裁判員制度 開始から10年 「審理期間10日は長すぎる」半数超 #nhk_news https://t.co/7fTSoOtf6c
— NHKニュース (@nhk_news) 2019年5月19日
裁判員制度が始まってから10年となるのを前に、NHKは先月19日から21日にかけて、20歳以上の男女に対し、コンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行いました。
調査対象になったのは2819人で、このうち55%にあたる1548人から回答を得ました。
裁判員として裁判に参加したいと思うかを尋ねたところ、
▽「ぜひ参加したい」が7%
▽「参加してもよい」が28%だったのに対し、
▽「できれば参加したくない」が40%、
▽「絶対に参加したくない」が22%で、
参加したくないと答えた人がおよそ6割となっています。裁判員裁判の審理期間は年々、長期化する傾向があり、制度が始まった平成21年には初公判から判決までの審理期間が全国の平均で3.7日間だったのが、去年は10.8日間となっています。
世論調査では「もし裁判員に選ばれて10日間務めることになったらどう思うか」を尋ねました。
その結果、「長すぎると思う」が56%と半数を超え、「長すぎるとは思わない」の37%を上回りました。
「長すぎる」と答えた人に理由を聞いたところ、「仕事の都合がつかない」が48%で最も多く、「育児や介護など家庭の事情がある」が21%で続きました。
「何日までなら裁判員を務められると思うか」尋ねたところ、「3日まで」が28%、次いで「1週間まで」が24%で、1週間までなら務められるとする人が半数を超えた一方、1週間以上務められるという人は22%にとどまりました。
裁判員制度は、幅広い層の市民に参加してもらい、司法の判断に市民感覚を反映させることが重要な理念となっています。
多くの人が参加しやすい日程を組むことと、十分な審理を行うこととの両立が課題となっています。
審理期間が長期化している背景には、実際に裁判員を務めた人たちから裁判員と裁判官が判決内容を話し合う「評議」の時間が短かったという意見が多くなり、裁判所が評議を長めに取るようになってきたためと指摘されています。
最高裁判所によりますと、裁判員裁判1件当たりの平均の評議時間は平成21年には6時間30分余りだったのが去年はおよそ13時間と、この10年で2倍に伸びています。
全国の裁判所は、裁判員を務めた人たちにアンケート調査を行っていて、最高裁判所では去年までのアンケートから評議の時間について書かれた意見を抽出し、件数をまとめました。
それによりますと、「適切だった」という意見が1601人と最も多くなった一方で、「短かった」という意見は803人で、「長かった」という意見の210人の4倍近くに上っています。
最高裁では、こうした裁判員の意見を踏まえ、各地の裁判所が評議を長めに設ける傾向が強まり、全体の審理期間の長期化の要因になっていると分析しています。
おととし、東京地方裁判所で15日間、裁判員を務めた男性は「実際に裁判員をやってみると長いのは悪いことではなく、必要だと感じた。会社員は組織の中でどう調整できるかが課題だ」と話しています。
東京都内の会社で営業職をしている新井博文さん(69)は、おととし、8月28日から9月11日までの15日間、中国人の被告が妻を殺害し、遺体を遺棄したとして殺人などの罪に問われた裁判で裁判員を務めました。
裁判で被告は殺意が無かったと主張し、15日間の審理期間は、被告が罪を否認している事件の裁判員裁判の平均とほぼ同じ日数でした。
新井さんは裁判が始まる前、審理期間が15日間だと知って「全く初めての経験なので、長いのか短いのかも分からないのが正直な感想だったが、ちょっと長いのかな、でも必要なのかなと感じた」ということです。
裁判員に選ばれた時、新井さんが真っ先に気になったのは仕事のことでした。
新井さんは「営業職をしているので、お客さんの予定を融通してもらい調整した。また、一緒に仕事をしている同僚、チームの人たちの都合を聞いて調整する。同僚の理解がないと、参加できないと思った」と話していました。
その後、実際に裁判員を務めてみると、期間が短いと感じたと言います。
法廷での審理が終わった後、裁判員と裁判官が判決の内容を話し合う評議が2日間にわたっておよそ14時間、行われました。
新井さんは「当時は疲れが先行していて、十分話し合ったと思ったが、落ち着いて考えてみると評議の2日間の後に、すこし日を空けて、もう一度見直す時間が必要だったと感じている」と振り返りました。
そのうえで15日間の審理期間について、新井さんは「実際にやってみると、長いのが悪いことではなく、それだけ必要だと感じた。一方で、私のような会社員は、会社の理解を得たうえで、個人も仕事を調整しないといけない。私のような年配の人間は、比較的調整しやすいかもしれないが、若い人たちは組織の中で言いにくい部分もあるので、どう調整していくかが課題だ」と話していました。
審理期間が長くなるほど、幅広い層の市民が参加できなくなることが懸念されることから、裁判所で対策が始まっています。
東京地方裁判所では3年前とおととし、初公判から判決までの平均の審理期間が10日間を超えていました。
裁判員裁判を担当する裁判官が定期的に集まる会議で、審理期間の短縮がたびたびテーマとなり、判決内容に直結しない審理をできるだけ減らすことや、証拠調べや証人についても必要性をよく検討するなど、改善を図ったということです。
その結果、東京地裁では去年は平均で9.1日と、およそ1日間、短縮するなど、成果が出始めているとしています。
裁判員制度の開始から10年がたち、幅広い層の市民が参加しやすくするための模索が続いています。
最高裁判所刑事局の福家康史第1課長は「長期化は裁判員を辞退する人が増える原因の1つにもなっていて、国民に広く参加してもらうにはやはりコンパクトな審理にすることが望ましい。コンパクトな審理という要請と、充実した審理や評議を行うという要請のバランスをうまくとっていく必要がある」と話しています。
裁判員制度への提言を行っている市民グループの代表を務める大城聡弁護士は「刑事裁判である以上は、一定の時間をかけて、審理しなければいけないと、広く国民に理解してもらう必要がある。一方で、裁判員に参加してもらうために、例えば国が企業に何らかの補償を行って仕事を休みやすい環境を作るなど、裁判の長さに応じてきめ細かい形で支援する仕組みを考えていく必要があると思う」と話しています。