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ABC予想は、単純な等式「a + b = c」を満たす3つの自然数a, b, cに関して、3つの数の関係を説明するものである。3つの数字が互いに素である場合、a,b,cの互いに異なる素因数すべての積を1よりも大きい値(例えば、1.001)で乗じた結果は、有限個の3つの自然数の組み合わせを除いては、cより大きくならない。また、このような例外的な組み合わせの数は、素因数の積を乗ずるときの値に依存する。


自然数同士の「和」と「積」という一見無関係な値のあいだに「予想外の関係性」が見出されることをABC予想は仮定しているため、整数論を大きく進展させる可能性がある。数が3つの場合、aとbの素因数がcの素因数を制限するという明らかな理由はないのだ。


望月教授が論文を発表する12年まで、1985年に提起されたABC予想の証明はほとんどなされてこなかった。だが、このABC予想が数学における別の大きな問題とからみ合っていることを数学者たちは早くから理解していた。例えば、ABC予想が証明されることによって、整数論によって導かれた従来の結果は大幅に改善される。

ABC予想は、1980年代にフランスの数学者リュシアン・スピロが提唱した「スピロ予想」と本質的にはほぼ同じものである。ABC予想は整数の関係に内在する数学的現象を説明し、スピロ予想はその楕円曲線内の関係を説明するものである。スピロ予想では、楕円曲線が特定の代数方程式がもつすべての解の集合に幾何学的体系を与えている。


整数を楕円曲線として捉えなおすことは、数学ではよく行われる。これにより予想の証明はより抽象的かつ複雑になるが、同時に数学者はその問題に関してより多くの手法を用いることができるようになる。

望月教授も同様の戦略を採っている。ABC予想直接証明するのではなく、スピロ予想の証明にまず着手した。その証明を行うためにまず、スピロ予想の関連のあるすべての情報を「フロベニオイド」と呼ばれる自らが生み出した新たなレヴェルの数学的概念へ変換した。


IUT理論に関する研究を始める前、望月教授はABC予想の証明を目指して模索しながら、新しい変換に取り組んでいた。彼はこの一連の概念を「楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論」と呼んだ。残念ながら、これは突き詰めるとABC予想に適用できないことが判明したが、彼はその過程でこのフロベニオイドという概念を生み出した。


フロベニオイドがどんなものか理解するため、頂点がA, B, C, Dの順に並んだ正方形を考えてみよう(右下を頂点A、右上を頂点Bとする)。この正方形はその物理的な位置はそのままの状態で、さまざまに動かすことができる。例えば、反時計回りに90度回転したり(頂点が右下からD,A,B,Cとなる)。180度、270度または360度と回転させたり、ひっくり返して対角を入れ替えたりもできる。


望月教授によると、それは『数』という世界の背後にある、より根本的な事実を模索することなのです


こうして物理的な位置が保持される性質は、正方形の「対称性」と呼ばれる。すべての正方形は、このような対称性を8つ有している。さまざまな対称性をさらに追求しようとして、数学者は正方形すべての頂点にラベル(A, B, C, D)を与えそれらを集合として捉え、さらにその集合に代数構造を付加した。


この代数構造が付加された集合は「群」と呼ばれ、群が正方形という幾何学的制約から自由になると、新たな対称性が得られる。幾何学上の正方形においてはAが常にBの隣にあるため、幾何学的制約をもつ剛体運動によっては(A, C, B, D)という順番の頂点をもつ正方形はできない。だが、その群のなかのラべルだけで考えると全部で24通りのパターンが存在しうる。


このようにラべルの対称性がもつ代数的集合は、その幾何学的制約を取り払うことで3倍の情報をもつことになる。正方形より複雑な対象であれば、数学者はそれらの追加された対称性からオリジナルの図形を用いるだけでは到達できない知見を得ることができるのだ。


望月教授が生み出したフロベニオイドは、先ほどの「群」の概念ととても似ている。ただそれは正方形ではなく、特殊な楕円曲線から抽出された代数的集合である。上記の例と同様に、フロベニオイドは元の幾何学的性質より生じる対称性よりも多くの対称性を有する。望月教授は、楕円曲線に関するスピロ予想から得られるデータの多くをフロベニオイドに転換した。ワイルズフェルマーの最終定理から楕円曲線へ、さらにガロア表現へ手法を展開したのとまったく同じように、望月教授はABC予想からスピロ予想へ、さらにフロベニオイドへ問題を展開させることで情報量を増やし、証明を試みたのである。


「望月教授によると、それは『数』という世界の背後にある、より根本的な事実を模索することなのです」とキムは言う。抽象的概念が追加されていくことで、これまで明らかでなかった関係性が表出しているというのだ。「抽象的なレヴェルにおいては、幾何学的なレヴェルよりも多くの事物の関係性が存在しているのです」

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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20171210#1512902612
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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170607#1496831610
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