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ことしのノーベル化学賞の受賞が決まったのは
▽大手化学メーカー「旭化成」の名誉フェロー、吉野彰さん(71)、
アメリカ・テキサス大学教授のジョン・グッドイナフさん、
それに▽アメリカ・ニューヨーク州立大学のスタンリー・ウィッティンガムさんの3人です。

吉野さんは、大阪府吹田市出身で71歳。京都大学の大学院を卒業後、旭化成に入社し、電池の研究開発部門の責任者などを務めたほか、おととしからは名城大学の教授も務めています。

吉野さんは、「充電できる電池」の小型化と軽量化を目指して開発に取り組み、当初は、ノーベル化学賞の受賞者、白川英樹さんが発見した電気を通すプラスチック、「ポリアセチレン」を電極に利用する研究をしていました。

その後、コバルト酸リチウムという化合物をプラスの電極として使う当時の最新の研究成果に注目し、マイナスの電極に炭素繊維を使うなどした結果、昭和60年、現在の「リチウムイオン電池」の原型となる新たな電池の開発に成功しました。

小型で容量の大きいリチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコンといったIT機器に欠かせないものとなったほか、電気自動車にも利用されるなど現在の社会を支える技術となっています。

こうした業績は国内外で高く評価されていて、吉野さんは平成16年に紫綬褒章を受章したほか、平成26年に「工学分野のノーベル賞」とも呼ばれるアメリカの「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を、ことしはヨーロッパの特許庁が主催する「欧州発明家賞」を受賞しています。

日本人がノーベル賞を受賞するのは去年、医学・生理学賞を受賞した本庶佑さんに続き、アメリカ国籍を取得した人を含めると27人目で、化学賞は、9年前の鈴木章さんと根岸英一さんに続いて8人目となります。

ノーベル化学賞の受賞理由について、ノーベル委員会は、「リチウムイオン電池は、軽くて、再充電できる強力なバッテリーでいまでは小型の携帯電話やノートパソコン、電気自動車などあらゆるものに使われている。太陽光や風力などのエネルギーを十分ためることができ化石燃料が必要ではない社会を作り出すことも可能にする」としています。

ことしのノーベル化学賞の受賞者に、日本人の吉野彰さんとともに、アメリカのテキサス大学のジョン・グッドイナフ氏と、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のスタンリー・ウィッティンガム氏の2人が選ばれました。

グッドイナフ氏は、97歳での受賞となり、去年、ノーベル物理学賞を96歳で受賞した、アメリカのアーサー・アシュキン氏を抜き、すべての賞において最高齢での受賞となります。

リチウムイオン電池」は、プラスの電極に「リチウム」という金属の化合物を、マイナスの電極に特殊な炭素を使う電池で軽いのに出力が大きく、繰り返し充電できるのが特徴です。

軽くて出力が大きい電池の開発は昭和50年代から進められてきました。

「ニッケル」や「鉛」などを使った従来の電池は1.5ボルト前後という低い電圧しか取り出せない欠点がありました。

一方、「リチウム」を使うと3ボルト以上という高い電圧は得られましたが、発熱や発火のおそれがあり、安全に充電することができませんでした。

こうした中、昭和55年、イギリスのオックスフォード大学で研究していたジョン・グッドイナフさんと当時の研究員で、現在は「東芝」のエグゼクティブフェロー、水島公一さんらがリチウムとコバルトの酸化物「コバルト酸リチウム」をプラスの電極に使うと、電圧が高いだけでなく寿命が長い電池になると発表しました。

この成果に注目した吉野彰さんが5年後の昭和60年、プラスの電極に水島さんが発見した「コバルト酸リチウム」を、マイナスの電極に特殊な炭素を使い、初めて実用的なリチウムイオン電池の開発に成功しました。

これにより、軽い上に激しい発熱を抑えて安全性が高く、何度でも使うことができる今のリチウムイオン電池の実用化が大きく前進したのです。

それからさらに5年後の平成2年、当時、「ソニー」に務めていた西美緒さんがリチウムイオン電池を世界で初めて商品化することに成功しました。

ほかの充電池と違って電気を使い切らないまま継ぎ足しで充電を繰り返しても容量がほとんど減らないため、携帯電話やパソコンなど身の回りの製品に多く使われ、IT機器の普及に大きく貢献しました。

また、時間がたっても失われる電気が少ないことから、9年前に地球に帰還した日本の小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載され、7年におよんだ宇宙の旅を支えました。

さらに、ハイブリッド車や電気自動車のほか、次世代の送電網を支える蓄電池といったエネルギーや環境の分野でも活用が広がっています。

リチウムイオン電池スマートフォンやパソコンなどで広く使われていますが、今後は電気自動車などでも利用が広がり、2022年には世界の市場規模が7兆4000億円に上るという予測も出ています。

リチウムイオン電池は、ノートパソコンや携帯電話、それにスマートフォンなどのデジタル機器で幅広く使われ、普及してきました。

今後は、車の電動化によって一段と市場が広がると見込まれていて、民間の調査会社「富士経済」は、2022年の世界の市場規模が7兆3900億円余りとなり、おととし時点と比べておよそ2.3倍に伸びると予測しています。

一方で、電気自動車やハイブリッド車に使われるリチウム電池ではパナソニックなどの日本メーカーだけでなく、電気自動車の普及が進む中国のメーカーが急激に力をつけ生産を拡大させています。

中国で最大手の電池メーカー「CATL」はことしに入ってトヨタ自動車やホンダと電気自動車向けの電池を共同開発することで相次いで提携を結びました。

こうした中、日本のメーカーは、リチウムイオン電池の性能を高める技術開発を進めていて、このうち京セラは、今月、電極層と呼ばれる部分を液体状ではなく粘土状にすることで製造にかかるコストを3割ほど減らせるという新たな技術を発表しました。

材料の成分や配合を変えたことで従来の製品より数年ほど長もちするようになり、発火の恐れも少なくなったとしています。

今後はこうした新たな技術開発で日本メーカーが存在感を示せるかも問われることになりそうです。

2002年にノーベル化学賞を受賞した島津製作所シニアフェローの田中耕一さんは、ことしの化学賞に吉野さんが選ばれたことについて次のようなコメントを公表しました。

「おめでとうございます。現在も企業の研究者・技術者である私としては、旭化成の名誉フェローでいらっしゃる吉野様が受賞されたことは、ことのほかうれしく思います。先生のご研究の経緯を改めて考えますと、私の1980年代からの経緯と重なる部分が多いように思えます。私の発見は、”産”である企業で基礎研究を行い、大阪大学の先生をはじめとする”学”の方々が応用を考え、世界に広めていただきました。これまで日本で常識と思われている役割分担とは逆転しています。実際には、企業での基礎研究はこれまでも多くなされており、これからもますます増えていくと思われます。従来日本は完成品を世界に使っていただくことが多かったのですが、リチウムイオン2次電池だけでなくさまざまな素材に関する研究・開発が行われ、世界の最先端を走っていることをうれしく思います。島津製作所としましても、これまでリチウムイオン2次電池の開発や解析にさまざまな分析機器を用いて協力をしてまいりました。今回の受賞を極めてよい機会として、さらに日本の科学技術に貢献してまいりたいと思います」。