こうして値段にダマされる。では、どうする? 一流の投資家バフェットは何を見て「買って」いるのか|あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門|ダイヤモンド・オンライン
不思議なことに、ほとんどのファイナンスの入門書は、これらの理論については深く説明していない。その理由の1つはおそらく、数式が多用されるこれら理論をわかりやすく説明するのが難しいことにある。
しかし、どれほど複雑な数式の見かけをしていても、そのベールの下に隠れているのは、お金に関するシンプルな真理である。人々が日常的・経験的になんとなく理解していることを、理論化してえぐり出してみせたのがファイナンスの知恵だと言ってもいい。
ファイナンスの世界の常識は「世間の非常識」である。これを学べば、自分たちのふだんの価値観がいかに現金に歪められているかに気づくはずだ。
【問題】
同じ銘柄のビールがコンビニAでは400円、隣のコンビニBでは350円で売られている。
この場合、お得な買い物は?
僕たちは買い物や取引をするときに、価格を見比べて損得を判断しようとする。「こちらのほうが価格が安いからお得だ」とか「あっちのほうが値段が高いから、価値も高いに違いない」というように、価格同士の比較が価値判断の基準になっているのである。
ここで僕が言いたいのは、ただ1つ。価格と価格を見比べている限り、真っ当な意思決定はできないということである。
では、正しく意思決定をするためには、どんな情報が必要だろうか?
本当の価値がわかればいいのだ。
2008年のリーマンショック直後、世界中のほぼすべての株価が下落した。この急落に恐れをなした投資家たちは、慌てて手元の株式を売り払った。そんな中、ゴールドマン・サックス・グループが発行した優先株式と新株予約権を、無謀にも一手に引き受けた会社がある。
世界一の投資家ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイ社だ。
その後、ゴールドマン・サックスの株価は回復し、バフェットは巨額の利益を手にすることになった。優先株の投資では16.4億ドル(約1800億円)、新株予約権では13億ドル(約1400億円)の利益を上げたというから驚きだ。
この賢明な投資家は、リーマンショック直後にゴールドマン・サックスの株価が本来の価値よりも低くなりすぎているとわかっていた。だからこそ、世界中の投資家がパニック売りをする中で、一人だけ「買い」の選択をし得たのだ。
僕たちはどうしても、価格という目に見えるものに惑わされてしまう。しかし、本当の意思決定は「価格と価格」を比較する世界から抜け出したところ、つまり、「価格と価値」の両方を見渡す視点からしか生まれない。
それゆえ、ファイナンス的な思考の第一歩は、価格と価値とを分けて考え、価値の見極め(価値評価)に軸足を移すことなのである。
あなたがいまの職場に不満を抱き、くすぶっているのだとしよう。その職場がまずまず安定していて、このまま何もしなくてもそれなりに豊かになれる場合、多くの人はなかなか会社を辞める踏ん切りがつかない。
実を言うと、大学卒業後に都市銀行で働きはじめた僕も、まさにそうだった。僕が入行した1980年代、銀行マンといえば「入れば一生安泰」の職業の代表格だったからだ。
無論、銀行員の仕事を否定するつもりは決してない。ただ、特に何の考えもなく銀行に就職してしまった僕にとって、この職場はあまり自分には向いていなかった。上司から強いられる無意味なマニュアル暗記やそろばんなどの習得(いまでは過去の遺物だ)など、理不尽な業務に僕は耐えられなかったのだ。
同じように疑問を抱きながらも、黙々とそれらをこなす同期たちの姿を見て、ようやく僕は決定的なことに気づいた。そう、銀行員になるには仕事の能力以外に、組織人としての不条理に耐える資質も必要だったのだ。
その両方を持ち合わせなかった僕は、外資系金融機関に転職することを選択した。当然、この決断にもアップサイドとダウンサイド、いずれのリスクもあったわけだが、たまたまこの転職は僕にとっていい結果をもたらした。