チリの大統領選 決選投票へ TPP批准も争点で貿易にも影響か #nhk_news https://t.co/t6G0TDEdaV
— NHKニュース (@nhk_news) 2021年12月18日
チリではピニェラ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が先月行われましたが、当選に必要な過半数の票を獲得した候補者はおらず、右派政党の党首のホセアントニオ・カスト氏(55)と、左派の下院議員のガブリエル・ボリッチ氏(35)の上位2人による決選投票が今月19日に行われることになりました。
チリは1990年に軍事独裁政権が終結して以降、市場経済や自由貿易を推進し堅調な経済成長を実現してきたうえ、中道穏健派が政権を担い政治的にも安定していたことから「南米の優等生」と称されてきました。
しかし今回の選挙戦では、社会格差の是正や移民受け入れの是非などが争点となったことから、厳格な移民政策を主張するカスト氏と、富裕層への増税を訴えるボリッチ氏が支持を広げ、この30年間で初めて中道以外の候補者による決選投票が行われることになりました。
また、左派のボリッチ氏は、日本やチリなど11か国が参加するTPPを巡り「市民生活に与える影響が十分議論されていない」などとして批准に慎重な姿勢を示していて、投票の結果次第では日本を含む各国との間の貿易に影響が出る可能性もあります。
先月の大統領選挙ではホセアントニオ・カスト氏(55)が得票率27.9%でトップでした。
右派政党の党首で元下院議員のカスト氏は、治安対策の強化や移民の受け入れ厳格化、それに左派政権のキューバやベネズエラにある大使館を閉鎖して外交関係を格下げすることなどを訴えています。
チリでは2019年、政府が地下鉄の運賃を値上げすると発表したのをきっかけに大規模な反政府デモが起き、APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が中止に追い込まれる事態となりました。
それ以降も、暴徒化したデモ隊による暴力や略奪行為が相次ぎ、市民の間に強い不安が広がっていることから、カスト氏は治安や移民をめぐる問題に厳しく対応すると主張し、支持を急速に広げています。
これに対し、先月の選挙で得票率25.8%で2位だったのが、左派の下院議員で学生運動のリーダーだった、ガブリエル・ボリッチ氏(35)です。
チリでは、順調な経済成長の陰で経済格差が広がり、国民の多くを占める中間層が収入や年金で十分な生活費をまかなえないと不満を募らせています。
こうした中、ボリッチ氏は、富裕層への課税強化などを通じた格差の是正や年金制度の改革、それに学生ローンの負担軽減などを打ち出し、幅広い支持を集めています。
さらに、ボリッチ氏はTPP=環太平洋パートナーシップ協定を含む新たな貿易協定について、市民への影響を見極める必要があるとして、慎重に判断する姿勢を示しています。
決選投票を前にチリ国民はカスト氏とボリッチ氏への支持で大きく分かれています。
首都サンティアゴで企業への技術支援などを行うベンチャー企業のCEO、ラウラ・チクレルさんは、右派のカスト氏を支持しています。
チクレルさんは、おととしの反政府デモ以降の治安悪化の影響が経済や企業経営にも及んでいるとして、治安や秩序の回復を強く求めています。
TPPについても「外国企業とのビジネスの機会が増えるだけでなく、ほかの市場との貿易の拠点としてチリへの外国企業の進出が期待できる」と評価していて、TPPを含めた自由貿易協定の締結に積極的なカスト氏に投票することを明言しています。
一方、サンティアゴの大学で音楽を専攻するフアン・アラヤさんは、学生への支援強化を訴える左派のボリッチ氏を支持しています。
アラヤさんは学費を賄うために学生ローンを組んでいますが、金利の上昇もあり、ローンの返済は卒業後15年間にわたって続く見通しだということです。
アラヤさんは「大学の学費がとても高額で、支払えずにやめていった友人が何人もいる」として、ボリッチ氏が掲げる学生ローンの負担軽減策に期待を寄せています。
日本やチリなど11か国が参加し2018年に発効したTPP=環太平洋パートナーシップ協定をめぐり、チリは国内の手続きが終わっておらず、批准が遅れています。
TPPについて、カスト氏は「投資や輸出を拡大させるため自由貿易協定を推進していく」と述べ、批准に前向きな姿勢を示しています。
一方、ボリッチ氏は「市民への影響が十分に議論されていない」として、批准には慎重な姿勢を示しています。
さらに、これまで日本などと個別に結んだ自由貿易協定についても「あらゆる国民にとって有益な内容になっているかどうか、常に見直しを進める必要がある」として、状況に応じて相手国との再交渉が必要だとしています。
日本とチリの間では、2007年に2国間のEPA=経済連携協定が発効し、チリの主要な輸出品である銅などの鉱工業品やサーモン、ワインなどの関税はすでに撤廃されています。
ただ、チリがTPPを批准しないかぎり、アルミニウム製の部品など日本の一部の工業製品や、チリ産のウニやカニ、それにオレンジやチーズなど一部の農作物の関税は撤廃されません。
また、外務省によりますと、チリには去年10月の時点で日系企業104社が進出していますが、チリ政府がTPPを批准しなかった場合、期待されていた貿易手続きの効率化などが進まず、中長期的には技術支援や人材交流などにも影響が出ると指摘されています。
現地の政治経済に詳しいチリ・デサロージョ大学のゴンザロ・ミレル教授は「ボリッチ氏の政治的基盤をつくるほとんどの人がTPPに反対している。チリは自由貿易の面で先駆的な存在で、もしTPPを批准しなければ40年来の方針転換になる」と指摘しています。
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