最高裁第二小法廷 令和4.6.17 令和3(受)1205 損害賠償請求事件 https://t.co/q1zLrCkCaI
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最高裁第二小法廷 令和4.6.17 令和3(受)342 原状回復等請求事件 https://t.co/mCJP43z2J9
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最高裁第二小法廷 令和4.6.17 令和3(オ)293 原状回復等請求事件 https://t.co/pWzigKeGui
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【速報 JUST IN 】原発事故で国の責任認めず 最高裁 避難者の集団訴訟で初の判断 #nhk_news https://t.co/nJ4cOhgrgI
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福島第一原子力発電所の事故で各地に避難した人などが、国と東京電力に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁判所は、「実際の津波は想定より規模が大きく、仮に国が東京電力に必要な措置を命じていたとしても事故は避けられなかった可能性が高い」と判断し、国に責任はなかったとする判決を言い渡しました。
原発事故の国の責任について最高裁が統一的な判断を示すのは初めてで、全国各地で起こされている同様の訴訟に影響するとみられます。
判決が言い渡されたのは、原発事故のあと各地に避難した人などが国と東京電力を訴えた集団訴訟のうち、福島、群馬、千葉、愛媛の4つの訴訟です。
東京電力の賠償責任は確定していて、2審で判断が分かれた国の責任について最高裁判所が審理していました。
焦点は国の地震調査研究推進本部が、東日本大震災の9年前、2002年に公表した『長期評価』の信頼性で、これを踏まえ国が▽巨大津波を予測できたか、▽東京電力に対策をとらせていれば事故を防げたかどうかが争われました。
17日の判決で、最高裁判所第2小法廷の菅野博之裁判長は「現実に発生した地震は長期評価に基づいて想定される地震よりはるかに規模が大きかった。津波も試算より規模が大きく、到来した方角も異なり、仮に国が東京電力に必要な措置を命じていたとしても大量の海水の浸入は避けられなかった可能性が高い」と述べ、原発事故について国の責任はなかったとする判断を示しました。
4人の裁判官のうち、1人は結論に反対しました。
原発事故の国の責任について最高裁が統一的な判断を示すのは初めてで、全国各地で起こされている同様の訴訟に影響を与えるとみられます。
争点は
▽国が、巨大な津波が来ることを震災前に予測できたか。
▽予測できた場合、
東京電力に有効な対策をとらせていれば事故を防げたかどうかでした。
その中で地震や津波などの専門家でつくる「地震調査研究推進本部」が、2002年7月に公表した「長期評価」が焦点となりました。
「長期評価」は、過去の地震などを踏まえて将来、大きな地震や津波が起きる地域や発生確率の推計で、この「長期評価」に基づいて、東京電力の子会社が原発事故が起きる3年前の2008年に福島第一原発に到達する津波の高さを試算しました。
試算の結果、津波の高さは当時、東京電力が想定していた最大5.7メートルを、大きく上回る最大15.7メートルで、現場の担当者からは対策が必要だとする声もあがっていました。一方で、専門家の一部から「長期評価」の信頼性を疑問視する意見もあったことなどから、これまで津波高さを評価してきた土木学会という別の組織に研究を委ね、対策は具体的に進みませんでした。
裁判では、国と東京電力が原発事故が起きる前の段階で、大きな津波を伴う巨大地震を科学的な根拠に基づいて見通せたかが焦点の1つで、「長期評価」がその根拠と言えるかどうかが争われました。
判決は、争点となっていた長期評価の信頼性や、震災前に巨大津波を予測できたかどうかについては明確な判断を示しませんでした。
ポイントとなったのは「対策をとらせていれば事故は防げたのか」という観点です。
想定や試算と実際の地震や津波の規模が大きくかけ離れていたことを重視しました。
判決はまず、国が長期評価に基づいて東京電力に適切な措置を講じるよう命じていた場合、長期評価で想定される最大の津波を前提に防潮堤を設置した可能性が高いという考えを示しました。
そのうえで、仮に防潮堤が設置されていたら事故が防げたかどうか検討するため地震や津波について想定と実際の規模などを比較。
長期評価で示された地震の規模がマグニチュード8.2前後だったのに対し、実際の地震の規模は9.1だったことから、「実際の地震は長期評価で想定される地震よりはるかに大きかった」と指摘しました。
さらに津波についても
▽長期評価に基づく試算では浸水の高さは2.6メートルかそれ以下だったのに、実際は5.5メートルとはるかに上回っていたことまた、
▽想定されていなかった敷地の東側からも大量の海水が浸入していたこと
を挙げ、「防潮堤を設置しても大量の海水の浸入を防げなかった可能性が高い」と判断しました。そして「国が権限を行使して東京電力に適切な措置を講じさせていても事故が発生する可能性は相当あるといわざるを得ない」として、国の責任を否定しました。
また、千葉と愛媛の訴訟の2審判決は「防潮堤の設置に加え、浸水対策を合わせてとることを前提に国が規制の権限を行使していれば事故は防ぐことができた」と判断していましたが、これについても「原発事故の前に原発の主な津波対策として敷地が浸水することを前提とした防護措置が採用された実績はうかがえない」などとして判断を覆しました。
今回の判決について、裁判長を務めた菅野博之裁判官は、結論に賛成の立場で補足する意見を述べました。
この中で、菅野裁判官は、「平成14年の長期評価の公表から平成23年の東日本大震災の発生までの時間経過に照らすと、東京電力も国も長期評価の正確性や重要性を検証し、それをもとに津波防護措置の検討を行うペースがあまりにも遅すぎたのではないかという感は否めない」と指摘しました。
一方、判決で国の賠償責任を認めなかったことについては、「今回の地震があまりに大きな地震で、津波があまりに大きな津波であったたため長期評価を前提に行動したとしても、事故を回避することができたと判断するのは無理が大きすぎるからだ」と述べました。
国の責任を認めるかどうか、判決を出した4人の裁判官の意見は3対1で分かれました。
このうち検察官出身の三浦守裁判官は、国には責任があったとする反対意見を述べました。反対意見では「『長期評価』は、地震防災対策の強化を図るためにそれまでに得られた科学的・専門技術的な知見を用いて適切な手法で策定されていて、基本的な信頼性は担保されていた」として、長期評価の信頼性を認めました。
そのうえで、「長期評価の公表後、国がみずから、または東京電力に指示をして、津波を試算していれば、最大で15.7メートルの高さの津波が襲来することが想定され、今回と同様の事故が発生するおそれがあることは明らかだった」と指摘し、国は事故のおそれを予測できたと指摘しました。
そして、「国も東京電力も対策を適切に検討しなかったことは明らかで、住民の生存や生活を守るための法律がないがしろにされていたというほかない。事故は回避できた可能性が高く、国が対策を命じなかったことは違法だ」と述べました。
判決のあと、福島と群馬、千葉、愛媛の4件の集団訴訟の原告などが、東京都内で記者会見を開き、国の責任を認めなかった判決ついて、「残念だ」とか「許せない」などと憤りの思いを話しました。
このうち、福島訴訟の原告団の団長を務める中島孝さんは、「私たちのように原発事故による放射線におびえながらも避難をする手立てもなく福島県内にとどまった人は多くいます。原発事故による“生きる苦難”がいまも続いている中できょうの判決は絶対に許せないです」と話していました。
また、群馬訴訟の原告の丹治杉江さんは、「避難して11年間、原発事故で失ったものや取り戻せないものはたくさんあります。国に謝ってほしい。償ってほしい。実態に見合った救済を進めてほしいと思ってきて、わずかな光として裁判所が事故の責任を明らかにしてくれると信じていました。判決は残念でならず、国民を守らない国に原発を動かす資格はないと思います」と話していました。
千葉訴訟の原告代表を務める小丸哲也さんは、「まことに残念な判決でした。原発は絶対安全・安心と国と東電が言い続け、それを信じていたのに災害が起き、避難を余儀なくされている。なぜ、安全・安心と言っていたのか国の判断は正しかったのか裁判所に国の責任を認めてほしかった」と話していました。
愛媛訴訟の原告の渡部寛志さんは、「私たちは、苦しい生活から早く抜け出したい。前に進みたいという切実な願いを持ちながらも国がこれまで応じてくれなかったために司法に頼ってきました。東電だけに責任を負わせて終わらせてしまうのでは、原発事故を起こした社会の誤りも正せないまま終わってしまいます。非常に許せない判決でした」と話しました。
判決のあと、福島訴訟の弁護団の馬奈木厳太郎弁護士が最高裁判所の前に集まった原告や支援者に向けて判決への受け止めを述べました。
このなかで馬奈木弁護士は「国の責任を認めない判決は、全く受け入れられない。結論だけでなく、判決に至る判断の過程も原発事故の被害に全く向き合っていない。この判決が全国で行われている同様の訴訟に影響を及ぼすことがあってはならないし、この判決を乗り越えるために最後まで戦っていきましょう」と述べ、憤りをあらわにしていました。
全国各地から集まった原告や支援者からは「ふざけるな」といった声があがったり、涙を流したりする姿も見られました。
弁護団は、国の責任を認めない判決を想定していなかったとして、裁判所の前で判決の内容を紙に掲げる旗出しは行いませんでした。
最高裁判所の判決を受けて東京電力は、
「原発事故により、今なお、福島の皆さまをはじめ広く社会の皆さまに、大変なご負担とご迷惑をおかけしていることに心から深くおわび申し上げます。当社の起こした事故が地域の皆さまにもたらした影響の大きさ、深さは計り知れず、事故の当事者としてその責任を痛感するとともに、原告の皆さまに対し、心から深く謝罪いたします。あのような事故を起こしたことを深く反省し、二度とこうした事故を起こさぬよう、根本原因や背後要因を詳細に分析し、事故の反省と教訓を全社の事業活動に生かす取り組みを進めております。当社にとって『福島への責任の貫徹』は最大の使命です。その責任を果たすために存続を許された会社であることを改めて肝に銘じ、福島のために何が出来るのか考え続け、引き続き、『復興と廃炉の両立』『賠償の貫徹』に向けて、全力で取り組んでまいります」とコメントしています。
最高裁判所の判決を受けて原子力規制委員会は更田豊志委員長の談話を発表しました。
談話では、
「原子力規制委員会は、東京電力福島第一原発の事故の教訓に学び、二度とこのような事故を起こさないために設置されました。判決においては規制権限不行使に関する国家賠償法上の違法性は認められませんでしたが、各種の事故調査報告書において、従前の原子力規制に関し、自然の脅威に対する備えが不十分であり、新たな科学的知見を規制に取り入れるためのバックフィット制度がないなど種々の問題点が指摘されてきました。規制委員会は、従前の原子力規制に対する深い反省のもと、これまで、地震、津波を始めとする自然現象に対する備えの強化や過酷事故への対策を盛り込んだ新規制基準の策定、新たな科学的知見を規制に取り入れるためのバックフィット制度の運用など事故の教訓を規制に生かすための取り組みを行ってきました。規制委員会は、引き続き、自然の脅威に謙虚に向き合い、新たな知見の収集を怠らず、規制の不断の見直しに努めてまいります。また、福島の復興に向け、福島第一原発の廃炉作業が安全かつ着実に進むよう、原子力規制の立場から十分な監視や指導などを行ってまいります」としています。
民法が専門で原発事故などの賠償問題に詳しい立命館大学の吉村良一名誉教授は「『長期評価』の信頼性や、巨大な津波が襲うことを予測できたかについて明確な判断を示しておらず、争点をそらした判決だ」としています。
そのうえで「被害を救済するために何をすべきかと考えれば、争点をそらすような判断をすることはないはずだ。10年間、被災者に対して国が積み上げてきた支援や、将来の原子力行政に影響が出ることを嫌ったのではないか」と指摘しました。
一方、4件の訴訟では原発事故の賠償の目安として国の審査会が定めた基準を上回る賠償額が確定していることなどを踏まえ、「事故に関する国の法的な責任は否定されてしまったが、社会的、政治的な責任は変わらないし、今の基準を上回る賠償が認められている以上、基準の見直しの必要性も変わらない。判決の結果にかかわらず国はまじめに対応してほしい」と話していました。
原子力規制庁の元幹部で、原子力の安全規制に詳しい、長岡技術科学大学の山形浩史 教授は、17日の判決について、「不確かさが大きい自然現象にどう向き合うかを問いかけた判決だった。原子力の規制が地震が起きてもひび1つ入らないとか、津波が来ても海水を1滴も入れないという考え方で臨むと、議論が長期化したり、対策にすぐに結び付かなかったりしてうまくいかないので、工夫が必要だ」と指摘しました。
そのうえで、今後の規制のあり方については、「国の責任が認められなかったからといって安心してはいけない。最新の知見を広く集めて理解し速やかに判断するのは難しい。高度な専門性を持つ人材の確保や速やかに共有する仕組みも欠かせないし、世界中の知見を集めるにはコストもかかる。原子力規制委員会だけではなく電力会社や大学などの協力を得られる体制を作る必要がある」と指摘しました。
国の原子力委員会で委員長代理を務めた原子力政策に詳しい長崎大学の鈴木達治郎 教授は、17日の最高裁判所の判決について「規制当局が最善を尽くしたかどうか判断されず残念だ」と述べました。
そのうえで「原発事故の責任が国にはないということは、電力会社の責任が法的にもモラル的にも大きくなったと考えなければならない。電力会社は、事故が起きた場合の責任はみずからにあることを認識しできる限りの対策を取る姿勢がこれまで以上に求められるようになる」と話していました。
また、原子力政策を進める国の責任について、鈴木教授は「今回の裁判はあくまでも安全規制の責任が対象で、原子力政策を進めてきた責任には触れられていない。この点については今後も引き続き議論する必要がある」と指摘しました。
【解説】原発事故で国の責任認めず 最高裁の判断は #nhk_news https://t.co/wnCAnUjnUV
— NHKニュース (@nhk_news) 2022年6月17日
裁判の争点は
今回の裁判の争点は
▼国が巨大な津波が来ることを震災前に予測できたか。
▼予測できた場合、東京電力に有効な対策をとらせていれば事故を防げたかどうか、です。最高裁判所の判断は
最高裁の判断をみるにあたって、震災が起きる前の地震や津波に関する国や東京電力の動きを押さえておきます。
震災の9年前、2002年に国の地震調査研究推進本部が「長期評価」という地震の予測を公表しています。これは今後30年以内に福島県沖を含む大平洋側の広い範囲でマグニチュード8クラスの地震が20%程度の確率で発生するというものです。さらにこの長期評価に基づいて、震災の3年前には東京電力側が最大で15.7メートルの津波が押し寄せるとの試算をまとめています。最高裁はこうした予測や試算をもとに、有効な対策が取れたのかを検討しました。
その結果、仮に国がこれらをもとに東京電力に防潮堤を設けるなどの措置を取らせたとしても事故は防げなかったと結論づけました。その理由として
▽実際に起きた地震は長期評価の想定よりもはるかに規模が大きく、
▽原発に押し寄せた津波も試算よりも大きなものだった
としています。つまり、震災前に存在した専門的な知見を超える巨大地震・巨大津波が起きたとして、対策を取っていたかどうかにかかわらず、事故は防ぎようがなく、国の責任は問えないと判断したのです。
これらはこれまで国側が裁判で主張した内容に沿った判断となりました。
最高裁の判決が全国に影響か
今回の4つの裁判では、1審や2審で国の責任を認めた判決も多くありましたが、最高裁はそれを否定した形です。これらの裁判では東京電力の賠償責任と、合わせて14億円の賠償額がすでに確定しています。国に責任はなかったとされたため賠償はすべて東京電力が負担することになります。
また、同様の集団訴訟は全国各地でほかにも30件近く起こされていて、判決はこれらの裁判に影響を及ぼすとみられます。
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