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羽生の凄味は「捨てる」ことができるところにある。絶対王者でありながら、自分が手にする冠を捨て、現状維持ではなく脱皮を続けようとするからこそ、活路を開き続けているのだ。

永世竜王」を獲得する前の今年の羽生には、限界説も囁かれていた。


 8月30日、阿波踊りの余韻冷めやらぬ徳島市の料亭「渭水苑」。この地で羽生は、それまで6期連続で保持していた「王位」を失冠した。敗れた相手は25歳の菅井竜也7段。菅井は、平成生まれで初めてタイトルを獲得した。


 続いて10月11日には、5期連続で保持していた「王座」も失った。ここでも29歳の中村太地6段に敗れたことで、すわ世代交代か、と浮足立つ向きもあった。羽生は13年ぶりに一冠(「棋聖」)に沈んだ。

 今振り返ってみれば、羽生は「王位」も「王座」も捨てたのだった。どちらのシリーズでも羽生はわずか1勝しかできなかった(菅井4勝、中村3勝)。将棋の内容もどこか淡泊に感じられた。


 しかしそれは、羽生の衰えの表れというよりも、合理的な選択と集中の結果だったといえよう。普通の棋士にとっては、1期獲得するのも至難の業であるタイトルを弊履の如く捨て去り、最後に残った永世称号を「竜王」戦で獲得することに照準を合わせていたのだった。「竜王」戦決勝トーナメントで対局した棋士たちも、「永世竜王」に賭ける羽生の意気込みを感じていたという。

 何かを捨てることで前に進み続けてきた天才棋士。まさに「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」を地で行く棋士人生だ。羽生の今後にますます注目したい。