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池田 信夫 株主資本主義が日本のIT産業を変える

なぜ経産省は買収防衛策を講じるのか。答は一つだ。現在の日本企業が効率的な経営をしていないからである。つまり、問題は株主ではなく、こんな経営を続けている経営者と、それを守ろうとしている役所にあるのだ。

 日本の下請け構造は、こういう問題を解決するのに適していた。親会社を頂点にした下請け・孫請けのピラミッド型の系列構造があるが、こうした企業は子会社ではないので、売れ行きが落ちたら切ることもできる。とはいえ通常は長期にわたって取引するので、設計段階から協力して、品質管理をしやすい。

 1980年代には、こうした「日本的経営」が賞賛された。経営学マイケル・ポーターは、日本にはアメリカのように短期的な利益を求める株主の圧力がないため、経営者は長期的な視野から多くの企業と協力して業務を進められるのだ、と株主資本主義を批判した。日本の銀行には「メインバンク」として企業を指導するエリートが集まり、大蔵省や通産省のエリート官僚と一体になって、世界最強の「日本株式会社」を運営している、といったイメージが世界に広がった。

 しかし1990年代に入ると、こうした日本礼賛論は消え去った。最大の長所だったはずのメインバンク・システムが、バブル崩壊後の不良債権問題によって崩壊したからだ。本来なら、経営破綻した銀行を整理し、経営の悪化した企業を資本市場で処理するチャンスだった。しかし、どうしていいか分からなかった大蔵省は、ひたすら問題を隠して処理を先送りし、責任を逃れようとした。その結果、日本の全銀行の不良債権(純損失)は100兆円を超える規模に膨れ上がり、日本経済は大打撃を受けた。

いくつかの銀行は破綻したが、大部分の銀行は数十兆円の公的資金によって救済され、整理されるべき古い企業と古い系列が残ってしまった。

外資系ファンドによる企業買収は系列構造を壊し、企業を解体・再編するきっかけになるかもしれない。買収防衛策を強化するのは、そうした変化を妨害する政策である。

 もちろん、株主資本主義が万能というつもりはない。特に、IT産業の世界では、株主資本主義の限界も見え始めている。

 その代わり重要になってきたのは、社風(corporate culture)と社員のモチベーションだ。

 日本の会社も「人本主義」などと賞賛された時期があったが、日本の企業が大事にしているのは、自立した個人ではなく、会社に忠実な「従業員」だ。そして従業員も、その会社や仕事が好きで一生そこにいるわけではない。