https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

» 「経済的価値ゼロの人間」が大量発生する日。 (連載「パックス・ジャポニカへの道」) | IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所

オーストリア・ウィーンの地にて第7回目となるグローバル・ドラッカー・フォーラム(Global Drucker Forum)が2015年11月5日から6日まで開催された。私は我が国から唯一の参加者として同フォーラムに出席した。

チャールズ・ハンディ(英)、あるいはヘンリー・ミンツバーグ(加)といった我が国経営学からすれば“神々”の様な経営学者や社会思想家たちがまたぞろ集められているこのフォーラムでは、「ドラッカーの言葉」がところどころで引用されるものの、あくまでもそこでの関心の主体は“今とこれから”とされていたのである。


つまり経済・社会・政治の動態分析こそドラッカーの精神を受け継いで行うべきものなのであって、かつてドラッカーが吐いた言葉の一つ一つを金科玉条の様に反芻し、訓詁学を創り上げることが為すべきことではないのである。そしてこうした動態分析のためには、米欧の統治エリートと直結するこれら経営学・社会思想の”神々“(実のところ、フォーラムのコーヒー・ブレークでその辺にこれらの御仁はいつでもフラフラと歩いていて、気軽に声掛け出来るわけであるが)がその都度語る”論調(narrative)“こそその源流においてウォッチし、誰よりも早くそれが語られることの「意味」とその後のあり得べき展開を考えるべきなのである。

このフォーラムには、その背後にハーヴァード・ビジネス・レヴューという一大言論機関が控えている。全世界の名だたる企業のCEOたちが「常識」として目を通す同誌が持つ影響力は絶大だ。そしてそのスクリーニングを経て、このフォーラムで共通のテーマとして設定される題材が、正に米欧の統治エリートたちが考えている“今とこれから”を如実に反映していることは自ずから明らかなのである。大変気になる今年のフォーラムのテーマは「私たちの人間性を訴える:デジタル時代のマネジメント(”Claiming our humanity – Managing in the digitalage”)であった。

ドラッカーはある意味、「AI」の押し寄せる波に対する防波堤として用いられているというわけなのである。

―これから生じるのは(1)技術的に見るとAI開発に見られるように華々しい展開であり、(2)ビジネス上はそれをいち早く有効活用したプレイヤーによる寡占状態である一方、(3)政治的に見るとデジタル化の急速な進行によって「経済的価値ゼロ(zero economic value)」と判断された人々の大量失業に伴う、動乱である。圧倒的な人数の人々がもはや職場(workplace)にはいられなくなるという近未来の現実をどの様にとらえていくのかこそ、焦眉の課題である

―一方、このようなデジタル化の急激な進展に伴うシェア経済化の趨勢の中で問われているのが「信頼(trust)」の問題である。そもそも経済において「信頼」には(1)財・サーヴィスを提供している企業に対するが主流であったが、これからは(2)インターネット上のプラットフォームにおいて価値を直接提供してくれる個人とそれを需要する個人との間の信頼(peer trust)へ重点が変わっていく。取引コストが圧倒的なデジタル化の中で激減される中、競争上の優位とされてきた企業の特徴が次々にコモディティ化し始めているのであって、経済の中心はもはや「企業」ではなく、価値を直接提供する「個人」に移っていることを見逃してはならない

―デジタル化が進展し、メールなどにおける「テキスト」、あるいは対面ではない「動画」によるコミュニケーションだけに専心する者たちが次々に現れているが、これはビジネスという観点では決定的に間違っている。なぜならば対面することで話者が相手方の気持ちへと入っていくことが何よりも重要だからであり、事実、弁護士事務所で「積極的に外に出て顧客と対面する弁護士」と「事務所に籠りきりとなり、とにかくインターネットで顧客とやりとりすることに専念する弁護士では、前者の方が遥かに受注率が高く、収益をあげているという統計が米国で出されている。音声によるコミュニケーションが極めて重要である

―一方、人間が行っているのは文脈(narrative)の形成である。これを行うことが出来るのは人間だけなのであって、そのことは個人、組織、国家のいずれをとっても変わらない。あらゆる機会があることに基づきながら文脈を形成していくところに人間社会の本質があるのである

そして何よりも忘れられなかったのが、たった10分の登壇ではあったものの、最終セッションの極めて重要なパートで、リン・フォレスター・ド・ロスチャイルドE.E.Rothschild LLC CEOが登壇していたことである。欧州系国際金融資本がこのフォーラムに強くコミットしていることがここからもうかがわれたわけであるが、それよりも何よりも、今回、同女史が語ったのはただ一つ、「包含的資本主義のための連合(Coalition for Inclusive Capitalism)」であったという点である。ロンドン・シティ(City of London)と共にE.E.Rotchschild LLCが立ち上げたこの「連合」を語る者は我が国において皆無であるが、要するに企業たるもの、経済的利潤の極大化ではなく、社会・政治的な側面でももっと責任を負い、その改善のためにもっと行動せよというのである。ちなみにこの基準からすると、米系インターネット企業の“雄”であるはずの「アマゾン」は、経済的に見ると優等生だが、それ以外の側面では明らかに「劣等生」なのだという。我が国においてもここに来て同社を巡っては労組結成などといった話題に事欠かないが、明らかにここで巨大な「論調」が強烈な形で打ち出されたことをマークしておかなければならない。すさまじい勢いで世界史は”次“に向けて動かされつつあるからだ。

そして最後に。現場では英国の知的巨人チャールズ・ハンディの最新著が配られていた。サインを求めに同人の下に行くと、かの有名な夫人もおられ(チャールズ・ハンディの経営者向けコンサルティングは郊外にある同人の自宅で夫人がもてなす朝食を食べながら毎日会話をするというスタイルで行われていることは余りにも有名)、笑顔で迎えてくれた。夫人からは私に対して「ドラッカーは日本人の中でもかなり人気でしょう?今回のフォーラムにも何十人と日本から出席者がいるのではありませんか?」と言葉をかけられたので、「いえ、私だけですよ、日本からは」と言うとチャールズ・ハンディ氏ご自身も含め、大いに驚かれていた。その上で私からは「ドラッカーもそうですが、貴方も日本では大人気ですよ」というと「まさか」という表情を見せられていたのが印象的であった。知的巨人とは、かくも自然なふるまいであり、かつ謙虚なものなのだ。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151107#1446892924
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151104#1446634100


#AI #文脈