効果のなさは日本が世界一?マイナス金利が効きにくい理由|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン
確かにマイナス金利政策を決定してから長期金利は大きく低下した。日銀がマイナス金利政策を決定した前日と、決定3カ月後とで30年国債の利回りを比べると、0.84%も下落している。
しかし、長期金利の低下を「政策の効果だ」と評価してよいかというと微妙だ。「今回の政策はインフレ率を押し上げる」と市場が信じれば、30年国債の利回りは逆に上昇を見せ始めるはずだからだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は2010年に量的緩和策第2弾、12年に第3弾を決定した。それらの決定前日と、決定3カ月後とで30年米国債の利回りを比較すると、前者は0.74%上昇、後者は0.39%上昇だ。現在の日本はそれと対照的である。つまり、日銀の政策の効果に懐疑的な市場参加者が今は多いといえる。
しかし日銀は、原因が何であれ、実質金利が均衡実質金利(景気を緩和も引き締めもしない中立的な実質金利)を下回った状態が続けば、投資や消費を必ず刺激するとアピールしている。だが、その効果は現在の日本ではあまり強く表れないだろう。超低金利の長期化によって、金融緩和策の最大の効果である「需要の前借り」が既に相当起きてしまっているからだ。
英中央銀行であるイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は2月の講演で、金融緩和の効果に過度な期待をかけている中央銀行をけん制する発言を行っていた。金融緩和が長期化すると、将来の需要を前借りしようとしても、その需要を既に昨日使っていたという事態が起きてしまう、と。
それが実際に起きているのが今の日本といえるだろう。マイナス金利を日銀が決定してから、金融機関の住宅ローンの窓口は大忙しになった。しかし、その大半は借り換えの申し込みであり、新規の申し込みはあまり増えていない。
企業の設備投資も同様だ。日銀が4月末に発表した「展望レポート」に、実質金利ギャップ(実質金利が均衡実質金利を下回っている幅)と設備投資の関係を表したグラフが載っている。従来は金利が低下してそのギャップが拡大すると、設備投資が活発化する傾向が見られた(ただし、不動産業の投資が中心ではあったが)。
しかし、14年ごろからその関係が崩れてきた。特に大企業の金利に対する反応が鈍くなっている。
日本の生産年齢人口は世界最速で減少している。「前借り」したい将来の需要が、世界で最も枯渇しやすいのは日本である。また、高齢化社会では借金をする人が減り、貯蓄に依存する人が増えるため、超低金利の効果が低下する。
スウェーデン、スイス、デンマークでもマイナス金利政策が採用されているが、それらの国では生産年齢人口が今後も増加を続ける。日本とは人口動態が全く異なっている。マイナス金利による緩和効果が世界で最も表れにくい国が日本ではないかと心配される。