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焦点:緊張高まる南シナ海、「住民生活」が領有権主張の切り札か | Reuters

中国は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で人工島の建設を進めており、その軍事利用の可能性をめぐる議論が過熱している。一方、そうした問題に隠れ、ほとんど注目されていないことがある。それは、南シナ海一帯で増えつつある一般市民の存在だ。


ベトナムとフィリピンがそれぞれ実効支配する小さな島では、子供たちが毎日学校に通っている。そこからさほど遠くない場所では、中国が灯台や気象観測所を建設している。領有権をめぐる争いが高まるなか、このような傾向は今後起こり得る軍事衝突を複雑にする恐れがある。


同海域の大半の島は台風などの災害に無防備で真水も少ないため、こうした動きは小規模な範囲に限られるとみられている。しかし専門家たちは、領有権を争う他の国々にとって、市民生活の積み上げは重要な意味を持つと指摘する。


東南アジア研究所(シンガポール)の南シナ海専門家、イアン・ストーリー氏は「法的立場を確実に強化する。軍事だけでなく、一般市民も含めることで効果的な統治を明確に示すことができるからだ」と指摘。そのうえで、「南シナ海の領有権問題が国際司法裁判所に付託された場合、そのことが重要となるだろう」と語った。


中国は南シナ海の大半で領有権を主張。年間5兆ドルの貨物が行き交う海上交通の要衝である同海域では、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も一部領有権を主張している。ブルネイ以外は、南沙諸島に軍施設を有している。


同諸島で中国は少なくとも滑走路1本や他の軍事施設の建設を押し進めるが、同国当局はこうした作業の民間的な側面を強調している。


中国外務省国境海洋事務局の欧陽玉靖局長は、国営メディアに対し、中国は南沙諸島での施設を軍事利用する「あらゆる権利」があるとしたうえで、施設は「主に民間目的」に使われるだろうと語った。


同局長はそうした民間利用の例として、海難救助や防災、科学的研究、気象観測などを挙げた。26日の国営メディアの報道によると、中国は南シナ海灯台2基の起工式を行った。


<定期クルーズ船も>


中国は2012年に西沙(英語名パラセル)諸島の永興(同ウッディー)島に海南省下の市政府を置き、南シナ海一帯での行政機構整備を加速させた。西沙諸島は1974年以降、中国が実効支配しているが、ベトナムなども領有権を主張している。


現在、中国本土の旅行者は海南島からの定期クルーズ船で永興島に行くことができる。旅行会社のウェブサイトには「中国の最も美しい庭に足を踏み入れることは、わが国の主権を宣言することだ」と書いてある。


中国南海研究院の呉士存院長はロイターに対し、今年に入って永興島を訪れた際、人口が数百人に増加し、道路やごみ収集施設の建設が進んでいたと話した。小学校や病院のほか、漁師の家族が買い物できる店も複数あるという。


フィリピンが実効支配する南沙諸島のパグアサ島とはかなり対照的だ。同島では、約135人の兵士や一般市民が共同で野菜を作るなどして生活を送っている。1年前に夫と息子と一緒に同島にやって来たというロベリン・フーゴさん(22)は「すべて無料なので生活できる」と語った。


<単なる岩礁


一方、ベトナム国営メディアによると、同国が実効支配を続ける南沙諸島のサウスウエスト島では今月、小学校が開校した。同諸島で過去2年間にべトナムが建てた学校は3校目となる。診療所も改良工事が行われているという。


国連海洋法条約の下では、一般市民の人口や経済活動を維持するために必要な島の能力は、200海里の排他的経済水域EEZ)を主張できるかどうかを判断するのに必要不可欠だと、弁護士たちは指摘する。


主張できない場合、法的には単なる岩礁とみなされるという。


オーストラリアの法律専門家クリーブ・スコフィールド氏は、埋め立て地に民間人を置くだけではEEZを主張するのに十分ではないと指摘。「市民の人口がいかに拡大しようとも、どのような経済活動が行われていようとも、法的性質は変わらないだろう」と述べた。


こうした法律な話はパグアサ島での生活からは程遠いかもしれないが、領有権をめぐる中国の動きを避けることは難しい。


夜になると、20キロ先で中国が埋め立て作業を進める渚碧(同スービ)礁の明かりが見える。


「ラジオが伝えるここの状況は恐ろしい。島を離れる準備はできている」とフーゴさんは語った。