https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

タックスヘイブンを使った富裕層の課税逃れは、おととしの「パナマ文書」の報道などで関心を集め、租税回避によって各国が年間に失っている税収は数十兆円に上るという国連機関の専門家グループの推計もあります。

新たな制度は、日本と84の国や地域の税務当局が連携し、富裕層などが海外の金融機関で作った口座情報をネット回線を通じて関係国で共有するもので、国税庁は今月から参加各国と口座情報のやり取りを始めました。

制度にはカリブ海ケイマン諸島パナマシンガポールなどいわゆるタックスヘイブンとされる国や地域も参加し、現地の金融機関に日本の個人や企業の口座があれば住所や残高などの情報が自動的に国税庁に提供されます。

関係者によりますと、この制度によって国税庁が新たに把握できる国内の富裕層などの海外の口座情報は、少なくとも年間数十万件に上る見通しだということです。

国税庁がこれまで把握していた富裕層の海外資産は氷山の一角だという指摘もあり、新たな制度によって実態把握と課税逃れへの対応が進むことが期待されています。

NHKは国税庁の許可を得て、海外の税務当局と富裕層などの口座情報をやり取りする専用のシステムを取材しました。

専用のIDとパスワードでシステムにアクセスすると、国内の富裕層などが海外の金融機関に開設した口座の情報が表示されます。

画面では口座の所有者の氏名、住所や生年月日、それにマイナンバーや口座残高などを一目で確認することができます。

国税庁は、これまでも租税条約に基づいて日本の富裕層が海外で得た所得などの情報について、現地の税務当局から提供を受けたり、海外で資産隠しをしている疑いがある人物について、相手国に個別に口座情報の提供を要請したりして情報収集を行ってきました。

しかし相手国に要請しても情報が届くまで時間がかかったり、国によって提供される情報量にバラツキがあるなど課題も多く、国内の富裕層が海外で保有している資産の全容を把握するのは難しいのが実情でした。

一方、新たに始まった制度では、参加国にある金融機関は、ほかの国に住む富裕層などが作った口座の残高などの情報を自国の税務当局に届け出ることが法律で義務づけられています。

各国の税務当局に集められた口座の情報は、ネット回線を使った専用のシステムを通じて関係する参加国に毎年1回、自動的に提供されます。

この制度で国税庁が新たに把握できる海外の口座情報は、少なくとも年間数十万件に上る見通しです。

また、国税庁からも海外の富裕層などが国内の金融機関に開設した口座情報およそ8万件が関係国に提供されるとみられています。

タックスヘイブンを使った富裕層の租税回避は、脱税などの温床になっているとして、世界的に批判が高まり各国の税務当局が対応を急いでいます。

国連人権理事会の専門家グループはおととし、タックスヘイブンにある個人資産は、およそ700兆円から最大で2500兆円に上り、年間に各国で合わせて数十兆円規模の税収が失われているという推計を発表しています。

日本では海外に5000万円を越える資産を持つ人は、4年前から国税当局に金額などを申告することが義務づけられ、おととしはおよそ9100件、総額およそ3兆3000億円の申告がありました。

しかし、富裕層の動向に詳しい専門家からは、申告される海外の資産は氷山の一角にすぎないという指摘も出ています。

海外に資産を移す動きは、国内の脱税事件の捜査の壁になっているという見方もあります。

全国の国税局の査察部、いわゆる「マルサ」が昨年度、刑事告発した脱税の総額は、平成に入って最も少ないおよそ100億円で、バブル期だった昭和63年度の627億円余りをピークに大幅に減少しています。

国税庁タックスヘイブンなど、把握が難しい海外の口座に資金が移されるケースが増えていることも、摘発する脱税額が大幅に減少した背景にあるとみています。

富裕層などの口座情報を各国で共有する新たな制度は、OECD経済協力開発機構が定めた国際的なルールに基づいて行われるものです。

概要は、4年前に公表されていますが、アメリカなど世界のおよそ半数の国は参加していません。

国際税務や富裕層の動向に詳しい田邊政行税理士によりますと、国内の富裕層の中には、制度の運用が始まるのを前に海外の資産をタイやカンボジアなど制度に参加していない国に移したり、国税庁に資産を把握されないよう口座を作った金融機関がある国に移住したりする動きも一部に出ているということです。

田邊税理士は「海外に資産を持っているのにこれまで申告していなかったという相談も多く、申告していない海外の所得があれば修正申告する必要があると助言している。今回始まった制度は、富裕層の海外資産を把握するうえで画期的だが、およそ半数の国は制度に参加しておらず、こうした国に資産を移せば引き続き課税逃れができる。制度の実効性を失わないためには参加国を広げる努力が必要だ」と指摘しています。

国税庁国際業務課の山本香門国際企画官は、新たな制度について「今までなかなか入手できなかった海外の口座情報が明らかになり税の透明性が高まることが期待される。一部の富裕層について懸念されている海外での資産隠しを防ぐ非常に大きなツールになると思う。一方で国際的な租税回避はいろいろな手段やスキームが次々と生まれ、イタチごっこのようなところがあるので、制度に問題があれば各国で指摘し合い改善していきたい」と話しています。