メリカの政治専門サイトは、トランプ政権がキューバへの石油の輸入を全面的に阻止するため「海上封鎖」を検討していると報じました。キューバの体制転換につなげるための新たな戦術だとしています。
目次
3項目
ベネズエラからの供給滞り暮らし困難に
キューバとアメリカ 両国の関係には長く深い溝
専門家「経済崩壊すれば政府はイランのように対応を迫られる」
アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」は23日、複数の関係者の話としてトランプ政権がキューバへの石油の輸入を全面的に阻止するため「海上封鎖」を検討していると報じました。
キューバからの移民の両親を持つルビオ国務長官もこの計画を支持していて「ポリティコ」はキューバの体制転換につなげるための新たな戦術だとしています。
一方、政権内では「海上封鎖」は「全面的な阻止は人道危機を引き起こすおそれがある」として、計画に反対する声もあがっていて、まだ決定は下されていないとしています。
トランプ大統領はベネズエラへの軍事作戦を行ったあとの今月11日、キューバに対して「手遅れになる前に取り引きすることを勧告する」などとSNSに投稿し、圧力を強める姿勢を示しています。
また、有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は22日、トランプ政権は年内のキューバの体制転換を目指しているなどと伝えています。
トランプ政権が南北アメリカやその周辺の「西半球」の安定を重視する姿勢を鮮明にする中、キューバに対する今後の対応が関心を集めています。
ベネズエラからの供給滞り暮らし困難に
キューバでは、アメリカの経済制裁のもとで命綱だったベネズエラからの石油や資金が滞ることで、暮らしがいっそう苦しくなるという不安や不満が広がっています。
ガソリンは、アメリカドルを持っていれば列に並んで入手できるスタンドもありますが、現地通貨ペソでの支払いの場合、事前に申し込んで給油するまでに3か月ほど待たされることもあるということです。
首都ハバナに住む運転手のロラン・ソーサさん(56)は、車のガソリンが手に入らないため仕事ができず、暮らしは苦しくなる一方だと言います。
ソーサさんは「落ち着かなくて眠れなくなっています。想像してみてください。車があってエンジンもかかりますが、何もできないのです。もう13日ほど仕事をしていません。闇市場でもガソリンは姿を消しました。ガソリン代が高ければ、私も料金を高くするしかありません。どうすればいいのでしょう」と話していました。
キューバでは、去年の秋以降、アメリカがベネズエラへの圧力を強める中、配給の食料が以前より手に入りにくくなり、店舗での米や肉、卵などの価格が上昇しているということです。
さらに、このところ深刻なのが停電の影響です。
ハバナにあるガス工場に勤務するメルセデス・ラモスさん(65)のアパートでは、頻繁に電気が止まり、ポンプが機能しないため水も使えなくなります。
いつ停電になるかわからないため、冷凍庫には、保冷剤代わりに凍らせたペットボトルを入れています。
ラモスさんは、息子と2人暮らしで、電気が使えるようになった夜中や早朝の時間帯に、電気コンロで料理を作り置きする生活を続けています。
ラモスさんは「店舗で売られている食料はとても高く、普通のキューバ人にはとても手が届きません。常にモノ不足ではありましたが今は危機的です。停電、食料不足、電力不足、水不足、医薬品不足と、非常に深刻です」と苦しい生活の現状を語りました。
そして「耐えられません。1日だけ、1か月だけの問題ではありません。私たちは長い間、この状況に直面しています。トランプ大統領の対ベネズエラ政策と石油供給の遮断でどんな影響が出るのでしょうか。これまで援助頼みでかろうじてしのいできたのに、援助が途絶えてしまえばどうなるのか、想像もできません」と不安を口にしていました。
キューバとアメリカ 両国の関係には長く深い溝
カリブ海の島国キューバはアメリカ南部のフロリダ半島から150キロほどしか離れていませんが、両国の関係には、長く深い溝があります。
1898年の米西戦争を経て1902年にスペインから独立したキューバはアメリカの実質的な支配下に置かれ、1952年のクーデターで権力を掌握したバチスタ政権もアメリカに従属しながら独裁体制を敷きました。
しかし1959年、フィデル・カストロ氏らが親米のバチスタ政権を倒した「キューバ革命」以降、カストロ政権は、アメリカ資本の企業を国有化するなど、次第に社会主義体制への移行を進めていきます。
アメリカは旧ソビエトの支援を受けるキューバと1961年に国交を断絶しました。
翌年には、アメリカと旧ソビエトとの間で核戦争が起きるのではないかと緊張が高まった「キューバ危機」が起き、キューバは東西冷戦の最前線のひとつとなりました。
東西冷戦が終結したあとも、アメリカから「テロ支援国家」として制裁を受けたキューバは、南米ベネズエラや中国などと関係を深めていきます。
キューバに対し、オバマ政権は2015年に「テロ支援国家」の指定を解除して54年ぶりに正式に国交を回復しましたが、トランプ政権は1期目に続き2期目でも改めて「テロ支援国家」とみなすなど強硬な姿勢で臨んでいます。
今月3日にアメリカがベネズエラで行った軍事作戦のあと、トランプ大統領はSNSにベネズエラからキューバへの石油や資金の供給は一切なくなるとして、「手遅れになる前に取り引きすることを勧告する」と投稿しました。
また、キューバ系のルビオ国務長官について「キューバの大統領になるだろう」という冗談めかした投稿をトランプ大統領は引用して「いいと思う!」と投稿しています。
キューバからアメリカに逃れてきた人たちの中には、アメリカの圧力をきっかけに母国の体制が変わることに期待を寄せる声も聞かれます。
これに対し、キューバ政府は反発と警戒を強めています。
16日には首都ハバナ中心部にあるアメリカ大使館の周辺を政府の呼びかけで大勢の人が行進し、ディアスカネル大統領は演説で「帝国主義者たちよ、われわれはおまえたちを恐れはしない。脅しには屈しない」と述べ、アメリカに対じする姿勢を改めて強調しました。
キューバとベネズエラ 緊密な関係を築くも蜜月は瀬戸際
ベネズエラ ロドリゲス暫定大統領
キューバは1959年のキューバ革命以降、社会主義政権を率いてきたフィデル・カストロ氏のもと、旧ソビエトや中国、それに中南米の左派政権などと連携してきました。
とりわけ冷戦後にキューバが緊密な関係を築いたのが、反米を旗印に国際社会で存在感を放ったチャベス政権下のベネズエラです。
キューバは石油と資金の供給を受ける見返りに、ベネズエラに医療や軍事、治安維持などの分野で人材を派遣していたとされ、ベネズエラでのアメリカ軍の軍事作戦で死亡した32人のキューバの兵士らはマドゥーロ大統領の警護にもあたっていたとみられています。
キューバがフィデル・カストロ氏からラウル・カストロ氏へ、ベネズエラがチャベス氏からマドゥーロ氏へと権力が移っても、両国の関係は続いてきましたが、トランプ政権はベネズエラ側にキューバとの協力を打ち切るよう迫るとみられます。
ただロドリゲス暫定大統領は今月15日の演説で「われわれには、中国、ロシア、イラン、キューバ、世界のすべての国と外交関係を持つ権利がある。アメリカともだ。われわれは主権国家だ」と述べ、キューバとの関係を維持する考えを示しています。
今後、両国の関係にどのような変化があるか不透明ですが、キューバにとってはベネズエラからの石油などの支援が滞れば、経済のさらなる悪化は避けられません。
専門家「経済崩壊すれば政府はイランのように対応を迫られる」
キューバ出身で、フロリダ国際大学キューバ研究所のセバスチャン・アルコス氏は、キューバの経済状況について「かつては世界一だったサトウキビもなくなった。食料や必要な物資を生産していない。輸出をしていないため、輸入のための外貨もない。1950年代には生活水準が高い発展途上国だったが、いまや19世紀に逆戻りしている」と述べ、行き詰まっていると指摘しています。
停電は、首都ハバナでは1週間に20時間を超え、都市部から離れると1日に2時間しか電気が使えない地方もあるということです。
研究所では、ベネズエラから石油が最後にキューバに供給されたのは去年12月6日で、2月末にはなくなってしまう可能性もあると分析しています。
石油の備蓄量が正確に把握できず、原油市場から購入することはできるため枯渇するのは先になるかもしれないとしながらも、ベネズエラはもとより、これまで一定の供給を受けていたメキシコからも入手できなくなり、ロシアから支援を受けることもできないだろうとしています。
そして「トランプ政権は腰を据えてキューバの石油が枯渇するのを待ち、キューバ側の出方を見るだろう。ベネズエラからの供給が途絶え、経済全体が崩壊する可能性がある。停電だけではなく、産業や輸送網全体が機能停止に陥り、キューバの指導部は進路を選択せざるを得ないだろう」としています。
ただ、トップから5年前に退いたラウル・カストロ氏が依然として実権を握り、軍部が力を持っている間は大幅な政策変更は考えにくいとして「時期や場所は誰にもわからないが、石油の供給が途絶え、経済が崩壊すれば、キューバの人たちは抗議行動を起こし、政府はイランのように対応を迫られるだろう」と述べ、キューバが大きな転換点を迎える可能性もあると指摘しました。