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企業の間で取り引きされるモノの価格を示す先月の企業物価指数は、前の年の同じ月と比べて3.6%上昇し、2020年の平均を100とした水準で119.3でした。指数は依然として高い水準が続いていますが、都市ガスなどの料金の下落を受けて6月と比べて伸び率は鈍化しました。

#経済統計(日本・企業物価指数)

金利上昇容認市場の反応は

7月28日、日銀の金融政策決定会合

日銀はイールドカーブ・コントロール(以下YCC)の運用を見直した。長期金利の変動幅の上限を事実上1%に引き上げるというものだ。

発表された直後には、株式市場や為替相場は方向感の見えない展開となり、翌週、長期金利は一時0.655%まで上昇した。

しかし、その後は比較的、落ち着いた動きをしているように見える。「金融緩和を続けるが、長期金利の一定の上昇は容認する」。分かりづらいという反応もあるが、市場関係者には、一定程度日銀の意図は伝わったようだ。

政策立案に関わった日銀関係者は「大きな混乱もなく落ち着いているよね」と語った。なにか手応えを感じているようだった。

周到な地ならし?

これまで日銀は、たびたび「サプライズ」を演出してきた。黒田総裁下で2年で2%の物価目標の達成を表明したことに始まり、マイナス金利、YCC…。

こうした打ち出しは市場に歓迎されたこともあるが、動揺を招いたことが多いとも指摘される。去年12月もそうだった。このときは長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大。日銀としては、今回と同様、金融緩和を継続しつつ、金利操作を柔軟にするねらいいだった。

しかし、市場では「緩和縮小」と受け止められ、急速に円高や株安が進んだ。市場が過度に変動すれば、実体経済にも影響が出かねない。

こうした経緯を踏まえ改めて今回の決定を見てみると、以前と様相が異なるように感じられる。日銀は、時間をかけて今回の見直しの地ならしをしていたように見えるのだ。

振り返ると…

植田総裁の就任会見
なぜ、そう感じたのか時系列で振り返ってみる。

▽4月の就任以降、植田日銀はハト派=金融緩和を続ける姿勢を強調してきた。

▽6月会合後の会見でも、植田総裁は政策修正を問われても慎重な受け答えに終始した。

しかし、水面下の取材では違った。「少しずつ日銀はスタンスを変えている」そんな実感があった。

それを裏付けるような動きも続いた。

▽6月会合で、一部委員から「YCCの運用について早い段階で見直しを検討すべき」と意見が出る。

▽物価見通しに関して植田総裁は、「今年度半ばにかけて物価の上昇幅が縮小していく」という認識は崩さないながらも「物価の下がり方が思っていたよりもやや遅いかなという感触だ」と付言する。

▽7月、内田副総裁が、マイナス金利の解除については「大きな距離がある」と否定的な考えを示す一方で、YCCの修正について「いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい」と述べたことが伝わる。

植田総裁や周辺の発信の変化について、ある日銀関係者は、「就任後はハト派アピールが最大のミッションだったともいえたが、その状況でなくなっている。総裁は、どうすべきか思案している」と取材に答えていた。

日銀との折衝を担当する大手金融機関の幹部もこうした雰囲気を読み取っていたようだ。「今回、YCCの修正は7~8割で行われる。いつもと覚悟が違う」と語っていた。

4月の金融政策決定会合

物価や経済の見通しは上下双方向にリスクがあり、9人の委員の議論で決める。最終的な結論は予断を持てないため、日銀は情報発信に細心の注意を払う。

ただ、あらぬ期待が膨らめば、投機的な動きにつながりかねない。金融引き締めを行うと受け止められるような発信は避けるが、全く動かないとも捉えてほしくない。

ある日銀関係者は次のように話していた。「一方向に織り込ませないことで、結果的に市場の変動の軽減につながる部分もある」。

過去を教訓に、日銀が情報発信に苦悩しながら決定会合に臨んでいたことがうかがえる。

コミュニケーションがうまくいきすぎた?

日銀のHPより

決定会合では、長期金利の変動幅を事実上1%に引き上げることが決まった。この公表文にも、日銀の苦悩や戦略がにじんでいた。

「修正」ということばを使わず「柔軟化」という表現を用いたのだ。金融緩和の縮小ではないという意図を伝え、市場の動揺を和らげたいねらいが見てとれる。

もっとも、植田総裁は、その後の会見で「柔軟化と紙に書いてはいるがそれは修正とそんなに意味としては違わない」とも述べるのだが…。ともかく、市場では緩和継続という日銀の意図を受け止めたようだ。

ある幹部は会合後の取材に対し、「引き締めと受け止められて円高に振れると思ったが円安に振れたのはコミュニケーションがうまくいきすぎたからかな」と打ち明けた。

東短リサーチ 加藤出チーフエコノミスト

日銀ウォッチャーとして知られる東短リサーチの加藤出チーフエコノミストに聞いてみると「もう少し丁寧にできた気もするが、12月の修正のときよりはスマートにやったと言えるのではないか」と評した。

物価の発信に注目 2%の物価目標は何を持って達成?

今回は、功を奏したとも見える日銀の戦略。今後、注目されるのは、金融政策を判断する最大の要素「物価」についての発信だ。

植田総裁は、金利操作の見直しの理由を問われ「今後も物価の上振れ方向の動きが続く場合は、債券市場の機能や金融市場の変動に影響が生じる場合がある」と説明。YCC見直しの理由の一端に物価の上振れがあることを認めた。

消費者物価指数は、2%を上回る状況が1年3か月続いている。外形上は、「2%」は達成されている状況だ。

ただ、日銀は、表面上の数字だけで判断するわけではないという姿勢は崩していない。今年度の物価見通しは1.8%から2.5%へ引き上げたが、来年度以降は慎重だ。

そして「今後も物価や予想物価上昇率の基調的な上昇が達成されるまでは金融緩和を続ける」と説明している。

一方、まだ確信には至らないものの、日銀内部には物価目標達成の手応えが感じられる。

1.企業の賃金や販売価格の設定行動が変わること。
2.アメリカなど海外経済の減速が一定程度に収まること。

物価目標の達成に必要な2つの条件が整う可能性が出てきているという。ある日銀関係者は「ナローパス(狭き道)を恐る恐る歩んでいる感覚だ」と語った。実際、「今年度、いったん物価のプラス幅は縮小する」という見方は維持しつつも、5月ごろまでにしていた「2%を下回る水準まで下がる」という説明はやめている。

「基調的な物価の上昇」とは、何によって確認されるのか。いつ持続的・安定的な2%目標の達成が認められるのか。2%に関しても、これから日銀は細かいニュアンスを伝えることになるだろう。

駆け引きは人事をめぐっても?

正木一博 企画局長

今回の決定会合後、日銀が発表した人事が、市場の注目を集めている。金融政策の企画立案を担う企画局のトップ・企画局長の人事だ。正木一博前金融機構局長がこのポストに就くことになった。

正木氏はマイナス金利政策やYCCの導入に、かつて担当課長として関わった。今の異次元の金融緩和の枠組みは複雑で、出口戦略を描くのは簡単ではない。当時、この枠組みの導入に関わった者を据えて、出口戦略に移行するのではないか。こうした観測が早速、出始めている。

日銀が出口戦略に着手するのはいつなのか、どのように進めるのか。マイナス金利政策の解除や大量に買い入れた国債などの資産の圧縮にはリスクも伴う。難しい選択が迫られ、市場では、そのタイミングをねらおうという思惑がうごめく。

市場とは、ありとあらゆる情報が取引材料にされる世界だ。金融政策はもちろん、その判断材料となる物価の動向、そして人事までも。日銀がどういうメッセージを発し、地ならしするのか、市場はそれをどう受け止めるのか。「駆け引き」は続く。

#アベノミクス#リフレ#金融政策#円安政策(出口戦略・YCC・運用柔軟化・NHK「日銀の苦悩と戦略」)

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#日銀(正木一博企画局長・就任)

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