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エジプトのシシ大統領が看板政策として推進するのが、光り輝く高層ビル群とハイテク施設が集まる「新首都」だ。カイロ市街の雑踏や今にも倒壊しそうな家並みとは別世界である。

砂漠の中に出現しつつある「新行政首都」では、街灯の柱がWiFiのアクセスポイントを兼ね、カードキーを使ってビルに入る。いずれは650万人に達する住民の最初の一団を見守るのは、6000台以上の監視カメラだ。

この街の住民は、モバイルアプリ1つあれば、公共料金の支払いや公共サービスへのアクセス、当局への苦情申し立てができる。

こうした機能は日々の生活をより簡単に、より安全にしてくれると考える人々もいる。だがデジタル人権の専門家は、シシ大統領が政権を握ってからの10年間、反対派に対する弾圧や言論の自由の制限が広がっており、監視能力は基本的人権への脅威になると指摘する。

「都市全体に監視カメラを設置すれば、当局は公共空間を統制し、抗議行動や平和的な集会の権利を行使したいと考える市民を抑圧する前例のない能力を手にすることになる」と、デジタル人権擁護団体「アクセス・ナウ」のポリシー担当マネジャー、マルワ・ファタフタ氏は語る。

「市民のための空間への大掛かりな攻撃が続くエジプトのような国では、監視能力の強化は非常に危険だ」と同氏。

こうした懸念について政府広報官にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

アブダビからチュニジアに至るまで、この種の「スマートシティー」計画では、人工知能(AI)やセンサー、顔認識、機械学習といった先進的なテクノロジーを統合することにより、犯罪対策と効率向上、ガバナンス改善を図るとしている。

だが、こうしたプロジェクトは個人データの大量収集と処理に立脚しており、通常はユーザーによる認識や同意を欠いているため、監視の拡大につながると人権擁護団体は主張する。

さらにファタフタ氏は、政権が権威主義的であれば、こうした危険がさらに高まると指摘。「エジプト政府は、この新行政首都では住民の生活の質が高まると喧伝(けんでん)している。だが現実には、彼らが建設しているのは『監視都市』だ」とトムソン・ロイター財団に語った。

<名目は犯罪対策>

この新行政首都はエジプト国内10数カ所で進められている新しいスマートシティー計画の1つで、その規模は700平方キロメートル。政府省庁や金融機関、各国大使館などが立地し、監視システムは米国企業ハネウェルが開発したものである。

ハネウェルは2019年の声明の中で、監視カメラネットワークの司令センターは「先進的な動画分析により、人混みや交通渋滞の監視、盗難事件の検出、不審者や不審物の発見を行い、緊急事態が生じれば自動的に警報を発する」能力があるとしている。

ハネウェルによれば、政府当局者はこの司令センターが提供する監視カメラネットワークによるライブ映像にアクセスできるというが、対象となる映像については特定していない。

ハネウェルは2019年当時、「都市の全体像を把握するためにIoT(モノのインターネット)のソフトやハードによる先進的なソリューションを活用し、治安対応部隊や都市警察、救急体制の調整を行う統合的な公共安全サービスを提供する」と説明。同社はその後、このプロジェクトに関する最新情報を発表していない。

ハネウェルのカレド・ハシェム北アフリカ支社長と、新行政首都建設公社のハレドアッバス会長にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

ハネウェルは世界各国に大規模監視システムを販売しているが、英国開発学研究所(ロンドン)の研究員でデジタル人権を専門とするトニー・ロバーツ氏は、こうしたテクノロジーをエジプト政府に提供することは「倫理的に擁護できない」と述べ、同国における過去の人権侵害問題を指摘する。

「エジプト市民には、プライバシーの権利と言論の自由、結社の自由がある。だが、政権はジャーナリストや政敵にとって都合の悪い監視情報を利用して、彼らを投獄し、拷問を加えている」とロバーツ氏は言う。

当局者は、監視テクノロジーは犯罪の摘発と治安改善を狙ったものであり、データは国内法と国際基準により保護されると述べている。

<行き過ぎた監視>

近年、アフリカ各地では監視テクノロジーが急速に拡大しているが、そうしたシステムを提供しているのは米国や中国、欧州諸国に拠点を置く企業であることが調査により明らかになっている。

アフリカ・デジタル人権ネットワークによれば、ケニア南アフリカなど、メディアや司法が比較的自由な国では、市民社会が政府の責任を問うことができ、監視体制の改革もある程度は実現しているという。

たとえばケニアでは、高等裁判所が2020年、新たなデジタル身分証明書制度によって市民のDNA情報や位置情報データが収集されてはならないとし、もっと強力な規制を導入するよう政府に命じた。

だが、エジプトやスーダンではメディアや司法がもっぱら政府による統制を受けており、監視体制へのチェックが行われていない、とロバーツ氏は言う。同氏は最近、アフリカ諸国における監視ツールの利用について2本の報告書を執筆した。

軍司令官出身のシシ大統領が就任して以来、エジプトでは繰り返し人権侵害が問題視されてきた。昨年エジプトで開催された国連気候サミットの参加者からは、公式モバイルアプリを通じた監視を受けたという抗議があった。

「政権は市民に対して大規模な監視を行い、日常的にプライバシー権を侵害していることが分かった。しかも、それによって刑事責任を問われることはない」とロバーツ氏は語る。

「仮に権利侵害が判明したとしても、過剰な監視について訴追される、あるいは失職することはない」

<当然視する声も>

カイロの東方約45キロに位置する新行政首都では、政府当局者や住民の入居が始まっている。もっとも、カイロ住民の多くは、この新都市に住めるような生活の余裕はないと話している。

ソフトウエア技術者のアフメド・イブラヒムさんは、新行政首都の高層住宅地区でマンションを購入した。監視システムについては気にしておらず、単なる新たなハイテク機能にすぎないと考えている。

「違反行為を監視して犯罪を根絶するために街中に監視カメラを設置することに、何の問題があるのか」とイブラヒムさんは言う。

「私は政府を信頼している。このシステムのおかげで、我々住民にとって生活ははるかに楽になるだろう」

だが、監視システムに懸念を抱く住民もいる。

「こうしたシステムは世界中の多くの場所で稼働している。しかしエジプトのように抑圧の問題がある国では、懸念の的になる」と語るのは、まもなく一家で新行政首都に転居する予定のヘバ・アフメドさん(33)。

「誰だって、監視され私生活をさらされるのは嫌なものだ」とアフメドさんは話した。

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