新エネルギー源「ITER計画」核融合炉の組み立て開始 #nhk_news https://t.co/53UPpR8anz
— NHKニュース (@nhk_news) 2020年7月28日
「ITER計画」は、日本、アメリカ、中国、EU=ヨーロッパ連合、インド、ロシア、韓国の7つの国と地域が協力して進められている大型国際プロジェクトです。
太陽で起きている核融合反応を地上で再現して膨大なエネルギーを取り出し、二酸化炭素を排出しない新たなエネルギー源として利用できるか実証しようというのが目的で13年前からフランス南部で核融合の実験炉が設置される建屋などの建設が進められてきました。
現地では、計画の心臓部となる核融合を行うための実験炉の組み立てが始まったのに合わせて28日、各国の代表や技術者らが参加して記念の式典が開かれました。
式典では、各国の首脳のメッセージが紹介され、このうちフランスのマクロン大統領は「ITERは平和を約束するプロジェクトだ。各国を引き離す力よりも協力させる力のほうが強いことを証明している」と述べてその意義を強調しました。
また安倍総理大臣のメッセージを読み上げる萩生田文部科学大臣の映像も流され、「気候変動という地球規模の課題に立ち向かい、脱炭素社会を実現するには、革新的なイノベーションの創出が必要です。新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりの中にあっても強固な国際的連帯により引き続き本計画が力強く進展していくよう祈念いたします」と述べました。
日本は、核融合反応が起きる超高温の状態を制御するのに必要な世界最大級の超電導コイルなど核融合炉の主要な部品の製造を担当していてすでに一部は現地に到着しています。
実験炉の組み立てには今後4年半かかる見通しで前例のない大型国際プロジェクトは、2035年の地上での核融合反応の再現を目指し、本格的に始動することとなります。
ITERは太陽などの星の輝きの元となっている核融合反応を人工的におこして膨大なエネルギーを生み出すことを目指して造られる実験施設です。
燃料は水素の同位体である重水素や三重水素=トリチウムと呼ばれるもので、高温のプラズマと呼ばれる状態にすることで核融合反応がおきます。
理論的にはわずか1グラムの重水素などから石油8トン分のエネルギーが得られるとされています。
ITERは、2035年に超伝導コイルがつくる磁場の作用で5分から8分余りの間、プラズマを維持して核融合反応をおこし、50万キロワットの熱エネルギーを発生させることを目指します。
ITERの建設は、日本をはじめEUやアメリカ、中国など7つの国と地域が協力する国際プロジェクトとしてフランス南部で進んでいます。
ITERの実験装置は、縦横30メートル、10階建てのビルに相当する大きさで、参加国が分担して製造したおよそ100万点の部品を組み合わせます。
計画が始まったのは2007年で、運転を始める2025年までの総工費は日本円に換算して総額2兆5000億円とされています。
関係者によりますと、燃料の重水素などは海水中に無尽蔵にあるとされているうえ、反応にともなって二酸化炭素を出さないほか、原子力発電に比べても事故が起こりにくいとしていて、夢のエネルギー源として期待されているということです。
一方で、反応を継続するために欠かせない高温のプラズマを維持する技術が難しいとされていて、発電所としての実用化までには、まだ多くの技術的な課題が残されているとされています。
日本は当初からITERの主要な参加国として貢献をしてきました。
2025年に運転を始めるまでに必要な建設費の総額は日本円に換算すると2兆5000億円とされていて、日本は分担金や製造を担当する機器として2900億円分を負担することになっています。
日本は、特に高い精度が求められる機器を担当していて、強力な磁場で「プラズマ」を持続させるための世界最大級の超電導コイル19機のうち、日本は9機を製造します。
ほかにも、電子の温度や密度などを計測するプラズマ計測装置の一部を製造するなど、高い技術力で貢献します。
日本が担当する超電導コイルは2機が完成しすでにフランスに運び込まれていて、2000億円分の負担が終わっています。
ITER計画では、国際プロジェクトが始まった当初の2007年から7年余りは日本人がフランスに置かれた機構のトップを務めたほか、いまも副機構長や建設管理部門のトップなど主要なポストの多くを日本人が占めています。
日本の貢献について、文部科学省の担当者は「資源が少ない日本では将来のエネルギー問題を解決しようと、1960年代から核融合エネルギーに関する多くの研究が行われてきたため機器を製造する高い技術力がある。いい成果が出るよう期待している」と話していました。
現地での式典に日本から参加したITER計画を主導する量子科学技術研究開発機構の杉本誠ITERプロジェクト部長は、日本が製造した超電導コイルについて高さ16メートルにのぼる巨大な構造物でありながら寸法の誤差が数ミリ以内であることを求められる極めて精巧な部品だとしたうえで「これまでにない磁場、これまでにない大きさの超電導コイルで非常に技術的に難しかったがいろんな困難を乗り越えてやっとここまでたどりついた」と述べて開発を振り返りました。
そのうえで、ITERについて、「二酸化炭素の排出量を抑えて経済成長をしていくためのエネルギーが必要で、どの国も核融合に非常に期待している。日本にとっても利益になる将来を見据えたエネルギーだと思う。人材的にも経済的にも豊かな国が協力して将来の人類の課題に取り組むというのは理念として日本にとっても世界にとっても有益で日本が貢献するというのは意義があると思っている」と話しています。
ITER計画は核融合エネルギーの国際的な平和利用のために1985年のアメリカとソビエトの首脳会談をきっかけに始まったプロジェクトで、実験炉の部品を各国で製造し、現地で組み立てるなど参加国の連携が欠かせません。
ITERで戦略の立案やプロジェクト全体の管理にあたる大前敬祥 首席戦略官は、これまでテロや紛争など厳しい国際情勢の中でも各国は協力して計画を進めてきたと指摘し、「科学技術で核融合ができることを証明するのが半分の目的で、もう半分は人類が手をとりあって共通の課題を解決できることを実証することだと思う」と述べてその意義を強調しました。
そのうえで「ITERはすでに動き始めた列車でゴールしてはじめて核融合の果実を得られると分かっている以上、各国は最後まで乗り続けるというのが合理的な判断だと思っている」と述べ、計画が実験炉の組み立てという新たな段階に移るなか、各国の協力関係は今後も続くという見通しを示しています。
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