特捜部が手掛けた事件などで、ターゲットとされた被疑者が否認を続け、公判でも全面無罪を主張することが予想される場合に、関与の薄い関係者も含めて「共犯者」として逮捕・勾留することは珍しくない。その共犯者の弁護人に対して、検察側から、「保釈に協力する。どうせ執行猶予だから公判で認めさせてほしい。」との働きかけが行われることがある。その弁護人が「検察協力型ヤメ検弁護士」だと、弁護人が「早期保釈も得られるし、判決は執行猶予が確実だ。」とその共犯者を説得すれば、共犯者は全面的に事実を認めて早期結審し、執行猶予付き有罪判決が出ることになる。この場合、同じ事件であれば、一つの起訴状で同時に起訴されるので、無罪主張をする被告人と早期結審で有罪判決を受ける共犯者は同じ裁判体に裁かれることになる。
全面的に事実を認めた被告人の裁判は、弁護人が検察官調書等を証拠とすることに同意するので、裁判官はほぼ調書しか見ないで有罪判決を出す。一方、無罪主張をする被告人の裁判では、争っている事実についての検察官調書は証拠とされず、証人尋問が行われるので、同じ事件であっても有罪無罪の判断の根拠となる証拠は異なることになる。判断のもとになる証拠関係が異なるのであるから両者の判決結果が異なってもおかしくはないのであるが、実際には、同じ事件について、共犯者に既に有罪の判決を出した裁判官にとって、主犯者の事件で無罪判決を出すことには相当な心理的抵抗が生じる。
そのような効果を狙って、本来であれば、起訴する必要もないような共犯者も敢えて起訴するということは、実際に、過去の特捜事件において行われてきたし、このようなやり方は、特捜部にとって有力な公判対策になってきた。それによって、刑事処罰を受けるようなことをした覚えはないと思っている場合、つまり、「被告人が無罪と思われる場合」に近いのに、「早期保釈」「執行猶予」で説得されて罪を認めて有罪となった人間も少なくない。
若狭氏は、そういう特捜部で、主任検察官や副部長を務め、「『執行猶予だから罪を認めろ』という働き掛け」を行う側であった。「その働き掛けに応じることは、著しい人権侵害となるので、到底できません。」などと言っているのは、特捜部時代のことへの反省と悔恨を込めているのであろうか。