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放送大学教授(政治学原武史さん
「男系男子は軍事国家の名残。戦後の価値観で皇室典範の見直しを」

 飛鳥・奈良時代や江戸時代には女性天皇がいたのに、明治の皇室典範皇位継承者を男系男子に限ったのは時代背景も影響しています。西洋列強から開国を迫られた日本は、植民地化を免れるため急いで軍事国家をつくる必要があり、天皇を軍事的なシンボルにしたのです。京都にいたときは中性的な姿をしていた天皇が、ひげを生やし、軍服を着て馬や軍艦に乗るなど、男性化していった。女性天皇についても議論されましたが、結局除外されたゆえんです。

 しかし、敗戦によってこの路線は破綻した。陸海軍を解体し、憲法を改正し、女性参政権を認めるなど、男女平等が進められました。

 ところが、皇室については、根本の部分はまったく変えなかった。戦後の皇室典範でも依然として皇位継承者を男系男子のみに限っているのは、軍事国家の名残のようなものです。

 このため、時間が経つにつれ、お濠の内側と外側の「ズレ」が拡大していきました。

 いまや結婚しない自由や子どもを産まない自由はもちろん、LGBTの権利も認められるようになった。結婚した女性が必ず男子を産まなければならないというのは、もはや完全に時代遅れになっています。

 さらに言えば、皇室制度自体を続けるのかという考え方が抜けています。憲法1条には「天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づく」とあります。国民の総意がもう皇室はいらないと考えるのであれば、なくていいという話になる。こうした選択肢は考慮されていません。

 とにかく今は存続が大前提になっていて、結婚後も女性皇族を皇室に残して女性・女系への道を開くのか、男系男子に固執して旧皇族の男子を養子に迎えるのかといった二者択一のような議論になっている。

 それだけでいいのでしょうか。今回の眞子さんの件で、特に女性にとって、お濠の内側がいかに窮屈で生きづらいかがわかってしまった。眞子さんだけでなく、現上皇后も現皇后も、失声症になったり適応障害に苦しんだりしました。

 宮中にはいまなお、ケガレを避けるためのしきたりが厳然と残っています。その一つが女性だけに当てはまる血のケガレで、生理中は宮中三殿に上がれません。これは男女平等にも反しています。そこに手をつけず、ひたすら存続を前提にした議論ばかりが進んでいけば、今後も眞子さんのような女性皇族が出てくることは十分考えられます。

 皇室制度の存続を望むなら、GHQが手をつけなかった戦前との連続性にあたる部分を、戦後の新しい価値観のもとで再検討することが必要です。皇室典範を見直すとともに、条文化されていないしきたりなどもタブーを排して見直すことが重要だと思います。

◆東大大学院教授(憲法学)・石川健治さん 
「女性皇族が皇室から離脱する権利を封じるならば女性天皇を認めなければならない」

 眞子さんの結婚騒動は改めて考えると、皇室からの脱出劇だったのだと捉えるべきだと思います。

 憲法学者の奥平康弘先生は生前、天皇の退位について「脱出の権利」を説いておられました。その考えの元は、米国の政治哲学者エイミー・ガットマンの著作です。

 ガットマンは、人間を強く突き動かしているのは信仰で、宗教団体は公共圏を支える原動力となっており、宗教団体を民主制の中で積極的に評価すべきだと説きました。

 しかし、宗教団体はその信仰ゆえに、男女差別を典型とした差別構造を持つことがあり、宗教団体の積極評価は、たとえば男女差別を国家がサポートする結果をもたらし得ます。にもかかわらず、それを正当化しようとするなら、女性が個人として、納得ずくで人権を放棄していることに求めるほかはない。が、この正当化は、いざとなったら団体から抜ける可能性があることが前提です。裏から言えば、脱出の権利だけは、放棄できない人権だということです。

 皇室を、皇室祭祀を軸とした、祭祀共同体だと捉えると、同様に、男性中心の皇室のあり方は、女性皇族の脱出の権利が確保されることによってのみ、正当化されることになります。憲法第3章の「国民」の権利条項は、天皇・皇族には適用がないと考えるべきですが、そうした憲法の定めによっても、脱出の権利は奪われないと考えることは、論理的に可能です。その意味で、女性皇族が皇室から離脱することができる現行の皇室典範は、理にかなっているのです。ただし、認められた脱出路は、婚姻だけでした。

 眞子さんが「結婚は生きていくために必要な選択」と発言されたのは、皇室からの脱出を求める心の叫びとして理解することができるでしょう。彼女の主張は脱出の権利に裏づけられたものだったが、小室(圭)さんとの結婚以外に脱出路がなかった。

 皇室典範の立法政策論として言えば、現状を維持して不平等を認めるためには、脱出の権利の保障が必要になる。それを封ずるのであれば、逆に男女平等を実現して、女性天皇を認めなくてはいけない。そういう論理構造になっているのです。その意味で、眞子さんの婚姻を認めるか、認めないかという問題は、女性天皇論議と深いところで連動しているわけです。

 ただし、ここで眞子さんによって、婚姻にまつわる皇室の儀礼をも吹き飛ばして強行された脱出劇は、家族としての秋篠宮家だけでなく、制度体としての皇室に対しても大きなダメージを与えたことは確かでしょう。

 大きな犠牲を払いつつ遂行された脱出劇が、「人権」を求めた眞子さんによる脱出の権利の実践だったと考えれば、彼女の一貫した悲壮さも腑に落ちる気がしています。

歴史学が専門の河西秀哉・名古屋大学大学院准教授
SNSで発信する英王室が見本。皇室側から積極的に情報発信を」

「皇室不要論」が聞こえてくるようになった要因として、コロナ禍の影響は大きいと思います。

 上皇ご夫妻は、東日本大震災での被災地訪問に代表される、目に見える公務の印象が非常に強く、被災者の心に寄り添う姿が象徴天皇への敬意を集めました。

 今は目に見える公務が減り、皇室は何をやっているんだろう、という疑問が出てきています。そこに今回の小室眞子さんの問題が重なりました。上皇ご夫妻には、実社会とは離れた特別な存在としての皇室という感覚がありました。

 一方、眞子さんは「公」と「私」で言えば、「私」を優先させたように見えました。小室圭さんとの結婚問題では、これまで国民の多くが持ち続けてきたであろう「皇室とは清廉で道徳的な人たち」といったイメージが崩れてしまったのです。

 こうしたことが起きるのは、皇室が社会の変化のスピードに追いつけていないことも背景にあると思います。

 情報発信という点で言えば、宮内庁の方針は、従来のオールドメディアに伝え、メディアを通して国民が知るというものです。ホームページを見にいくという能動的な行動でしか皇室にはアクセスできません。

 そうではなく、常に皇室側から情報を発信していくということが大事です。「私は普段こういうふうに考えている」「こういうことがあったんだ」といった何げない発信があってもいいと思います。私たちも、この人はこういう人なんだ、とわかっていれば、眞子さんの問題に対する捉え方も違ったかもしれません。

 見本になるのは英王室でしょう。ダイアナ元妃が亡くなったとき、王室は無視を続けたことで国民から反感を買い、王室廃止論が出たのです。その反省を踏まえ、広報を重要視する方向にかじを切りました。いまや英王室はSNSで積極的に発信しています。ツイッターフェイスブックであれば勝手に情報が流れてくる。受動的に王室の発信に触れることができます。

 日本の皇室も、国民にとってより身近な存在である、ということを見せるほうが時代には即しています。ある程度の節度を保ちつつ、どんな人なのかを広く知ってもらう、本音を隠し続けるのでなく吐露する、といった姿勢が大事になってくるのではないでしょうか。

 瓦解した「国民に寄り添う皇室」像をふたたび取り戻せるかは非常に難しい問題です。平成期も最初からうまくいっていたわけではありません。紆余曲折があって、皇室への敬意が高まるまで20年ほど要したのですから。

麗澤大学教授(憲法学)・八木秀次
「男系を守ってこその特別な存在。天皇とは、皇室制度とは、広く議論を」

 個人の自由意志を貫いて結婚した小室眞子さんをめぐる騒動は、天皇制の維持など、皇室のあり方に非常に大きな影響を与えたと思います。これが前例になることにより、他の内親王、女王の結婚にあたっても同じ形態がとれるようになりました。

 一番懸念されるのは、悠仁親王の即位拒否に道を開いたことです。姉が自由意志を貫いたことが前例となり、即位拒否を主張されてもだめだとは言えなくなった。悠仁親王が皇太子になられるのもそう遠い話ではありません。皇室典範上、皇太子になると皇籍離脱はできませんが、なったとしても特例法という「逃げ道」があるのです。

 こうした道を開いたのは、上皇陛下の生前退位にあったと考えています。皇室典範には退位の規定はなく、むしろ解釈として禁止されていると考えられてきました。それを、当時の天皇陛下の思いを優先するという形にしました。結果として、皇族が自分の思いを貫くことを可能にしてしまった。その論理が提供され、眞子さんが自由意志を貫く結婚につながってしまったと考えるべきです。

 特例法について、私は反対でした。制度として捉えると、退位を認めた瞬間に皇位安定性は一気に揺らぎ、不安定になります。当時、私は「退位を認めることが、即位拒否や、即位後まもなくの退位を認めることになる。これが何度か続けば、皇室は継承できる天皇が誰もいなくなってしまう」と指摘しました。

 特例法でパンドラの箱が開きかけ、眞子さんの結婚が箱のふたをより広げたといえます。

 天皇は国民との絆を重んじる精神的なよりどころとして存在してきたなかで、こうした経緯のある秋篠宮家に将来、皇位が移ることを危惧する人もいます。しかし、代々続いてきた男系の継承は守るべきです。

 皇族の数が減り、皇位継承資格のある男系男子の皇族も数えるほどの人数となるなかで男系継承は行き詰まっているとの指摘もあります。しかし、歴史の連続性の重みは無視できない。継承者が男系から外れると正統性がなくなるからです。

 天皇や皇族と国民との違いは、歴代天皇の男系の血統に連なるか、それ以外かです。女系は一般国民となる血筋であり、女系継承を認めれば、国民との間に質的な違いはなくなります。血統によって区別され、代わりがいないからこそ特別な存在として、敬愛の念を抱くのです。

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