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米大統領の広島訪問＝「宴」の後に残ったもの【ひげの一品　外交解読】 （時事通信） - Yahoo!ニュース

◇予定調和の自己完結
　5月27日夕、平和記念公園に歴史的な一歩をしるしたオバマ大統領は、まず広島平和記念資料館（原爆資料館）を見学、次いで安倍晋三首相の案内で原爆慰霊碑へ歩を進めた。献花後、17分間の演説を行い、被爆者と対話。最後は「原爆の子の像」付近まで歩いて原爆ドームを眺め、同公園を後にした。この間、50分余り。内外ディアがその一挙手一投足を追った被爆地訪問は、簡素で「政治的にローキーな演出」（日米関係筋）に終始し、予定調和のシナリオは完結した。

　米側の狙いはどこにあったのか。背景には、65歳以上の米国民の7割以上が「原爆投下は正しかった」と見る国内世論があった。日米の調整過程に米側の本音がにじみ出る。関係筋によると、当初、日本側が要望したのは、大統領に原爆資料館の展示全体を見てもらった後、慰霊碑での献花も演説も両首脳が並んで行うという案だった。が、米側は難色を示した。当初の米案は、(1)慰霊碑での献花は別々に(2)大統領の「所感」表明は慰霊碑ではなく、原爆ドームの前で−行うというもの。そこには、政治的色彩を極力薄めようとする意図が感じられた。

　資料館見学も、時間的制約を理由にスキップしたいと米側は打診してきたが、日本側は「資料館を見なければ被爆の惨劇を実感できない」と押し返した。抵抗したのは広島訪問自体に消極的だったライス大統領補佐官。結局、日本側の妥協案（「簡略版の特別展示による見学」）で折り合ったが、両首脳の献花は一緒にではなく、別々に行われた。それは「頭を下げる首相との対比を避けるため」（日米関係筋）だった。

　犠牲者を追悼する姿を世界に示すのは不可欠だが、大統領にはトラウマがある。2009年の訪日時に、皇居で天皇・皇后両陛下と会見した際、日本式に深々と頭を下げたところを捉えたワンショットが批判にさらされた。「卑屈に見える」「米国大統領としてふさわしくない」。再び同じような場面があれば、今度は「謝罪」と受け取られる。その結果、映像は、視線をやや落とし、黙とうする大統領の姿を映し出すことになった。演説での「所感」表明も、首脳二人が演台を前に横並びになる方式は採用されなかった。

◇大統領の「肉声」がなかった
　広島訪問のメッセージにいまひとつ迫力が欠けたのはなぜか。それは、被爆地に立ったオバマ大統領の心の底から湧き出る「肉声」が聞かれなかったためだ。

　4月、G7外相会議に出席した際、平和記念公園を訪れたケリー米国務長官の場合とは随分違った。ケリー長官は、他国の外相が短時間で展示見学を済ませる中、ハモンド英外相と二人だけ、フルバージョンの展示を約50分間かけてじっくり見学。そして記者会見で、展示を見て心底込み上げて来た情動を自然に吐露した。「胸が張り裂けるような（gut-wrenching）展示だった」。ケリー氏の「肉声」は広島市民ばかりでなく、日本国民の多くを感動させた。

　一連の行事の流れを決めるに当たっては、「ケリー長官の二番煎じを避けるのが米側の至上命題だった」（政府筋）。資料館での大統領は、被爆によって白血病を患い12歳で亡くなった佐々木禎子さんの展示などを見学。自身、折ったという折り鶴を、出迎えの小中学生2人と同館にプレゼントしたが、この間の資料館見学はわずか10分余。ケリー長官の「肉声」に匹敵する言葉は、オバマ大統領からは聞かれなかった。大統領の言葉は、事前に準備されたシナリオの枠内での発言に終わった。

◇真の日米和解の道へ
　広島訪問でのパフォーマンスは、大統領が内外的に置かれた状況の中、微妙なバランスに配慮して組み立てられたことを物語っていた。その視点から振り返れば、被爆者2人と言葉を交わした2枚のツーショットこそが、ホワイトハウスが最も狙い目にした場面だったのかもしれない。特に米側が出席を求めた被爆者・森重昭さん（被爆米兵の調査・研究家）を抱き寄せたシーンは、海外メディアを通じて全世界に発信された。それは、原爆投下をめぐる日米和解のシンボリックな瞬間として長く記憶されるだろう。

　次なる和解のステップは、首相の真珠湾訪問は現実の課題として浮上してくるだろう。くしくも今年はパールハーバー75周年。首相の真珠湾訪問は今後、水面下で調整が進められていくだろう。11月にリマで開かれるアジア太平洋経済協力会議（APEC）首脳会合の際、ハワイに立ち寄る可能性がある（時事通信解説委員　鈴木美勝）

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160529#1464519101
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160528#1464431715