清流を好む #アユ 。それは巨大噴火のたまものです。https://t.co/yzQhrxmj1d
— 毎日新聞 (@mainichi) 2018年7月3日
今が旬のアユは、清流を好むのが知られているが、それは巨大噴火のたまものだという。どんな地形と関係があるのだろうか? マグマ学者の巽好幸・神戸大教授と日本料理の大引伸昭先生(エコール辻大阪)に解き明かしてもらおう。
今回用意していただいたのは和歌山・日高川の天然アユと琵琶湖のアユだ。アユは秋に川でふ化すると海に下り、春になると川をさかのぼってくる。そして初夏においしくなる。琵琶湖のアユは海には下れないからか小ぶりで、小アユと呼ばれる。
巽「前回のホタルイカは、日本列島がユーラシア大陸からせり出し、日本海が開いたという話でした。じゃあ、せり出した所にも何か起こるはずですよね。その結果がアユなんです」
補足すると、岩板が地球の中に沈み込むプレートテクトニクスですね。西日本は、若くてまだ熱いフィリピン海プレート(熱いプレートをホットプレートと言うそうだ)に乗り上げた。プレートが高温のマントルに沈むと溶けて、マグマができる。
巽「中部から九州にかけて、こうしたマグマだまりができるんですが、紀伊半島が一番、量が多かった」
これが約1400万年前に大噴火を起こした。広範囲の巨大噴火でできた陥没地形をカルデラ(補講)という。紀伊半島ではほぼ同時期に、熊野カルデラと大峯・大台カルデラが噴火。二つ合わせて1700平方キロの広範囲に及んだ。世界有数の阿蘇や姶良(あいら)カルデラが300〜400平方キロだからケタ違いだ。火砕流の名残が、女人高野で知られる室生寺(奈良県宇陀市)の岩場だという。一方、地中に残ったマグマは、温度が下がって巨大な花こう岩の塊となったと考えられる(図1)。
巽「この塊は今も100〜200度ある。熱いと重量は軽くなるので、浮き上がってきて地盤を持ち上げる。そうして大台ケ原など高い山ができ、紀伊山地が形成される。四国の石鎚山や宮崎の大崩山(おおくえやま)・傾山もそうです。これってアユの産地とちゃいます?」
大引「四国の四万十川や仁淀川、宮崎の延岡はそうですね。山が高いってことは、そこを流れる川の流れが速い。細かい砂利が流されて大きい石が残り、清流となる。光が差し込んでコケができ、アユの環境が整うわけです」
巽「巨大噴火で地下に高温の岩の塊ができたから、紀伊半島には火山もないのに白浜や勝浦などの温泉があるんです。いわば岩盤浴(笑い)」
その塊はまだ高温だから、山も岩も隆起し続けている、つまり生きているんだという。ところで琵琶湖は話が違うのでは? 鈴木先生がすかさず、琵琶湖産の小アユの天ぷらを出してくれる。サクッと軽やかな衣から、まっさきに苦みがくる。その苦みのうまさが、滋賀県高島市の上原酒造の銘酒「不老泉」生原酒の力強さとぴったり来る。巽先生、飲んでばっかりいないで。
巽「タケノコの回で、京都盆地は何度も海になってたって言うたでしょ」
氷河期のことですね。間氷期は内陸まで海がつながるが、氷期は海水面が下がるので京都盆地から水が引く。
巽「10万年前くらいかな。それまで海へ下ってたアユが、琵琶湖が孤立したことで海へ行かんでもいいように適応したんやね。ちなみに琵琶湖は数百万年前、伊賀上野のあたりにできたのが、段々と北へ移動したんやけど」