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日本のダイバーシティって、ぶっちゃけどうなんでしょう? / 『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』著者、入山章栄氏インタビュー(聞き手・飯田泰之) | SYNODOS -シノドス-

入山 一般にはあまり理解されていないのですが、経営学では、理論とフレームワークは別物です。「5 Forces」も理論ではなく、あくまでフレームワークです。本当はその背後に経済学の産業組織論の理論があります。そこまで勉強する時間はビジネスマンにないから、わからなくても噛み砕いて応用できるようにしたのが、たとえばマイケル・ポーターの「5 Forces」のフレームワークなんです。


私は米国のビジネススクールに10年いたのですが、率直に言って、ビジネススクールでは経済学の授業の人気があまりないんです。やっぱり、フレームワークやツールとしての「5 Forces」や、「人には何型人間がいて〜」のような、あんまり深く考えずに学べちゃう方に行ってしまう。経済や組織のメカニズムって本当に理解しようとすると、しっかり学ばないといけませんからね。

入山 大事なポイントですね。ぼくも事例研究を悪いと思わない。むしろトップジャーナルの事例研究は素晴らしいと思っています。でも、ぶっちゃけ、ツールや理論に当てはまりそうな事例はどっかにある。それを拾って理論にあてはめれば、それっぽいことが言えてしまう。大きい声では言えませんが、ぼくも授業でたまにやっちゃいます(苦笑)。もちろん、この本にも理論→事例の順番で解説した部分もあります。


でも、社会科学なので、本当にそのツールや経営理論はどれくらい一般的に妥当なのかは、検証される必要があるはずです。そこで今回の本で重視したのは、経営学で最近重視されている「メタ・アナリシス」です。


簡単に説明すると、仮に、「M&Aをすると、企業の業績は低下する」という法則を実証分析した論文が100 本あったとします。そのうちの、60本はその法則を支持し、残りの40本は支持しなかったとき、私たちは「この法則は支持されている」と思っていいのでしょうか?


このような問題を解消するのが、メタ・アナリシスです。さっきの事例ですと、各論文で検出された主要な統計量(回帰分析の係数、相関係数、決定係数など)を膨大な論文から取り出します。そして、全体の総括として、「M&Aで業績は低下するのか」を検証します。

入山 そうです。やはり、同じテーマでも学者間で賛否両論あることはよくあります。メタ・アナリシスの結果を見れば、一本の論文をつかって自分の解釈に都合の良い結果を導き出すのではなく、今の時点での「ほぼほぼ学者のコンセンサス」に近いものを知ることができます。もちろん、そのメタ・アナリシスの結果も絶対だと思ってはいけませんが。


海外の経営学ではわりと一般的な手法で、最近はPhDの学生が博士論文の第一章で、先行文献のサーベイのような形でメタ・アナリシスを使うことが多いですね。

入山 なるほどなるほど。加えて、経済学だと分析の手法がどんどん進んでいるので、20年前の回帰分析で出て来た結果は分析結果としてアウトオブデート(時代遅れ)だから、最近の新しい手法じゃないと信用できないのかも、とボクは思っています。


飯田 それはありますね。一番新しいものが正しいという感覚。これはぼくの直観なんで、なんのエビデンスもないのですが、経済学の古典的な手法では出なくて、新しい手法で出たものはだいたい信用できない気がする。


入山 ははは、なんとなくわかるかも(笑)。


飯田 古典的なものでやって、新しいものでやって消えた……というのは重要な研究なことが多いような。、その一方で、「新しい方法で新しい結果が出た」となると、それはデータや推計式をいじりすぎて偶然出ただけなんじゃないかと。もちろん、これは「気がする」だけなんで。あー、そう考えるとメタ・アナリシスは必要なのかもしれないですね。ぼくの直観がどのくらい正しいのかわかるかもしれません。

入山 まぁ、タイトルはぼくの一存では決められないので(笑)。でも、内容としては、すごく真っ当なことを書いたつもりです。


経営学ではこれまでの研究の蓄積で、ダイバーシティには「タスク型」と「デモグラフィー型」の二種類があることがわかっています。タスク型は、実際の業務に必要な経験や能力の可能性です。その組織の人間がいかに多様なバックグラウンド、多様な職歴、多様な経験をもっているのかなどがそれにあたります。一方、デモグラフィー型は、性別、国籍、年齢など目に見える属性についての多様性です。


メタ・アナリシスの結果によると、タスク型はプラスの効果があるのですが、デモグラフィー型はプラスになるとは必ずしも言えない。むしろ組織にマイナスの可能性もありえることがわかっています。組織の中でデモグラフィーの違いがあると、「組織内グループ」ができ、男性対女性、日本人対外国人というグループ間の軋轢が生まれ、パフォーマンスが低くなってしまうのです。


そうなると、組織に重要なのは、デモグラフィー型の人材登用ではなく、タスク型であることがわかります。そもそも日本人の男性ばかりの組織に女性や外国人を無理矢理入れると、タスク型としてはプラスの可能性がありますが、デモグラフィー型としてはマイナスとなり相殺されてしまう。

入山 そうなんです。勘違いして欲しくないのは、ぼくは、女性や外国人を職場に入れるのは、社会的にはすごく意義があると思っていますし、どんどん登用されてほしい。


経営学の研究では、フォルトライン理論と言って、デモグラフィーがそもそも多次元に渡って多様であれば、組織内の軋轢が起きずスムーズになると言われています。


これまで「男性×日本人」だった職場に「女性×30代×日本人」を何人加えても軋轢になってしまう。でも、「女性×50代×日本人」や「男性×アジア人」「女性×40代×欧米人」が入ると一気に多様性の軸が増えるので、認知的に「男vs女」の軸の重要性が減って、組織内のコンフリクトが減ります。


いまの日本のダイバーシティはそこまで踏まえずに、男性中心の会社の中に、単に数値目標として一定割合の女性や外国人を登用しているだけの企業もあります。それなのに急に「ダイバーシティで企業の業績が上がる」という話になってしまったら、経営学者として「ちょっとまってよ」と言いたくなってしまう。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151201#1448966236
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151127#1448620453
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151108#1446979308