFOMCの政策も中央銀行のバランスシート を拡大していくことには変わりなく、市場では米国についても、量的緩和(Quontitative Easing)の頭文字をとって「QE」と呼ばれている。この表現が市場に浸透したため、バーナンキ前議長も議会公聴会ではQEという言葉を使って答弁していた。


過去の株高は金融引き締めで崩壊


今回の株高局面においては、QEによるFRBの資産膨張とほぼ軌を一にして株価が上昇してきており、株高の終えんはQEの終了と符節を合わせる可能性が高い。FOMCは昨年12月に債券購入額の段階的な縮小(テーパリング)を決定、今年末までに終了する計画である。


過去2回の歴史的な株高局面はFRBが金融緩和の蛇口を締めることで、その息の根を止めていた。前回の株価上昇局面では07年10月9日にピークが形成された。当時は金利政策が生きていたため、FOMCは06年6月にFF金利の誘導目標を5.25%まで引き上げ、07年9月までその水準に維持して景気を抑制。これが行き過ぎて同年10月に株価は急落。その2カ月後に景気後退に突入した。


今世紀初頭ではS&P500種指数が00年3月24日にピークアウトした。FOMCは1999年6月から約1年に及ぶ利上げを実施、この引き締めが上昇相場を終わらせていた。株価ピークアウトのちょうど1年後の2001年3月、米国は景気後退に突入する。


グリーンスパン議長の述懐


この調整を主導したグリーンスパンFRB議長は00年5月の最終利上げの後、FF金利を6.5%の高い水準に維持したことについて、後年開かれた議会公聴会で「われわれはバブルの収縮過程が十分に進行しているとかなり自信が持てるようになるまで、短期金利を通常よりも長い期間にわたり(高い水準に)維持した」と答弁している。


バーナンキ議長が06年から主導した最終利上げ局面は、インフレ封じ込めを狙ったものだった。しかし、その目的達成はかなわず、07年10月にまず株価がピークアウト。その2カ月後に景気後退に突入。インフレはその後も加速し続けた。


景気後退突入から7カ月経過した08年7月7日、イエレン・サンフランシスコ連銀総裁(現FRB議長)はカリフォルニア大学サンディエゴ校で講演し、「総合物価指数は今後数四半期にわたり、私が望むよりずっと高い水準にとどまる公算が大きい。賃金と物価上昇の悪循環は容認しない」と発言。景気遅行指数の物価よりさらに遅れて申し訳程度上昇したに過ぎない庶民の給与引き上げについて、容認しないと語気を強めていた。


イエレン議長の変身


同年7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で5.6%上昇していた。原油価格が同年7月に1バレル=145ドルでピークを付けたことが背景にある。イエレン氏は1980年までの賃金プッシュ型インフレの残像に惑わされて、わずかばかりの賃金 上昇を許せないと公言していた。CPIは同年7月にピークアウトしている。


その6年後の今年6月18日。FOMC終了後の記者会見で、イエレン議長は「労働市場が逼迫(ひっぱく)し始めれば、賃金の伸びも多少加速すると見込んでいる。仮にそうならなければ、率直に言って個人消費の下振れリスクを心配することになろう」と、ささやかな賃上げに個人消費押し上げ効果を期待していることを明らかにした。


QEは「サプリ」だった


イエレン氏は6年前には忌避していた賃上げを、いまでは切実に願う立場に変わった。グレートリセッションの後、米国経済の活力が大きく損なわれたことを象徴している。この米国経済の低迷は雇用の悪化が主因であり、FOMCは不完全雇用の広がりを理由に、QEのテーパリング完了後も「相当の期間」(声明文)事実上のゼロ金利政策を続ける方針を明らかにしている。


もっともQEは既にその役割を終えている。昨年12月18日のFOMCでQEのテーパリングを決めた後、最後の記者会見に臨んだバーナンキ議長はQEを「補完的(Supplemental)」なものと説明していた。日銀の量的緩和を効果なしとして、大規模資産購入(LSAP)として大々的に打ち上げた政策が実はサプリ(栄養補助食品)に過ぎなかったというわけだ。


しかしLSAPはサプリのように無害なものではない。大規模資産購入は、その名の通り大規模な資産価格引き上げ(バブル醸成)装置にほかならない。サプリどころか麻薬である。景気拡大局面では、市場は常にバブル化する下地があり、そこに金融当局が麻薬を注入したのだからひとたまりもない。FRBは人体にたとえれば基礎代謝量が下がってきた状態にある実体経済に、ジャブジャブお金を注ぎ込んだため、行き場を失った大量の資金は巨大なバブル醸成へと向かった。


禁断症状が拡散へ


ここでQEという麻薬がなくなれば、禁断症状が生じる。インターネット関連株や小型株の大幅下落はその予兆と言える。禁断症状が拡散する臨界点は実体経済のピークアウトと表裏の関係にある。


金融バブルも実体経済と密接に関係しているからである。その実体経済の中で最も先行する住宅市場は、昨年6月で既にピークアウトしている。バーナンキ議長のテーパリング示唆発言で長期金利が上昇。これを反映して住宅ローン金利が引き上げられたことが、そのきっかけだった。


今回の景気拡大局面で住宅市場は09年秋と10年春、その後昨年6月をピークとするバブルを形成 している。初めの2つは2度にわたる住宅購入減税による財政バブル。3つ目のより長期にわたるバブルはQEによる金融バブルが密接に結び付いている。


自動車市場が最後の砦


実体経済で生じている2つ目のバブルは自動車である。今回の景気拡大局面では、自動車産業がFOMCのゼロ金利政策の恩恵を最も享受している。自動車ローン金利短期金利に連動しており、自動車ディーラーはゼロ金利を継続的に適用してきた。


米消費者の金利感応度はなお高く、ゼロ金利ローンに乗って自動車販売はこれまでのところ堅調に推移してきた。同売上高の推移は株価動向とほぼ一致して、バブル的な盛り上がりを見せている。


実体経済面で住宅に続いて、自動車販売もピークアウトすれば、米経済を支えてきた2本柱が崩れ、景気後退入りは避けられない。そうなると金融バブルは実体経済バブルと共振しながら崩壊速度を速めていくことになる。


自動車バブル崩壊の鍵を握るのはFOMCの政策金利だ。テーパリングを無事完了させたと仮定しても、その後には初回利上げが控えている。初回利上げの前後にバブル崩壊が起こると、FOMCの出口戦略は吹き飛ぶうえに、さらなる資産購入しか取るべき手段はなくなってしまう。


しかし資産価格が急落すれば、FRBがいくら資産保有を増やしたところで効果は限られるだろう。こうして異次元の金融政策リスクは無限大に広がっていく。FRB発の「バブル大崩壊」は単なる景気循環の終了を画するものではなく、場合によっては米国の衰亡につながる最終バブル崩壊となりかねない。最終回(下)はFRB百年の歴史を振り返り、最終バブル崩壊の実相に迫る。