焦点:日銀、消費の弱さ注視 長期化ならシナリオに影響 | Reuters
日銀にとって消費が心配な要因として浮上してきた。もし、7月以降も消費不振が長期化すれば、2015年度後半から景気回復と物価上昇の足取りが強まるとの日銀シナリオに「疑問符」が付きかねない。
日銀はボーナス増などによる実質賃金の明確な上昇に期待を寄せているが、その思惑が肩透かしになれば、足元で進行する企業の価格転嫁の動きが失速する可能性も出てくる。
<6月消費が大幅な落ち込み>
総務省が7月31日に発表した6月家計調査では、実質消費支出が前年比2.0%減となり、14カ月ぶりにプラスに転じた5月から再び落ち込んだ。
総務省は低温や多雨など天候不順の要因が大きいとみているが、昨年4月の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減の影響が一巡したにもかかわらず、個人消費の足取りの鈍さは否めない。
日銀内では、表だって個人消費の先行きに懸念を示す声は出ていないが、4─6月の輸出・生産が振るわず、国内総生産(GDP)の実質成長率(前期比)もマイナスの公算が大きくなっている。
もし、個人消費まで「弱さ」を露呈するようなら、日銀が展望リポートで予想している2015年度後半からの物価上昇の加速という軌跡が、「砂上の楼閣」になる懸念も出てくる。
<実質賃金増に賭ける日銀>
こうした中で日銀が期待しているのが、雇用・所得環境の好転による個人消費押し上げ効果だ。
過去最高水準にある企業収益を背景に、今年は昨年を上回る賃上げや夏のボーナス支給が実現し、夏場から秋にかけて実質賃金のプラス幅が拡大していく基調を想定。個人消費も堅調さを増すと期待している。
石田浩二審議委員は、7月30日の京都市での会見で「物価が低いこの時期に消費に勢いがついていって欲しい」と期待感を表明。日銀内からは、企業からの聞き取りなどを基に「7月の消費は悪くないようだ」(幹部)との声も出ている。
ただ、実質賃金は5月に前年比横ばいとなり、25カ月ぶりにマイナスを脱したものの、春先に期待していたような目立った増加傾向は見られていない。一部のエコノミストは「日銀はボーナスに期待しているが、それは正規雇用者の話であり、非正規雇用者が増加している中で、実質賃金が目立って上がっていくことは難しい」との見通しを示す。
実際、東大日次売上高指数をみると、同指数がカバーしているスーパーの食品を中心にした売上高は4月から7月にかけて伸び率が鈍くなり、基調として低下している。
<新指標で期待維持の思惑>
一方、日銀は6月金融経済月報から公表を始めた生鮮食品とエネルギーを除く指数(日銀版コアコアCPI)を重視するスタンスを鮮明にしている。中曽宏副総裁は7月27日の熊本市での会見で、新指標を注目することでコアCPIが1%を超えてくる時期について、ある程度の予見が可能と述べた。
原油価格下落の影響で、コアCPIでは需給ギャップや期待インフレ率などを反映する基調的な物価の動きが読みづらくなっており、日銀はエネルギー価格の変動を控除した同指数が、最も物価の基調の実態に近いとみているもようだ。同指数は、5月に同プラス0.7%まで上昇。夏場に1%程度まで上がるとみている。
同指数が今後も改善を続ければ、物価の基調は着実に上昇を続け、2%の物価目標も手の届くところに遠からず到達するというのが、日銀の描いている道筋だ。
仮に足元の原油価格再下落の影響で、夏場からから秋にかけてコアCPIがマイナスに転落し、その期間が想定より長期化したとしても、日銀版コアコアCPIが着実にプラス幅を拡大していけば「物価の基調は上昇を続けている」と説明することができ、日銀が重視する期待インフレ率が、コアCPIに影響されて低下することはないとの思惑もありそうだ。
しかし、この日銀の展望も、個人消費が7月以降も落ち込んだままでは、実現性が急低下することになる。足元で物価の基調が改善しているのは、円安進行や人手不足に伴う人件費上昇を企業が価格に転嫁し始めているためだ。しかし、消費が低迷を続ければ、遠からずコスト上昇を転嫁していく企業戦略は行き詰まる。
一部のエコノミストは、実質賃金がゼロ%前半の横ばい近い伸びにとどまり、食品や日用品の物価が上がり続けた場合、消費が7月以降も伸び悩む可能性があるとみる。
7月末からの全国的な猛暑で外出を控える傾向が顕著になれば、「猛暑効果」ではなく「猛暑ショック」で予想外の消費不振に直面しかねないとの懸念も、市場の一部に出ている。
消費不振が長期化すれば、足元での物価押し上げの力も鈍り、日銀版コアコアCPIが失速することにもなりかねない。日銀は輸出・生産だけでなく、消費の動向にも神経質にならざるを得ない局面だ。