この問題で第三者委員会は、20日都内で東芝の田中社長らに調査の結果を報告書として提出しました。この中では、インフラ工事や半導体、パソコンなどの幅広い事業で会計処理の問題が見つかり、第三者委員会では、平成21年3月期以降の利益について合わせて1518億円の下方修正が必要だと指摘しました。そして、一連の会計処理の中には、「経営トップらを含めた組織的な関与があり、意図的に『見かけ上の利益のかさ上げ』をする目的で行われた」ものがあると断定し、組織的に不正な会計処理を行った経営体質そのものを厳しく批判しました。また報告書は、東芝の経営トップが「チャレンジ」と称して、毎月の定例会議の場で利益などの目標の達成を強く迫り、過大な目標でも達成するよう厳しく求めていたとしています。さらに経理部は、監査法人が利益のかさ上げに気付かないよう、不十分な説明を意図的に行うなど「組織的な隠蔽」を図っているともみられる行動をとっていたと指摘しました。こうしたことから、再発防止策として、東芝やすべてのグループ会社を対象とする強力な内部監査部門を新たに作ることが有効だとして、社外取締役などを統括責任者において、「経営トップらによる不正」が行われた場合でも監査権限を適切に行使できるようにすべきだとしています。そのうえで報告書は、こうした会計処理にかかわった役員は、「責任を自覚するとともに、人事上の措置が適切に行われることが必要だ」として、東芝に対して経営責任を明確にするよう求めました。この問題で、東芝の田中社長は、すでに関係者に辞意を伝えていますが、21日の記者会見で、報告書で問題を指摘された3人の社長ら経営陣の責任などについてどのような考えを示すか注目されます。
第三者委員会は、報告書のなかで、歴代3人の社長が「目標の達成を強く求めていた」と指摘しています。
このうち、3人がそろって関与したのがパソコン事業でした。西田厚聰氏は、社長だった平成20年、リーマンショックによる業績悪化の懸念が広がるなか、決算をまとめる前の月に開かれた定例会議の場などで、パソコン部門に対して、50億円の営業利益の上積みを「チャレンジ」として
求めました。これが見かけ上の利益をかさ上げする会計処理につながったとしています。
こうした要求は、後任の社長の佐々木則夫氏の頃に加速し、平成24年9月の会議では、パソコン部門に対して、決算がまとまる直前に3日で営業利益を120億円改善するよう求めるなど、目標の達成を強く求めました。さらにパソコン部門が利益のかさ上げをやめたいと訴えても、佐々木氏は、これを認めませんでした。
そして、今の社長の田中久雄氏は、利益のかさ上げを認識し、かさ上げの金額を縮小してきましたが、問題の会計処理をやめることはありませんでした。
報告書では、テレビや半導体の事業でも佐々木氏と田中氏が目標の達成を強く求め、それぞれの部門が利益をかさ上げしていたことも認識していたとしていて、経営トップが関与する形で「利益至上主義」とも言える状況が長期にわたって続いたと指摘しています。
第三者委員会は調査報告書の中で、東芝の一連の会計処理の原因として、「上司の意向に逆らうことができない企業風土が存在していた」と断定しています。その最も象徴的な事例として、報告書で挙げているのが東芝社内で「チャレンジ」と称して設定された、過大な目標でした。報告書では、それぞれの部門のトップは経営トップから課せられた「チャレンジ」を必ず達成しなければならないというプレッシャーを強く受けていたと指摘しています。
東芝では、四半期ごとの決算をまとめる直前という収益を大幅に改善するのが難しい時期になってからも各部門は、経営トップから「チャレンジ」を求められ、これを達成するため、経費の計上の先送りや、利益のかさ上げなどをせざるをえない状況に追い込まれていたとしています。
こうした状況を踏まえ、第三者委員会は、再発防止策として「チャレンジ」を廃止するとともに、上司の意向に逆らうことのできない企業風土そのものを改革するよう求めています。
会計処理問題に揺れる「東芝」。その中枢にいた元役員や元幹部10人が今月、取材に応じました。証言からは第三者委員会の報告書で指摘された東芝が抱える問題の一端がうかがえました。
報告書で大きな原因とされたのが「決算期ごとの行きすぎた利益至上主義」と「経営トップからのプレッシャー」です。中でも毎月行われる会議で、社長が「チャレンジ」と称して実現が困難な目標の達成を各部門に強く迫ったことが不正な会計処理につながったとされています。この会議に出ていた元役員は「私も『チャレンジ』で、『もう一回、検討して報告しろ』と何度もやり直しを命じられた。中には直接的なことばではなくてもコンプライアンスに反するような指示があった。『工夫しろ』とかそんなニュアンスですよ」と証言しました。また元執行役員の1人は「各部門のトップや子会社の幹部は短期的な業績を求める社長とのはざまで苦しんでいた。社長に押しきられなければいいのだがプレッシャーに負けて数字を盛っちゃったのかもしれない」と打ち明けました。
こうした厳しい要求が会議の場で突き付けられるようになったのは西田氏が社長だった7年前のリーマン・ショックの頃からだったと多くの元幹部が証言しています。リーマン・ショックの後、社長に就任した佐々木氏は在任中に東日本大震災が起きたことも重なり厳しい経営環境のなか、激しいことばや態度で部下に目標の達成を求めたと言います。この時期の会議に出ていたという子会社の元社長や元幹部からは「資料の書き直しを何回もさせられたり罵声を浴びせられた」とか「有無を言わさずとにかく『利益を出せ。業績を上げろ』の繰り返しだった」といった声が聞かれました。おととし佐々木氏の後を引き継いだ現社長の田中氏もまた厳しい要求を続けたと言います。元執行役は「社長になったときは『厳しく叱責したりしない』とみんなの前で話していたがいつの間にか佐々木さんと同じように私たちを叱責するようになった」と話しています。
さらに第三者委員会の報告書は「上司の意向に逆らうことができない企業風土」も背景にあったと指摘しています。こうした点について元役員は「東芝の社員は優秀だが、サムライがいない。上にモノを言えないし、言える人がいたとしても飛ばされてしまう」と話しています。また別の元幹部は「今の幹部たちには事なかれ主義がまかり通りすぎている。よくも悪くものびのびと新規事業に取り組むというかつての社風がなくなった。締め付けが厳しいからこんなことになったのかと思う」と話すなどこの数年間で社内の雰囲気が変化したと指摘する声が上がっています。
情報BOX:東芝第三者委調査報告書ポイント | Reuters
<経営トップの関与と組織的実行>
・2008年度から6年超の利益の過大計上額は累計1562億円。第三者委員会の調査で判明した1518億円と東芝の自主チェックで明らかになった44億円の合計。
・田中久雄社長、佐々木則夫副会長ら経営トップの関与に基づいて、不適切な会計処理が多くのカンパニー(事業部門)で同時並行的かつ組織的に実行された。
・不適切な会計処理は経営判断として行われたものと言うべく、これを是正することは事実上不可能だった。
・経営トップが利益のかさ上げを行う目的を持っていた。
<事業部門への圧力と内部統制の欠如>
・各事業部門は社長から厳しい「チャレンジ」(過大な目標設定)数値を求められていた。
・各事業部門は目標を必達しなければならないというプレッシャーを強く受けていた。
・「チャレンジ」を達成するために、不適切な会計処理を行わざるを得ない状況に追い込まれていた。
・上司の意向に逆らうことのできない企業風土が存在していた。
・経営トップらは数値上の利益額を優先するあまり、適切な会計処理に向けた意識が欠如・希薄だった。
・内部統制が十分に機能していなかった。
<再発防止策>
・関与者の責任の明確化。
・企業の実力に即した予算の策定と「チャレンジ」の廃止。
・上司の意向に逆らうことができないという「企業風土」の改革。
・強力な内部統制部門の新設。
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