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経営にもイノベーションが必要である ゲイリー・ハメル/ロンドン・ビジネススクール 客員教授|「トップ・マネジメントの教科書」人と組織を動かすリーダー論|ダイヤモンド・オンライン

 1990年、ゲイリー・ハメルとコイムバトーレ K.プラハラードは、コア・コンピタンス」(組織の中核的能力)というコンセプトを発表し、戦略における組織能力の重要性を再認識させた(*1)。2人はさらに調査を重ね、96年に上梓したのが、日本でもベストセラーとなった『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞出版社)である。


 簡単におさらいしておくと、コア・コンピタンスは、ある組織の比較優位の源泉となっている、「バリューチェーン上の特定プロセスにおける技術とスキルの組み合わせ」と定義できる。


 類似する概念に「ケイパビリティ」(組織の実現能力)があるが、その提唱者であるボストンコンサルティンググループジョージ・ストーク2世とフィリップ・エバンスによれば、「バリューチェーン上の複数プロセス、あるいはバリューチェーン全体にわたる組織的な実行・実現能力」と定義される(*2)。

編集部(以下色文字):以前より、「人間の秘められた力を解放し、素晴らしい成果を達成する方法を再発明する必要がある」と主張されています。


ハメル(以下略):経済成長には、労働生産性の向上が必須です。ところが、ノースウェスタン大学のロバート・J・ゴードンの調査によると、アメリカの労働生産性(時間当たり生産量)は、1891年から1972年の間、年平均2.36%でしたが、72年以降1.59%に低下しているそうです(*3)。しかも、将来的には1.3%になると予測しています。


 こうした悲観的なシナリオがある一方、マサチューセッツ工科大学のエリック・ブリニョルフソンなど、人工知能の進化やIoT(モノのインターネット)に期待をかける人たちがいます。しかし、こうした技術革新によって、いくつかの職業が消失し、雇用が縮小するという予測も含め、私は彼らの主張に懐疑的です。


 いわゆる「機械との競争」については別の機会で議論するとして、労働生産性を上向かせ、たくさんの人たちをハッピーにする、もっと賢い方法があります。


 それは、組織内の「官僚制(ビューロクラシー)」を縮小させることです。間接部門のダウンサイジングや削減に留まらず、管理者や監督者、社内手続き、帳票や文書、規則や不文律、職務分掌、会議、ヒエラルキーなどを可能な限り減らす、というアイデアです。


 国やイデオロギーの違いに関係なく、大半の組織が官僚制によって成り立っています。しかし現在、官僚制は明らかに過剰なレベルにあり、我々の試算では、たとえばアメリカ経済は年間3兆ドル以上のコストを強いられています(*4)。状況は、おそらくどこの国でも同じでしょう。ですが、ひるがえすと、この「官僚制依存症」から脱することができれば、労働生産性は劇的に改善するはずです。


 官僚制は、つまるところ権力者にとって都合のよい管理・統制システムであって、実際には、組織や人々の活力や生産性、柔軟性、創造性、イノベーション能力を脅かす「クリプトナイト」(スーパーマンの力を弱らせるクリプト星の鉱物)なのです。

 19世紀ドイツの社会学者、マックス・ヴェーバーは、官僚制を「鉄の檻(おり)」と呼びましたが(*5)、それから100年以上経った現在も、この檻は壊されるどころか、より堅牢になっています。

 大昔の官僚制と現代の官僚制は、ヴェーバーによって区別されていますが、少なくとも数百年の歴史がありますから、一口に改革といっても一筋縄ではいきません。とはいうものの、新しいマネジメントモデルを発明することは21世紀の最重要課題の一つであると、強く申し上げたい。


 そのためには、新しいマネジメントモデルの実践者を知ることも重要ですが、歴史に学んでみることが何より有益です。私はいま、産業革命について学び直しています。


1850年頃、つまり産業革命の初期、労働生産性は大きく向上します。それは、ご承知の通り、蒸気機関、標準化技術、大量生産システム、都市生活者の増加などによるものです。


 私は、さらにその100年前について調べてみました。結論から申し上げると、産業革命の萌芽はこの頃に発生していたと考えられます。ただし、新しい技術の登場ではなく、思想や価値観の変化です。それは、大きく4つあります。


 第1に、「歴史は繰り返される」という考え方から、「過去とは違う未来をつくり出せる」と考えられるようになった。つまり、進化や成長が可能であるというわけです。


 第2に、「神の秩序」に疑問が呈された。トマス・ペイン――アメリカが独立することの正当性を説いた『コモン・センス』は当時250万人しかいなかったアメリカで50万部、またフランス革命を擁護する一方、イギリスの君主政を批判した『人間の権利』はイギリスで200万部も売れたそうです――によって、人間は皆自由かつ平等であり、一人ひとりが夢や理想を追求できるという考え方が示されたのです。


 ペインもそうですが、当時のヨーロッパの人々は、キリスト教的世界観や封建的思想を批判し、人間性の解放、平等や自立を目指す「啓蒙思想」に大きな影響を受けていました。


 第3に、イギリス、フランス、オランダなどの絶対王制国家が採用した管理経済政策である「重商主義」から、これを批判したアダム・スミスが唱えた「自由放任主義レッセフェール)」にシフトした。つまり、個人の自由でオープンな経済活動が奨励されるようになったわけです。


 最後に、「金儲けは汚い」「商売は下品な行為」という考え方が影を潜めていった。そして、会社が一般化し、商売や事業は社会的に受け入れられていきます。


要するに、産業革命という現象が顕在化する以前に、こうした思想革命があったのです。

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