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世界を驚かせた日産自動車元会長カルロス・ゴーン容疑者の中東レバノンへの逃亡劇。
その一部始終が撮影された防犯カメラの画像やゴーン元会長の銀行口座の送金記録など東京地検特捜部の“極秘”捜査資料がネット上で閲覧できる状態になっていることがわかった。しかし、サイバーテロやウイルス感染で不正流出したわけではない。
キーワードは「知る権利」。

去年12月22日、東京・霞が関の司法記者クラブ

ニューヨーク駐在のアメリカ総局の記者から送られてきたファイルの内容に私(橋本)は、目を疑った。
東京地検特捜部がアメリカ司法省に送ったゴーン元会長逃亡事件の捜査の進捗(しんちょく)を伝える書簡。

書簡が作成されたのは前日の21日。特捜部の検事のサインも入った“極秘”資料だ。

アメリカでは去年5月、ゴーン元会長の逃亡を手助けした疑いで特捜部が逮捕状を取っていたアメリカ軍特殊部隊元隊員マイケル・テイラー容疑者と息子のピーター・テイラー容疑者が拘束され、2人がいつ日本に移送されるかが当時、取材の焦点だった。

司法担当の記者にとって特捜部の捜査資料はのどから手が出るほど欲しいものだ。

しかし、検察の保秘の壁は厚く、「夜討ち朝駆け」の取材をどれだけ繰り返しても、生の捜査資料を、しかも、捜査の進行中に見ることなど不可能だ。

アメリカ総局はどのようにこのファイルを入手したのか。私はどうしても知りたかった。

送ってくれた及川記者に問い合わせると、アメリカの裁判所が運営する「PACER」(ペイサー)というウェブサイトからダウンロードしたという。

このサイトは、20年前から運用が始まり、連邦裁判所で開かれる裁判に提出された書類や証拠の多くが、電子記録として保管され、アカウントを登録すれば、誰でも閲覧しコピーもできるという。

当時、東部マサチューセッツ州の連邦地方裁判所では2人の日本への移送を認めるかどうかを争う裁判が開かれていた。

この裁判に特捜部の捜査資料が提出されていたため、サイトを通じて裁判記録としてダウンロードできたのだ。
10枚閲覧するのに1ドルの手数料はかかるが閲覧可能な文書は10億件以上、利用者は360万人を超える。

検索機能もあり、関心のある裁判を登録すれば、記録が新たに提出されるたびに、メールで通知されるサービスまであるという。

このサイトを利用することで、ゴーン元会長と合流したテイラー容疑者親子の国内での動向の一部始終が記録された大量の防犯カメラ画像や、ゴーン元会長の銀行口座の取引記録なども簡単に入手することができた。

黒塗りの部分もあるが、取引記録からは、逃亡前のおととし10月、ゴーン元会長の銀行口座から2回にわたって、9100万円余りが、容疑者側の会社に送金されていたことなど、国内での取材ではうかがい知れなかった新事実も判明した。

そもそも日本では「裁判記録の公開」がどこまで認められているのか。

日本もアメリカも「裁判の公開」は憲法などで保障されているが、日本では第三者による裁判記録の閲覧はかなり制限されている。

民事裁判の記録は裁判所に足を運べば第三者でも閲覧できるが、コピーは禁止され、ネットでの閲覧はできない。

プライバシーや企業の営業秘密などが含まれている場合は当事者が申し立てれば、閲覧が制限されることも多い。

刑事裁判の記録の閲覧は、さらにハードルが高く、判決が確定するまで、第三者は閲覧できない。

判決が確定すると、記録は、検察庁で保管され、原則として、誰でも閲覧できる。

しかし、検察は「関係者の名誉や生活の平穏を著しく害するおそれがある場合」などは、法律の例外規定によって、閲覧の請求を拒否することができる。

実際には、記者を含めて第三者が閲覧を請求しても、却下されるか、判決文などを除いて記録の大部分が黒塗りになることが多い。

「『原則』と『例外』が逆転した運用になっている」という指摘もある。取材に応じた日本の検察幹部の1人はその理由を次のように明かした。

アメリカではどうなのか?プライバシー保護などを理由に裁判記録の一部が非公開になることはあるという。その可否を判断するのは検察官ではなく裁判官だ。

取材したニューヨーク州の連邦地方裁判所の元裁判官は、民主主義ではすべての国民に「知る権利」があり、裁判記録は共有されるべきだと強調した。

元裁判官 シーラ・シェインドリンさん
「民主主義では法廷で何が行われているのかすべての人に『知る権利』があり、秘密にすべきではありません。絶対王政時代のイギリスでは密室で裁判が開かれていましたがこれは独裁でよいことではありません。裁判所に提出される記録や文書は、原則としてすべて国民が共有すべきで、それが裁判の信頼や不正防止にもつながります」

日本とアメリカで大きく異なる「裁判の公開」に対する考え方。32年前、その違いを象徴する「伝説の裁判」の判決が言い渡されていた。

「法廷メモ訴訟」だ。

実は日本では、かつて、法廷でメモをとることさえ、司法記者クラブに所属する記者以外、原則として認められていなかった。

これに強い疑問を抱いたのが、アメリカ人の弁護士ローレンス・レペタさんだ。

レペタさんは1982年から日本の株式市場の規制を研究するために東京地方裁判所で開かれていた脱税事件の裁判を毎回、傍聴していた。

しかし、メモをとろうとすると、裁判所に止められた。レペタさんはメモをとるための「許可願」を何度か裁判長に提出したが、そのたびに退けられた。

このため法廷メモの禁止は「知る権利」や「裁判の公開」を保障した憲法に違反すると主張し、国を訴えたのだ。

1審と2審はいずれも訴えを退け、2審は「訴訟の円滑な運営に影響を及ぼすおそれがあれば、メモを禁止しても憲法違反ではない」などと指摘した。

しかし、1989年3月8日、最高裁判所の大法廷は、「特段の事情が無い限り、傍聴人の自由に任せるべきだ」として一転して法廷でメモをとる自由を認めた。

この日の午後、全国の裁判所では、法廷前の掲示板から「メモ禁止」の表示が一斉に削除され、法廷メモが解禁された。

戦後日本の裁判史の中で、「革命」とも言える出来事だった。

世界的に見ても遅れていると指摘される日本の裁判記録の公開。そのあり方が裁判のデジタル化で見直される可能性があることがわかった。

政府は2025年度までに民事裁判の手続きを全面的にIT化する方針で、実現すれば現在、紙ベースの裁判の書類は電子化される見通しだ。

その場合、民事裁判についてはアメリカのように裁判所に提出された書面をネット上で閲覧したり、ダウンロードしたりすることが可能になる。

法制審議会の部会が先月公表したIT化の中間試案では、ネット上での閲覧を▼当事者だけに認める案と、▼判決や主張など一部の書面は第三者にも認める案の2つの選択肢が示されている。

仮に第三者も閲覧できるようになれば、私たちジャーナリストとしては歓迎すべき流れだ。

しかし話はそう単純でもない。

アメリカでもデジタル化の進展に伴い、近年、裁判記録で非公開とされる情報が増えてきているというのだ。

元裁判官 スティーブン・スミスさん
「ネットで瞬く間に情報が広がり銀行の口座番号や社会保障番号などが悪用されるリスクが高まりました。裁判所から個人情報が漏れることは避けなければなりません。不幸なことではありますが、何を非公開にすべきか裁判所はより慎重に判断する必要があります」

ゴーン事件の“極秘”捜査資料がなぜネットで閲覧できるのか?その疑問をきっかけに始めた取材は「裁判とは何か」「民主主義とは何か」という本質的な問いを私たちに突きつけた。

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