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ローコンテクスト社会で<通訳する>ということ――新潟県立大学「政治学入門」授業公開 / 田村優輝×浅羽祐樹 | SYNODOS -シノドス-

第1に、「「ハイコンテクスト」の世界で生きていける時間が有限という自覚」が切実です。身内だけがわかる用語、説明しなくてもなんとなくニュアンスが伝わる、そういった世界で生きている状況を「ハイコンテクスト」と言います。これに対して「ローコンテクスト」というのは、しっかりと説明しないとわからない。まったく前提知識がない相手に対しても、「どういうバックグラウンドがあって、だからこういう話なんですよ」ということを説明しなければいけない状況のことです。このローコンテクスト/ハイコンテストを意識するかしないかで、これから大きな差が出てくると思います。

第2に、「限られた準備時間の中で「正しく努力する」ことを意識する」ということです。さきほど、通訳の準備の中で「必要十分」という話をしました。必要な努力はありますが、やりすぎは何の意味もない。そのとき、その場で「必要十分」を着実に積み重ねていく。これはみなさんにとっても似た世界があるのではないかと思います。たとえばある分野を学ぼうとするときに、誤ったことが書かれている本は世の中に溢れています。そういう本を最初に手にとってしまって「すごいこと書いてある!」と思って読んでしまったら最後です。そこから修正するのはなかなか難しい。その先に待っているのは、誤った内容について「そのとおりだよね」と少人数の蛸壺のグループの中で盛り上がって、スタンダードからどんどん離れていってしまうことになるでしょう。したがって、まずは正しい努力をすることです。


みなさんが使っている、指定された教科書には、過去100年から200年の間、学者たちがいろいろと検討し合った結果、「おそらくこういうことが正しいんだろう」という結論のエッセンスが詰まっています。教科書を読むことは実にコストパフォーマンスがよいのですね。逆に、そうではないものを先に読んでしまって、軌道修正がきかず、失敗してしまうということがあります。これはもったいないことです。せっかく大学で学んでいるわけですから、しっかりとスタンダードなものに当たってください。

第3に、「有名人ではなく、「知る人ぞ知る」人になる」ということです。通訳の世界に限った話ではありません。みなさんは今後、いろいろな分野で生きていくことになると思います。その中で、自分のプライバシーを切り売りして、不特定多数に対してインターネット上で有名になっていくのではなく、自分の専門領域の世界で「あの人はここが本当にすごい」と知られる――それは少人数の間なのかもしれませんが――そのサークルでは、「この分野ではこの人だ」と一目置かれるようになることが、私が志すキャリア像です。


ほとんどの有名人はすぐに飽きられます。プライバシーを売るのには限りがありますし、刺激もなくなっていきます。その結果、最後は見捨てられてしまうだけです。数年前は頻繁にテレビに出ていたのに、いまはまったく見かけないタレントが少なくないことをみなさんも知っているでしょう。一発芸で一度は売れるかもしれませんが、そのあとが続かない。どんどん過激になって、テレビで使いづらくなっていく。そういう「単なる有名人」は賞味期間が短いものなんですね。ですから、みなさんも今後生きていくうえで、プロとして仕事をして、自分の専門のサークルの中で「知る人ぞ知る」人になることを目指してみてはどうでしょうか。

浅羽 いざ本番に臨む前に予習しておく、準備を徹底するということがいかに大切か、ということですね。同時に、「手の内を晒すことはまったく怖くない」ということも示してくださいました。とはいえ、準備している姿は普通どこまで明かしていいのでしょうか。今日はあえて示されたのだと思いますが。

田村 職場ではまずしないですね。プロの仕事は準備していることが当たり前で、準備の結果だけで評価される世界なので、「これだけ準備していたんだよ」と話す人はほとんどいません。そうしても何の意味もないからです。ただ、今回の場合は目的がちょっと違って、通訳のパフォーマンスをすることではなく、舞台裏、楽屋を公開することが目的だったのであえてこういうかたちを取ったというわけです。

田村 多くの人は宝の山にいると、それが宝の山だとはわからない。その宝の山から去ったあとになって、自分がいたところはなんて恵まれていたんだろうと初めて気づくことが、残念ながらよくあります。私も「大学時代もっと勉強しておけばよかった」といまになって少し後悔しています。私は法学部でしたが、法律以外の勉強ももっとしておけばよかったなと。ですが、こういう話は、ナカにいるとまったくわかりません。私もかつてそうでした。みなさんもおそらく「えっ、そうだったのか」と、いま気づいた人もいるでしょう。だからこそ、ハイコンテクストだけで生きるのではなく、ときにはまったく部外者だけの話を聞くのもそれなりに役に立つのだと思います。

田村 私はケンブリッジ大学修士課程に入って、1年目は地域研究、2年目は歴史学の勉強をしました。日本で所属していた学部は法学部でしたが、あえて法律と違う分野にしようと思ったのも、「引き出し」の多さを意識したからです。地域研究では東アジアに関するテーマで修士号を取得しました。大学院の休暇期間に、欧州諸国をバックパッカースタイルでひとり旅したのもこの時期です。直接外交には結びついていないかもしれませんが、ネタとして、そういう引き出しを持っておく点では、とても貴重な経験になりました。

そして、なぜ外務省に入ったのかという質問ですが、私は高校生の頃、世捨て人になりたいと思っていました(笑)。大学に入って、ずるずる留年を重ねて、女の子と同棲して、授業にもぜんぜん出ないで……みたいな。しかし、高校生3年生のときに未来を大きく変える出来事があったんです。イギリスのイートンカレッジというところに、2カ月ほど交換留学する機会がありました。いわばイギリスで最もいい男子校です。そこで同年代の17歳の男子は私とこうも違うのか、と痛感させられたわけです。彼らは、自分がイギリスで最もいい教育を受けていて、親が年間300〜400万円を自らの教育費に費やしていることをよく理解していました。先生からもことあるごとに「お前たちはイギリスで一番いい教育を受けているんだ」と叩き込まれていました。「一番いい教育を受けている自分たちは、社会に出たらその分を還元する義務、ノブレスオブリージュがある」と彼らは言っていたんですね。同じ17歳の男子の私は、世捨て人になりたいなんて恥ずかしくて言えなくなっちゃったんです(笑)。


日本に帰ってきて、イギリスとは状況が違いますが、東京大学に進学する中で、自分にも何かできるのではないか、何かしないといけないのではないか、と思うようになりました。私は外国語が比較的好きだったこともあり、いろんな世界を見てまわれる仕事ということで、外交官を選んだわけです。

学生D 最後にお話いただいたメッセージの中に、「限られた準備時間の中で「正しく努力する」ことを意識する」とありました。努力しすぎもダメだし、やらなかったらもちろんダメだとおっしゃったんですが、「正しく努力する」ラインを見極めるコツはありますか。


田村 すごくいい質問だと思います。そこがわかりにくいことが、努力の難しいところです。

みなさんが授業を受けて、試験に臨むときも、「どこを、どれだけやればいいんだろう」ということは常に迷うことだと思います。一番いいのは授業をしっかり聞くことです。自分自身はまったく授業に出ないで、試験でどこが出るのかがわかっていい点を取る天才的な人も世の中にいます。しかし最も効率がいいのは、先生が何を言ったのか、講義でどこに注目していたのか、どの点を特に強調していたのか、先生が推薦した教科書は何か、その教科書には何が書いてあって、どういうアプローチが示されているのか、スタンダードなものから学ぶことだと思います。


そして読み込んだうえでなお、わからないことはたくさんあるでしょうし、新たな疑問も出てくると思います。そうしたら「先生、私はここまで読みました。ここまで演習も解きました。それでもここがよくわかりません。どうなんでしょう」と質問することです。まったくやらずに「先生よくわかりません」と言われると、教える側もやる気がなくなります。しかし、「ここまでは自分でやった。それでもちょっとよくわからない」「この先どうすればいいか」といったかたちで先生に訊いてみると、先生のモチベーションは100倍くらい高いはずです。

努力をしすぎるのはよくないと言いましたが、やや語弊があって、みなさんの段階では、しすぎてもしすぎることはないはずです。ただし、変な方向に行くのはダメです。最初でつまずき、トンデモ本ばかりを読むと、とんでもない方向にどんどん進んで行ってしまうことになります。まずは入門編です。1年生で学習する内容は、今後どんな学問分野に進もうとも、応用編に取り組むうえで、必ず基礎としなければいけないことを、教科書なりこの授業なりでしているはずですから、しっかりと聞いて、自分なりに消化してください。それでもなおわからないことがあったなら、「ここまでわかったけれど、ここから先がわかりません」という言い方で先生に訊く。これが私のやり方です。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170214#1487069117
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